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2017年05月22日
日本の農業の危機に挑む、二人の企業家がその想いとビジョンを語る 【農業スタートアップ対談】日本の食を未来に繋ぐ

急激な気候変動や世界的な人口増、大量生産からくる安全性の問題など、世界はいま「食」に関する大きなリスクを抱えている。そんな中、依然として多くの食糧を海外からの輸入に頼る日本。中でも農業は海外からの安い輸入品に太刀打ちできず、生産者の多くは廃業や縮小を余儀なくされている。苦境に立つ日本の農業に、就労人口の減少や生産者の高齢化のさらなる重い課題が差し迫っている。こうした難題に対し、最新のテクノロジーや、今までにないビジネスモデルで立ち向かおうと奮闘する人達がいる。日本が持つ高い技術や、最新のIT技術などを駆使し、生産、流通の両面に革新を起こそうとする「農業スタートアップ」の存在だ。彼らはいま何を考え、何を変えようとしているのか。生産面、流通面から日本の農業の革新挑む二人の起業家、メビオール 森 有一 氏、アグリゲート 左今 克憲 氏に「日本における農業の未来」を語ってもらった。


【動画】社長対談 〜 日本の食を未来に繋ぐ 〜


25年で6割減、危機的状況にある日本の農業

 食料自給率が34%(カロリーベース)と、依然として食の多くを輸入に依存する日本。その中でも「農業」は危機的状況にあると言える。とりわけ農業従事者の人手不足と高齢化は、日本の食の将来に関わる深刻な課題だ。
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農業従事者の高齢化と後継者不足により日本の農業は危機的状況にある。




 農林水産省がまとめた「農林業センサス」によると、2010年(平成22年)の基幹的農業従事者は205万人、平均年齢は66.1歳で、1995年(平成7年)の256万人から50万人以上減少している。

 さらに2016年(平成28年)になると、基幹的農業従事者は158.6万人と約4分の1に減少、平均年齢は66.8歳と高齢化しており、状況はより深刻になっている。

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日本の基幹的農業従事者数は減少の一途をたどり、高齢化が進む

(資料:農林水産省「農林業センサス」)


 政府は、就農前の研修資金や、独立・自衛で農業をはじめる人向けの人材投資や資金の無利子貸し付け、あるいは雇用就農に対する支援といったさまざまな政策で就農をサポートしているが、農業就業人口は、29歳以下、30歳〜34歳、35歳〜39歳の各世代で前年を下回っており、思うような成果には至っていない。

 こうした農業の「担い手」が増えない問題の背景には、構造的な問題がある。つまり賃金は安く、売上、収益性も低いとなれば、農業を志す若者が減るのは無理もないことだ。

 この状況を変えるためには、農業を「儲かる農業」へと変えていく必要がある。農業の構造転換について、政府は、持続的な成長戦略として農業の「6次産業化」を掲げ、官民連携の取り組みによって市場規模を10兆円規模まで成長させる目標を掲げている。

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農業の高付加価値を目指し、生産(1次産業)、加工(2次産業)、流通(3次産業)までを垂直統合する、農業の「6次産業化」が急務となっている


 6次産業とは、1次産業である農業の高付加価値を目指すもので、加工(2次産業)、流通(3次産業)までを垂直統合すること。農産物のブランド化や流通、販売までの中間コスト削減といったメリットに加え、ブランド作物の開発やマーケティングといった相乗効果が見込まれる。

 その一方で、中間の流通事業者を通さない直販ならではの販路拡大の難しさや、広告・販促費が利益を圧迫するケースも指摘されている。高付加価値を目ざす反面、コストや手間がかかり、かえって効率化を阻害してしまうというケースも見受けられ、なかなか一筋縄でいかないのが実情と言えよう。

農業版のユニクロ「 SPF 」 を目指す

 こうした先行きの見えない日本の農業にも光明はある。日本の農産物の品質の高さは、海外でも広く認識されており、ブランド化した農作物も数多い。多角化など積極的な経営を行う農家も現れている。

