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  • 2019/12/13 掲載

STOとは何か?ICOと何が違う?デジタル証券は新たな資金調達手段となるか

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海外、主に北米を中心にセキュリティトークン(Security Token:デジタル証券)市場が拡大を続けている。日本でも2019年5月に「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」が成立し、新たに「電子記録移転権利」という概念を導入して、配当・投資を目的として発行されるトークンが電子記録移転権利として金融商品取引法の適用対象となる旨が明確化された。そこで本稿ではそもそもセキュリティトークンとは何なのか、またこれを活用したSTO(Security Token Offering)にはどのような可能性があるのかを解説していこう。
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STO(Security Token Offering)の可能性とは?
(Photo/Getty Images)

セキュリティトークンとは? ユーティリティトークンとの違い

 STOとは“Security Token Offering”の略称であり、ブロックチェーン技術を活用し、企業が資金調達を行う仕組みを指す。ここでいうSecurityの日本語訳は安全ではなく、有価証券の意味で使われている。

 ブロックチェーンの活用では暗号通貨や仮想通貨が有名だが、これらはユーティリティトークンと呼ばれ、それ自体が特定の価値や権利を有し、トークンを使うことにより特定のサービスを受けられる。

 これに対し、セキュリティトークンはブロックチェーン上で発行されたトークンを用いて「証券が持つ価値」を表したものとなる。詳細は後述するが、ユーティリティトークンよりも厳しく規制されていることも大きな特徴である。セキュリティトークンは既存の証券化ビジネスの延長線上にあると言え、既存の証券や債券と本質的には同質である。

 このセキュリティトークンを用いたオファリング(売り物)であるSTO市場は拡大を続けており、Inwara社によれば、2018年第1四半期には14件だったSTOの数は、2019年第1四半期には47件まで増加したという。

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STO案件数推移

ICO(Initial Coin Offering)とは何が違うのか?

 では同じく資金調達を目的としたICO(Initial Coin Offering)とSTOは何が違うのだろうか。通常、投資家がICOで用いられるユーティリティトークンに投資すると、保持者は特定のシステムへアクセスが可能になったり、何らかのサービスへのアクセスが可能になるなどのメリット(何らかの権利)が得られる。

 一方、セキュリティトークンにはユーティリティ性がないものも多く、また投資家に具体的な使い道を与えるのではなく、通常、発行した会社の株式や発行した会社に対する債権のみを表す。

 STOをICOと比較すると、トークンが表すものの違いのほか、以下のような違いがある。

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STOとICOの機能比較

 まず、発行時に必要とされる書類について、ICOの場合は“ホワイトペーパー”と呼ばれる発行主体公式のプロジェクト概要書が発行される。ここにはプロジェクトの概要や計画、集まった資金の使途などが記載されるが、あくまでも簡易的な文書となる。

 一方で、STOは株式やその他一般的な金融商品と同じく、目論見書や投資契約書等が必要とされ、さらにトークンの販売価格についても、資産や事業の裏付けから合理的に算定されるものとなっている。

 基本的にSTOは発行国の金融商品に係る規制に準じ、流通性が低いと判断されるようなものを除いて開示規制が課されることとなっているわけだ。

 そのため、機関投資家が参入しやすいものの、多くの国において現在購入が可能なのは一定以上の水準を満たす適格投資家に限定されており、一般投資家は購入できない点には注意が必要である。なお国内において現時点で制限はない。

 STO本来の特徴やメリットを生かしきるには、一般投資家にも幅広く門戸が広げられることが本来望ましいが、投資家保護、市場の健全性確保の観点から多くの課題が残されているのが現状だ。

セキュリティトークンのメリット

 セキュリティトークンのメリットとして、まず挙げられるのは“即時性”である。既存の証券決済においても、長年にわたるスピード化により、 T + 5(取引日+ 5営業日)からT + 3に移行し、最終的にはT + 2へと短縮化されたが、いまだ即時決済とはいかない。

 そのため、たとえば木曜日の午後に証券を販売した場合、取引は次の月曜日まで(合計4日間)決済されない場合がある。

 また所有している不動産を売却したい場合、買い手の準備が整っていても、取引が完了するまでに数週間から数か月かかることがある。購入者は販売者が通常早く売却したいことを知っているため、値下げを要求し、販売者は飲まざるを得ない状況になっているケースも多いのではないだろうか。

 加えて、トークンの設定方法によっては、グローバル市場での取引も可能になるなど、流動性の向上も大きなメリットとして挙げられる。

 たとえば国内の投資家が、マウスを数回クリックするだけでニューヨークの不動産の権利を簡単に購入できるようになれば、以前は困難だった資産を購入する機会につながるだろう。

 さらに、このような流動性の向上の先には、商業ビル、未公開株、社債、ビル、戸建て住宅、および分散型ネットワークの所有権が同じプラットフォームで取引され、単一のインターフェースを介して、すべての資産クラスがグローバルで流動化できる可能性がある。

 そのほか、不動産や美術品のように、物理的にはそれ以上細かく分けることのできない資産も、所有権自体をトークンという単位に細分化できる。たとえば、ある物件の1%を所有し、相応の配当(不動産賃貸所得)を受け取る、などといった従来であれば複雑な処理も、トークン化された物件であれば容易に実現できるだろう。

 証券取引の最も難しい側面の1つは、規制の順守である。これは規制が資産の種類、投資家の種類、および買い手/売り手/発行者の管轄によって異なる場合があり、一連の取引や顧客情報、別個のデータベースを通じて規制順守を文書化する必要があるためである。

 セキュリティトークンはこれらの自動プログラム化が可能であり、コンプライアンスをトークンに直接組み込むことができる。SecuritizeやPolymath、Harbor(注2)のような法律に準拠したプロトコルをtZERO、0x(ゼロックス)などと連携させれば、規制準拠の時間的・費用的コストが大幅に軽減され、これにより、コンプライアンスが指数関数的に軽減されることとなる。

セキュリティトークンの課題

 セキュリティトークンのメリットについては前述の通りだが、課題もある。まずSTOはICOと比べると手続きや要件が煩雑であり、また元となる資産が証券であるため、各国の法規制に則って発行する義務がある。

 したがって取引の場を提供する側も必要なライセンスを取得しなければならず、トータルでの発行コストが高くならざるを得ない。

 特に、コンプライアンス面の体制構築や本人確認(KYC)、情報開示の負担が大きくなると想定され、従来のICOのような自由度の高い資金調達法ではない。

 また株式や債券と異なり、各国の法規制が明確に定まっておらず、不透明である点、またブロックチェーン上におけるタイムスタンプが持つ法的意味合い(現状、確定日付とならない)、さらにトークンの管理手法、セキュリティ対策など実用化へ向けた課題も残存している。

【次ページ】大手取引所も取り扱いを開始
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