企業が次のステージに進むときに選択肢となるIPOとM&A
販売網や顧客数の拡大、グローバル化や事業の多角化、優秀な人材の確保など、企業の成長のために経営者が考えるべきことは多い。いずれも必要な取り組みだが、既存のヒト・モノ・カネだけでは、あるタイミングからそれ以上の成長が困難になるときがくる。そこで視野に入ってくるのが、M&A(企業の買収・統合)やIPO(新規株式公開)といった手法だ。M&Aの仲介事業を手がけるfundbook 取締役 西村 将明 氏は、次のように述べる。「今の日本でM&Aというと、後継者がいない企業が事業承継のために活用するというイメージがまだ強いかもしれません。しかし実際は、優良企業が自社の弱みを補完し、さらなる成長を目指す手段として選択されるケースが、若い経営者を中心に増えています。また、IPOを目指す経営者にとっても、M&Aは選択肢の一つとなっています。他社とのM&Aにより、外部のノウハウやアセットを活かし、より高い成長戦略を描けるからです」(西村氏)
ただし、M&AもIPOもそう簡単なものではない。M&Aは、そもそもパートナーとなる相手企業を見つけること自体が難しい。見つかったとしても、その交渉やプロセスの詳細を理解し自力でM&Aを成功させることができる経営者は決して多くはないだろう。
IPOも同様だ。これまで数多くのIPOやM&Aを支援してきたCLSAキャピタルパートナーズジャパン 代表取締役社長 清塚 徳氏は、IPOの難しさを次のように説明する。
「IPOを目指すには監査法人や主幹事証券会社に入ってもらう必要がありますが、『監査法人難民』という言葉があるほど、そのハードルは高いのが実態です。仮に実現できても年間で億単位の費用がかかりますし、IPOを実現するためには、監査法人や主幹事証券会社それぞれから200~300項目もの改善要求が出され、その対応も求められます」(清塚氏)
それを乗り越えて上場できても、思ったような株価が付かないため、創業者は株式を市場で売却できず手元に資金を残せない可能性がある。株主からさらに厳しい要求が突きつけられ、四半期ごとの決算のプレッシャーもあるなど、その後の苦労には枚挙にいとまがない。清塚氏によれば、こうした課題へと対峙することを想像して「やはりIPOはあきらめよう……」と考える創業経営者は、決して少なくないという。
しかしIPOには、資金調達、社会的信用、人材採用、社員の士気向上など多くのメリットがある。特に起業家精神にあふれる経営者にとっては、魅力的であることは言うまでもない。
PEファンドとは? VCとは何が違う?
M&AやIPOを行ううえで重要なパートナーとなるのが、M&A仲介企業やファンドだ。前者は譲渡企業と譲受企業のM&A仲介を行い、後者は機関投資家などから預かった資金を企業に投資・運用する組織である。M&Aはイメージが付きやすいと思うが、ファンドはかつてドラマやメディアで「ハゲタカファンド」「アクティビスト」などのキーワードが流布したことで、マイナスイメージが強くなることも多かった。
「しかし、それは日本にとっても企業にとっても不幸なことです。たしかにそういうファンドもありますが、全体から見るとごくわずかです。ほとんどのファンドは、事業を成長させ、企業価値を高めるために活動しているのです」(清塚氏)

代表取締役社長
清塚 徳 氏
ファンドにはいくつかの種類がある。広義ではVC(ベンチャーキャピタル)やCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)もファンドと言えるが、これから特に注目したいのが「PEファンド(プライベートエクイティファンド)」だ。
PEファンドとは、未上場の優良企業の株式を取得し、その経営に深く関与して企業価値を高めたあと、売却して利益を得るファンドのこと。VCが企業の成長ステージに応じて支援するのに対し、PEファンドはハンズオンすることによって自律的な成長が期待できる規模、レイターステージから成熟期にある企業などを支援する点で違いがある。
そして、そのPEファンドとM&A仲介企業双方の支援を受けて実現できるのが、IPOとM&Aのメリットを享受できる「成長戦略型段階的M&A(以下、段階的M&A)」だ。これは端的に言うと、M&Aで株式の過半数をPEファンドへ売却したあとPEファンドの支援により企業価値を高め、IPOを目指すスキームである。
「弊社の場合、創業者が株式の100%をお持ちだとすると、その51%などの過半数をM&Aによりいったん譲り受けます。そして、3~5年をかけて企業価値を高め、IPOや新たなM&Aを実施します。我々はそのタイミングですべての株を売却し、利益を確定する仕組みになります。創業者は一部の株を保有いただいているので、IPOの場合ほぼすべてのケースで筆頭株主として継続して経営の舵取りをしていただくことが可能です」(清塚氏)
創業者は株式の過半数を売却することで、一度創業者利益を確定することができる。その後、PEファンドの支援により一段階目の成長を達成し、その後IPOが実現すれば、株式市場から調達した資金でさらなる成長を目指すといったように、二段階で会社を成長させることができる。
その際、CLSAキャピタルパートナーズジャパンのようなPEファンドは、一定期間だけ株主として企業を支援し、新たなステージに引き上げたあとは、IPOやさらなるM&Aなどを通じてすべての株式を売却し、企業に対する支援を終了させるのだ。
「PEファンドによっては株式の100%の保有を求めることもありますが、我々は創業者の方のご要望に合わせて過半数であれば必ずしも100%の保有にこだわらない点が特徴です。さらに、投資時もその後も配当・コンサルティングフィー・出張費用などのコストもいただいていません。つまり成長支援における直接的な費用はゼロなのです」(清塚氏)
企業価値を高めるため、PEファンドは何をするのか?