 こうした日本の農業を革新するべく流通面から新しいアプローチを行っているのが、「未来に、『おいしい』をつなぐ。」の理念のもと、2010年1月に設立されたベンチャー企業のアグリゲートだ。

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アグリゲート 代表取締役 左今克憲 氏


 同社は生産から販売までを統合、管理する垂直統合型のビジネスモデル「SPF(Specialty store retailer of Private label Food)」を標榜している。

 これはユニクロをはじめとするアパレル小売業が成功した「SPA」(Specialty store retailer of Private label Apparel:生産流通小売業)と呼ばれるビジネスモデルを農産物の小売に取り入れたもの。農作物の流通にITを取り入れ、生産者やバイヤーと直接ITを通じてつながることで、より早く情報を共有する仕組みを構築している。

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アグリゲートは農業のユニクロ、生産から販売までを統合、管理する垂直統合型のビジネスモデル「SPF(Specialty store retailer of Private label Food)」を目指す


 アグリゲート 代表取締役 左今克憲 氏は「東京は食べ物の値段が高く、あまりおいしくないものが多かった。そこで、都市の食生活を豊かにするためのサービスを創出したいと思った」と語る。

 アグリゲートでは、仕入れた野菜を販売する小売店「旬八青果店」の企画、運営を手がけている。「美味しい青果が手に入りづらい都市の暮らしに、こだわりぬいた旬の青果を届ける」ことをコンセプトに、「新鮮・おいしい・適正価格」にこだわる地域密着の八百屋を東京都内に10店舗展開する。

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(クリックで拡大)

アグリゲートが運営する八百屋の「旬八青果店」。店内には、全国各地から、その時期に旬な野菜を仕入れてきた野菜が並ぶ


 出店エリアは、都内の目黒区、渋谷区、港区など、地域を絞って集中的に出店する「ドミナント戦略」をとっている。さらに、生産から販売までの情報を管理できるモバイルのオリジナルアプリを開発。生産者が生産活動、販売活動を効率化するIT戦略と、味と品質にこだわった品揃えを低価格で届ける小売戦略があいまって、急成長を続けている。

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アグリゲートでは農や食に関わる教育事業「旬八大学」も展開する。


砂漠に野菜が育つ、フィルム農法を開発

 一方、新たなテクノロジーで生産面に革新を起こそうとしているのが、メビオールだ。同社 代表取締役社長の森有一 氏はメディカルバイオの専門家で、高分子膜技術を用いた血液浄化、酸素富化といった医療技術の開発に長年携わってきた。

 この技術を植物栽培に応用し、土を使わずに作物を育てることができる「ハイドロメンブラン」という吸水性薄膜を開発。「アイメック」と呼ばれるフィルム農法により、1995年にメビオール社を設立した。

「アイメック膜には、ナノサイズの穴が無数にあいており、バクテリアや細菌、ウィルスによる汚染を防止するため、無農薬でも安全で栄養価の高い農作物を生産することができます」(森氏)

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メビオール 代表取締役社長 森有一 氏


 また、アイメック膜の特性に起因する水分ストレスによって、トマトなどの作物は糖度が高く、味がよくなることも実証されている。

さらに、フィルム農法の最大の特長は、何も通さないシートで大地と隔離して栽培が可能な点だ。「土壌汚染の影響もなく、シートの下は砂漠でも、工場のコンクリートでも、ツンドラの氷の上でも栽培が可能だ」と森氏は語る。

 森氏は、「TED×TOKYO 2011」にてアイメックのテクノロジーをプレゼンテーションした。2011年の東日本大震災で汚染された東北の農地の復興につながるテクノロジーとしても大きな注目を集めた。

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TED×TOKYO にて、アイメックのフィルム農法について説明する森氏


アイメック農法を採用、新たな農業に取り組むドロップファーム

 実際にアイメック農法を採用して野菜を栽培しているのが、茨城県・水戸市のトマト農園、ドロップファームだ。

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アイメック農法を採用して糖度の高いトマトを栽培する農園「ドロップファーム」


