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  • 2024/05/01 掲載

イーロン・マスクの超・巨額報酬「8兆円」でバレた、絶不調テスラの「根深い問題」

連載:米国の動向から読み解くビジネス羅針盤

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米EV大手テスラの総帥であるイーロン・マスク氏に支払われる、8兆円以上という前代未聞の巨額報酬。これは、実現不可能と思われながらもテスラの時価総額目標を達成した成功報酬だ。だが、この報酬の決め方に問題があったとして1月に無効の判決が出された。マスク氏は控訴する意向だが、市場関係者らはこの巨額報酬の動向が今後のテスラの業績や株価を左右すると見ている。マスク氏自身も「高額報酬がもらえないならイノベーションできない」と主張するほどだ。そこで今回、マスク氏への成功報酬とテスラの経営との関係と今後の動向を読み解く。
執筆:在米ジャーナリスト 岩田 太郎

執筆:在米ジャーナリスト 岩田 太郎

米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の基礎を学ぶ。現在、米国の経済を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』などの紙媒体に発表する一方、『Japan In-Depth』や『ZUU Online』など多チャンネルで配信されるウェブメディアにも寄稿する。海外大物の長時間インタビューも手掛けており、金融・マクロ経済・エネルギー・企業分析などの記事執筆と翻訳が得意分野。国際政治をはじめ、子育て・教育・司法・犯罪など社会の分析も幅広く提供する。「時代の流れを一歩先取りする分析」を心掛ける。

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図1:テスラの営業利益率は2022年の17%から2024年には8.7%にまで下落する予想
(出典:Barronsより編集部作成)

トヨタの時価総額が“再び”テスラを追い抜く?

1ページ目を1分でまとめた動画
 2023年後半からの世界的なEVシフトの失速により、テスラの業績が不調だ。2024年1~3月期の販売台数は38万7000台と、市場予想の44万9000台を大きく下回った。また営業利益率は2024年1~3月期で5.5%と、トヨタ自動車の11.13%を下回る。ブルームバーグによる2024年の営業利益率予想ではそれぞれ8.7%、11.9%の見込みだ(冒頭の図1)。2022年はテスラが17%だったのに対し、トヨタが8%だったことを考えればその「没落ぶり」は鮮明である。

 これを受けて、株価も下落。時価総額では4月13日時点で上昇傾向のトヨタが3,961.8億ドルに対し、急落中のテスラは5,359.8億ドル。米金融データ調査企業のファクトセット・リサーチが算出した、テスラの時価総額をトヨタの時価総額で割った比率の推移を見ると、一時は5倍近くに達したが、現在は1.5倍にまで詰められている(図2)。トヨタを抜く大逆転を演じたテスラが、再びトヨタにトップの座を明け渡す「第二幕」へと向かう様相である。

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図2:トヨタの時価総額は再びテスラを追い抜きそう?
Barronsより編集部作成)

 一方、企業の将来の成長や利益に市場がどれくらい高い期待を寄せているかを示す株価収益率(PER)では、テスラが4月12日現在で39.69と極めて高く、トヨタは10.35に過ぎない。テスラへの投資家の期待は依然として高いことがわかる。しかし、テスラの販売成績が失速する前の2023年9月30日に80.46、ピーク時の2021年12月31日には215.67であったことを鑑みると、市場の期待が急速にしぼんでいるのは明らかだ。

 だがテスラは、「弊社は今、2つの大きな成長の波の間にいる」との見解を示している。つまり、低迷の後に再び急成長が訪れるということだ。しかし、投資情報サイトの米バロンズは4月3日付の記事で、「2023~2026年におけるテスラの売上・収益成長は本の数カ月前の予想である25%から15%に引き下げられている。一方、トヨタの同期間の成長予測は20%だ」と指摘した。つまり、この先数年で次の大きな成長が見込めないということだ。

テスラ株が買いの理由「実はEVに関係なし」

 このようなテスラの低迷を、ここが押し目買いのチャンスとばかりに同社株を買い増ししているのが、「ハイテク株の女王」として有名な投資家のキャシー・ウッド氏である。ウッド氏は、テスラが独自AIで完全自動運転を実現する最短距離にいると見ている。自動運転のロボタクシーで業界をリードすることに賭けているのだ。

 前述のバロンズの記事は、「ある銘柄の評価はその企業のナラティブ(物語)で決まる。テスラ神話によれば、同社は自動車メーカーを超えた存在であり、ソフトウェア・ロボット工学・エネルギー・AIを手掛ける会社がたまたまクルマも作っているに過ぎないということになる」と解説した。

 ウッド氏をはじめ、多くの市場関係者は「テスラの時価総額のうち、ほぼすべてが自動運転技術への期待から生み出されている」との見解で一致している。たとえば米調査企業DataTrekの共同創業者であるニコラス・コーラス氏は、「テスラが『買い』である理由は、実はEVには関係ない」と断言した。

 またウッド氏は、ロボタクシーが2030年までに9兆ドル(約350兆円)の年間売上を生み出すと見ている。テスラの時価総額は、ロボタクシーへの期待で成り立っているようなものだ。逆に言えば同社のAIや自動運転が期待外れな代物であれば、テスラ株の価値は大部分が削がれてしまう。

 それをよく理解するマスクCEOが、売上減少による株価低迷に歯止めをかけるため、8月8日にロボタクシーのお披露目を行うと発表したのは自然な成り行きであった。自動運転はテスラの株価の根幹を成すからだ。そして特に重要なのが、マスク氏の報酬が株価(時価総額)と表裏一体であることだ。

 ではここで、マスク氏の成功報酬を無効とした裁判について解説しつつ、その判決がこれからのテスラの経営や株価にどう影響を与えるのか考察しよう。 【次ページ】罰を下された、テスラの「本質的な問題」とは

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