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  • 2022/07/26 掲載

オードリー・タンの知られざる半生、世界が惚れ込む「天才」の基礎はこうして作られた

連載:企業立志伝 番外編

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2020年、世界中が新型コロナウイルスの感染拡大におびえる中、最も注目された人物の1人が台湾のデジタル担当大臣を務めるオードリー・タン(唐鳳)氏でした。コロナ禍をきっかけに、日本でもその名が知られるようになったタン氏は、2019年には米外交誌が毎年発表する「世界の頭脳100人」に選出されるなど、世界的にも注目されています。IQは180以上とささやかれ、中学校以降は学校に通わず、16歳で会社経営に参画、台湾史上最年少で大臣就任と、異彩を放つ半生をたどると、「オープンな政府」「誰も取り残さない社会」を目指すタン氏の基礎が見えてきました。

経済・経営ジャーナリスト 桑原 晃弥

経済・経営ジャーナリスト 桑原 晃弥

1956年広島県生まれ。経済・経営ジャーナリスト。慶應義塾大学卒。業界紙記者を経てフリージャーナリストとして独立。トヨタからアップル、グーグルまで、業界を問わず幅広い取材経験を持ち、企業風土や働き方、人材育成から投資まで、鋭い論旨を展開することで定評がある。主な著書に『世界最高峰CEO 43人の問題解決術』(KADOKAWA)『難局に打ち勝った100人に学ぶ 乗り越えた人の言葉』(KADOKAWA)『ウォーレン・バフェット 巨富を生み出す7つの法則』(朝日新聞出版)『「ものづくりの現場」の名語録』(PHP文庫)『大企業立志伝 トヨタ・キヤノン・日立などの創業者に学べ』(ビジネス+IT BOOKS)などがある。

大企業立志伝 トヨタ・キヤノン・日立などの創業者に学べ (ビジネス+IT BOOKS)
・著者:桑原 晃弥
・定価:800円 (税抜)
・出版社: SBクリエイティブ
・ASIN:B07F62BVH9
・発売日:2018年7月2日

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なぜ、オードリー・タン氏は世界中から注目されるのか?
(写真:AP/アフロ)


先天性の心臓病を抱え、家で読書に夢中になった幼少期

 タン氏は1981年、台湾の首都・台北市で共に新聞記者だった父・唐光華氏、母・李雅卿氏の長男として生まれます。生理学的には男性で「唐宗漢」という名前でしたが、24歳でトランスジェンダーであることを公表、名前も「オードリー・タン」(唐鳳)と改名しています。

 タン氏は生まれて40日後、先天性の「心室中隔欠損」(生まれながらに心臓の壁に穴があいている病気)と診断されます。ある程度成長するまでは手術をすることができず、それまでは薬を飲み続けるだけでなく、「なるべく泣かせたり、風邪をひかせたり、激しい運動をさせないように」(『オードリー・タンの誕生』p31)と医師の診断を受けます。

 心臓に病を抱え、外で遊ぶことができず、自然と家の中で過ごすことの多かったタン氏の自宅には、幸いにも父親の膨大な書物がありました。最初は母親などに読み聞かせてもらっていましたが、3歳の頃には子ども向けの本を手に取って自分で読むようになり、子ども向けの百科事典を一字一句記憶するほど夢中になっていました。

 早くから漢字やアルファベットが読めるようになり、数の計算もできるようになったタン氏は、4歳から幼稚園に通うようになると、「どうして、みんなと同じことをしなければならないんだろ」(『オードリー・タンの誕生』p33)と戸惑いを感じるようになります。

 みんなと外で遊ばず、1人で本を読むことの多かったタン氏は、ほかの園児から仲間はずれにされるようになり、2回転園して3つの幼稚園に通っています。


集団生活に悩み続けた小学生時代

 「学校になじめない」という感覚は小学校に入学してからも変わることはありませんでした。家ですでに連立方程式を解くまでになっていたタン氏にとって、学校の授業は退屈極まりないものでした。「先生は自分の知らないことを教えてくれると思っていたのに、どうして知っていることばかり教えるんだろう」(『オードリー・タンの誕生』p38)がこの頃のタン氏の疑問でした。

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タン氏は小学生の授業でも続いた戸惑いについて、のちに振り返っている
(写真:The New York Times/Redux/アフロ)


 そして先生の教える「1+1=2」に対して、「2進法なら答えは変わります」と指摘したことで、タン氏は「算数の授業の時には、教室ではなく図書館で本を読んでいてもいい」と言われてしまいます。それは退屈な授業からの解放を意味しましたが、一方でタン氏にとっては集団から引き離される寂しい経験でもありました。

 突出したIQの持ち主だったタン氏は、2年生から優等生だけを集めた「ギフテッド・クラス」のある小学校に転校します。ギフテッドとは、生まれつき一般的な人々よりも卓越した才能を持つ人々を指す言葉です。

 勉強ができるタン氏は学級委員長になりますが、1番になれない同級生から「お前なんか死ねばいいのに、そしたら1番になれるのに」(『オードリー・タン』p62)というひどい言葉を投げつけられてもいます。教師による体罰やいじめもありました。当時のことをタン氏はこう振り返っています。

「(夜、眠る時)必ずしも目覚めるとは限らないという感覚がありました。明日まで生きられるだけで満足で、大きくなったら何になりたいかなど考えたこともありませんでした」
(『オードリー・タンの誕生』p66)


 学校は休みがちで、独学で学び始めたパソコンとプログラミングだけがタン氏の唯一の楽しみでした。

【次ページ】ドイツ留学で学んだ教育の違い。中学進学時に抱いた「台湾の教育を変えたい」という思い

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