 ドロップファームを運営しているのは、もともと広告業界出身で農業未経験のスタッフ。初心者でも比較的管理しやすく、科学的にも安全で美味しい野菜を栽培するために、同園ではアイメック農法を選択したという。

 フィルムは水をよく吸収するため、使う水量は通常のトマト栽培の10分の1ですむ。加えて細菌もウィルスも通さず、トマトが病気になりにくいため農薬を使う量や回数は少なくてよい。

 またフィルムにはナノサイズの穴が空いており、トマトは一生懸命その穴から水と養分を吸おうとするために糖やアミノ酸を蓄えて成長していく。

 こうして栽培されたトマトは、ビタミンC、グルタミン酸、GABA、B-カロテン、リコピンなどの成分が一般的なトマトに比べて高くなるそうだ。

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アイメック農法で栽培されているフルーツトマト。糖度は10〜12と高く、トマト特有の青臭さや塩味も少ないという


 野菜の流通を手がけているアグリゲートだが、いずれは品目を選んで「旬八農場」なる農園を持つことも検討しているという。実際にドロップファームを見学した左今氏は、農業未経験でも品質の高いトマトを栽培していることに驚きを示していた。

 ドロップファームは、アイメック農法というテクノロジーを使うことで、異業種での新たなビジネスを作り出すことに成功した好例と言えるだろう。

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ドロップファームを見学する左今氏


ITによる仕組み化が、人材不足解決の糸口になる

 ドロップファームを技術的に支援してきた森氏は、農業ビジネスをさらに成長させるためには「プロダクトとテクノロジーの両面が必要」と語る。

 そんな同社は今、アイメック農法にITを組み合わせた技術を開発している。それは、センサーを使って地中の「根」の状態をモニタリングするというものだ。

 「地上部の状態は温度、照度、湿度、ITでモニタリングできるが、地中の状態を把握するのは、これまで長年の課題だった」と森氏は話す。

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アイメック農法では透明なフィルムの上に野菜が根を張るため、根の状態が一目でわかる。センサーやカメラを組み合わせることでさまざまなデータを収集し野菜の栽培に活用できそうだ


 フィルム農法は、フィルムをめくれば根の状況が見えるため、土を掘り起こして根を傷つけるリスクもない。「センサーとカメラを使い、根の栄養レベルや酸素レベルをリアルタイムで可視化する仕組みを開発すれば、さらに農業の付加価値向上につながっていく」と森氏は展望を述べる。

 これに対し、左今氏は「ビジネスロジックをITで仕組み化し、その仕組みを汎用化、横展開することでスケールさせていくことが大事」と語る。

 「再現性を高めて自動化しないと、人が疲弊する世界になってしまう」と、テクノロジーによる自動化、仕組みが人材不足という課題を解決する糸口になると指摘した。

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 最後に、両氏に今後のビジネスの展望、特に、食と健康問題に関する課題解決の意気込みを聞いた。

 森氏は「現代の生活習慣病を予防するには、食生活の改善が有効」であると語る。

「これからは病気にかからないための予防医療の重要性がますます高まっていきます。品質のよい食品をきちんと食べる。医療よりも食が重視される時代はすぐそこまできています。我々もその重責の一翼を担えたらと考えます」(森氏)
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旬八青果店を見学する森氏。東京では見かけない珍しい野菜が店に並んでいるのに感激していた


 対して左今氏は、「農業従事者の減少、高齢化や人材確保の困難といった課題に挑戦したい」と抱負を述べる。

「我々のビジネスは、生産、流通、小売をワンストップで提供するもの。日本の農業の構造的な問題に対し、我々が『作る』『集める』『販売する』という点から、微力ながら貢献したいです。既存の流通とは違う販路で、新鮮な野菜をおいしいまま販売するというのが我々のミッションだと考えています」(左今氏)

 左今氏と森氏の対談では、日本の農業における課題を解決し、活性化していくための今後の展望や、起業家としての夢などについて熱く語られた。より詳しい内容については、ぜひ動画をご覧いただきたい。

【動画】社長対談 〜 日本の食を未来に繋ぐ 〜