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  • 2023/11/01 掲載

中東情勢悪化が「超・円安」を引き起こす理由、日本が絶対避けたい“最悪の展開”とは

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中東情勢が緊迫化している。今のところ市場は様子見の構えだが、下手をすれば第5次中東戦争になりかねない事態と言える。中東情勢の金融市場への影響について探った。

執筆:経済評論家 加谷珪一

執筆:経済評論家 加谷珪一

加谷珪一(かや・けいいち) 経済評論家 1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『新富裕層の研究-日本経済を変える新たな仕組み』(祥伝社新書)、『教養として身につけておきたい 戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。

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中東情勢の緊迫化が金融市場に与える影響とは?
(Photo/Getty Images)

市場はイスラエルの出方を注視している

 パレスチナ自治区ガザを実効支配するハマスは2023年10月、イスラエルに向けて多数のロケット弾攻撃を行ったほか、ガザとイスラエルの境界に作られた壁を破壊しイスラエル領内に侵入した。多くのイスラエル人を殺害したほか、人質として250人以上がガザに連れ去られたと報道されている。

 イスラエル側はただちに部隊を編成し、地上戦の準備を進めている。米国のバイデン大統領は10月18日にイスラエルを訪問し協議を行ったが、地上戦は避けられそうにない。もっとも金融市場は一連の事態に対して静観の構えを見せており、原油市場や為替市場、株式市場はあまり動いていない状況だ。

 これはイスラエル側がガザ地区に対してどのような軍事行動を起こすのか見極めていることが主要因であり、今後の展開次第では金融市場が大きく動く可能性は十分にある。

 市場動向の鍵を握るのは、イスラエルの軍事作戦に加え、米国とイラン、そしてサウジアラビアの動きだろう。

 ハマスの背後にイランがいることは周知の事実となっており、イランはレバノンのシーア派組織であるヒズボラにも支援を行っている。イランはイスラエルに対して軍事行動が一線を超えた場合には介入する用意があると発言しており、イスラエルの出方次第では、イランが本格的にヒズボラやハマスの支援を行う可能性を示唆している。

 中東のイスラム社会を大きく分けると、ペルシア人の割合が高くイスラム教シーア派が多数を占めるイランと、人種的にはアラブ人の割合が高く、スンニー派が多数を占めるアラブ諸国で構成されていると考えて良い。現在、アラブの盟主的な立場にあるのはサウジアラビアで、同国は米国の仲介でイスラエルとの関係正常化交渉を行っていた。だが今回の軍事衝突でサウジアラビアは一旦、交渉のテーブルから降りる決断を行っており、様子を見極めたいとの思惑が見え隠れする。

 同じイスラム社会と言っても、イランとサウジアラビアは人種も宗派も異なるため対立を続けてきたが、昨年、中国の仲介によって関係正常化が実現するなど、中東情勢は大きく変わりつつある。今回の軍事衝突は、戦後、一貫して続いてきた米国中心の中東情勢が変化している最中に発生しており、今後の市場動向を考える上でも、中国が台頭しているという事実は重要だ。

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今回の軍事衝突は、戦後、一貫して続いてきた米国中心の中東情勢が変化している最中に発生した。今後の市場動向を考える上で中国の存在は無視できない
(Photo/Shutterstock.com)

第4次中東戦争との最大の違い

 戦後70年にわたって米国はイスラエルの支援を続けており、過去の中東戦争はアメリカを後ろ盾とするイスラエルとアラブ各国の争いという図式で成り立ってきた。今回、市場が様子見のスタンスを見せているのも、過去の大きな枠組みが変化しつつあり、中東情勢がどう推移するのか読みにくいことが背景にある。

 たとえば、従来の枠組みで物事を考えた場合、中東で軍事衝突ということになると、多くの市場関係者がイメージするのはオイルショックである。1973年に発生した第4次中東戦争では、サウジアラビアがアラブ各国に協力する目的もあり、原油価格を一気に引き上げたため、世界経済は激しいインフレに見舞われた。

 当時は「原油価格上昇」と「ドル安」が同時に発生したことから、為替市場では円が上昇するというシナリオが描きやすくなる。だが今回、軍事衝突が発生したとしても、同じに流れになるとは限らない。その理由はドルと米国の立ち位置が当時とは大きく変わっているからである。

 73年当時は、オイルショックの前にニクソンショック(金とドルの兌換停止)が発生しており、ドルの信用不安が最高潮に達している中での戦争となった。戦争自体は1カ月で停戦となったものの、その後、長期にわたって激しいドル安と原油価格上昇が世界経済を苦しめたが、今の状況は異なる。

 アメリカの中東におけるプレゼンスは著しく低下しており、サウジアラビアとイランの和平を中国が仲介するなど、中国の存在感が大きくなりつつある。米国は以前のような形で全面的にイスラエル支援を実施するのは難しく、そうなるとサウジアラビアをはじめとする産油国各国が米国と完全に敵対する可能性は低くなる。一方、地政学的な米国のパワーは低下しているものの、米ドルの力は当時よりもはるかに強力だ。

 現在の国際金融システムは、完璧なドルの基軸体制となっており、ドルの圧倒的な一強状態が続く。米国は量的緩和策から脱却し、金融を正常化するため金融引き締めを実施している。これによって米国の金利は上がっており、市場ではドルの独歩高が続く。一方、円は日銀が量的緩和策を継続していることもあり、対ドルでの下落は他通貨よりも激しい。 【次ページ】ドル高と原油高の両方が同時発生する可能性も

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