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  • 2023/11/24 掲載

急拡大する「インシュアテック市場」を矢野経済研究所が解説、3つの攻めの保険DXとは

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生命保険分野は、さまざまな規制も相まってDXが進みにくいとみられている。しかしながら、フィンテックの潮流を受け、2017年前後から徐々に生命保険分野においてもInsurTech(インシュアテック)の波が登場。当初はさざ波であったものの、今やその波は、保険商品はもちろん、募集行為や引受査定、支払査定、そしてIT基盤に至るまでさまざまな領域へと広がってきている。そこで本連載を通じて、これから本格的に盛り上がりを見せていくインシュアテック市場についてデータに基づく調査を中心に解説する。

執筆:矢野経済研究所 ICT・金融ユニット 主任研究員 山口泰裕

執筆:矢野経済研究所 ICT・金融ユニット 主任研究員 山口泰裕

2015年に矢野経済研究所に入社後、主に生命保険領域のInsurTechやCVCを含めたスタートアップの動向に加えて、ブロックチェーンや量子コンピュータなどの先端技術に関する市場調査、分析業務を担当。また、調査・分析業務だけでなく、事業強化に向けた支援や新商品開発支援、新規事業支援などのコンサルティング業務も手がけている。

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日本における生命保険DXとInsurTech
(Photo/Shutterstock.com)

生命保険領域におけるインシュアテックとは?

 第1回目となる本稿においては、インシュアテックに関する全体像について概観してみたい。まず矢野経済研究所が定義する、インシュアテックについてである。

 当社では、市場規模を算出する都合上、8つの領域をインシュアテックと定義している。具体的には、まずコアとなる領域(保険商品・サービス)として、「パーソナライズ化された(健康増進型)保険商品・サービスの開発」「疾病管理プログラム」がある。

 他方、業務の効率化・高度化に関する領域として、「AIなどを活用した保険相談/保険営業支援サービス」「AIを活用したアンダーライティング(引受)の自動化」「受診勧奨から受診、異常告知を受けた場合における診療までのトラッキング」「契約者および契約者の家族向けアフターサービス」「支払査定の自動化関連ソリューション」「インフラ関連サービス」──という8領域を生命保険分野におけるインシュアテックとしている。

領域 分野
コアとなる領域(保険商品・サービス) (1)パーソナライズ化された(健康増進型)保険商品・サービスの開発
(2)疾病管理プログラム
業務の効率化・高度化に関する領域 (3)AIなどを活用した保険相談/保険営業支援サービス
(4)AIを活用したアンダーライティング(引受)の自動化
(5)受診勧奨から受診、異常告知を受けた場合における診療までのトラッキング
(6)契約者および契約者の家族向けアフターサービス
(7)支払査定の自動化関連ソリューション
(8)インフラ関連サービス
(出典:矢野経済研究所)
 インシュアテックの推進の仕方としては、業務効率化を中心に大手ITベンダーの支援を受けながら自社内で推進しつつ、特に新しい領域の開拓に向けた動きは、スタートアップなどと協業することでその動きを加速させていく動きも増えている。

 こうした8つの領域の動向に加えて、最新の技術動向が生命保険領域に与える影響度合いなどについて本連載では押さえていく。

2022年前年比134.9%の2,470億円、2024年に3,180億円

 まずは8領域を合計した国内インシュアテック市場規模予測(サービス提供事業者売上高ベース)は2022年度で2,470億円を見込む。まず保険商品の面では、個人向けに留まらず、大手を中心に法人向けの商品・サービスも、中堅・中小企業向けの健康経営の推進支援や、経営者を含め全社員の健康増進を図ることを目的とした商品・サービスが徐々に出てきており、広がりを見せている。

 特に不妊治療の保険適用なども影響し、生命保険会社は相次いで関連スタートアップと協業、女性向けの健康増進関連サービスが充実してきている。一方、業務効率化の面では、大手を中心により一層、AIやOCRなどを活用した事務手続きの自動化や請求処理の迅速化が進んでいる。

 また、支払査定における不正検知や、引受査定などの効率化・高度化を目的としたAIの導入が進んでいる。このほか、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進に向けたクラウド化が進んでおり、2023年度から2024年度にかけて個人向けにおいては健康増進から重症化予防までトータルでサポートするなど保障範囲を広げた保険商品が広がりをみせるほか、大手を中心にエコシステムの構築、拡充に向けた動きが活発化していくものとみる。

 加えて、大手生命保険事業者を中心に、若年層(ミレニアル世代やZ世代)の開拓に向けて少額短期保険事業者の買収や新規での立ち上げ、ミニ保険の開発にも着手、話題となる少額短期保険なども出てきている。他方、業務効率化についても、従来大手を中心に広がりを見せていたものの、中堅規模の生命保険会社にも波及、急速に事務手続きの自動化や請求処理の迅速化に向けた動きが活発化していくものとみており、こうしたことなどから2024年度には3,180億円に達するものと予測している。

画像
国内InsurTech市場規模推移予測(2018年度~2024年度、億円)
(出典:矢野経済研究所、「生命保険領域における国内InsurTech市場に関する調査を実施(2022年)」(2022年11月)より抜粋)

攻めと守りのDX、大手中心から中堅生保に徐々に波及

 各領域の詳細については次回以降で随時、記載していくため、ここでは少し切り口を変えてDXの観点からインシュアテックをみておきたい。生命保険会社のDXについては、革新的なサービスの創出や募集活動に関連した「攻めのDX」と、各種手続きの電子化を始めとした「守りのDX」とに大別される。

 双方のDXについて各社ともにさまざまな取り組みが始まっている点に加えて、業界横断的な取り組みも徐々に出てきている。

 たとえば医療ビッグデータの取扱いに関連した動きとして、生命保険分野からの参画はまだ一部に留まるもののデータ活用を推進する金融データ活用推進協会(FDUA)が、保険Meetupや保険×データ活用に関する意見交換会を定期的に開催しているほか、2023年2月にはFINOLABなどがノーコードプラットフォームを活用した埋込型保険APIハッカソンが開催された。

 これまで自社内での取り組みを基本としてきた生命保険業界において業界横断やハッカソンなど外部との接点を持ち始めたというのは、革新的な出来事といっても過言ではないだろう。

 さて、次項から各DXについて少し掘り下げてみたい。 【次ページ】3つの側面からみた攻めのDX─サービス/募集/IT基盤

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