ひと言で「企業価値を高める」といっても、具体的にPEファンドは何をするのだろうか。清塚氏は「ありとあらゆることをします」と次のように説明する。「まず、成長のための経営メンバーが不足しているのであれば、ヘッドハンティングを行います。社長がそのまま継続される場合は、CFO(最高財務責任者)やCIO(最高情報責任者)など社長の右腕となるような候補を集めて経営陣を作ります。次に事業計画とKPIを設定し、毎月、経営会議や取締役会を開催して月次でフォローできる体制を構築。経営者の多くは事業の大きな流れを理解されていても、細々とした数字を管理するのが苦手な方もいらっしゃいますので、必要に応じてこれらの業務をサポートします。またIPOを行うとなると、膨大な書類の提出が求められるので、これらの準備も行います。さらに監査法人や顧問弁護士、コンサルタント、主幹事証券会社など、我々が普段からお付き合いのあるパートナーを集めてくることもします。こうした外部リソースを活用して企業価値を高めつつ、ファンドメンバーも現地に駐在して営業活動、新規事業立ち上げ、海外進出、追加買収等を支援し、最終的にIPOやM&Aを目指します」(清塚氏)
なお、PEファンドが支援するのは3~5年で平均は約4年だという。最終的なIPOやM&Aで投資資金を回収(エグジット)すると、PEファンドはその役割を終える。
「我々がご支援するのは3~5年ですが、そこで業績がピークアウトしてしまったら、その後、その会社の株を買いたいと考える投資家や事業会社はいなくなってしまいます。したがって、我々がいなくなったあとも成長していける『成長の種』を、会社の中にしっかりと植え付けることを非常に重視しています」(清塚氏)
ではそもそもPEファンドは、どのような会社に投資をするのだろう。清塚氏は3つの要素を挙げる。
「1つ目は事業の安定性です。我々は投資家からお預かりした資金だけでなく銀行からの借入金も活用しますので、出資先の事業の業績が大きく上下するようなリスクをできるだけ減らすことが求められます。2つ目は成長の余地があることです。ブランド、技術、サービス、ノウハウなど、今後成長していくためのエンジンが確立されていることが重要です。そして3つ目が、我々が関与することで、その成長を加速できるかどうかです。加えて、事業規模もある程度の規模感が必要。EBITDA(利払い前税引き前償却前利益)で10億円が一つの目安ですが、それよりずっと小さくても先述した3つの要素を満たしている場合にはご協力させていただくこともあります」(清塚氏)
企業とファンドの間を取り持つM&A仲介企業の役割
企業価値を高めるのがPEファンドの役割だが、ある日突然「御社を買収したい」とPEファンドの担当者がやってくるわけではない。そこで重要な役割を果たすのが、fundbookのようなM&A仲介企業だ。「PEファンドも得意とする領域や実績はそれぞれ異なるため、自社にあったパートナーを見つけることが重要です。我々は独立系の仲介企業ですので、さまざまなPEファンドと接点があります。IPOやM&Aはもちろん、事業承継など経営者のご要望に合わせて、同時並行でさまざまなご提案ができるのが強みです。その中で『段階的M&A』が最適な選択であれば、その可能性を探っていくのです」(西村氏)

取締役
西村 将明 氏
さらにM&A仲介企業は、M&Aの際に買い手企業が売り手企業に対し実施する、企業の価値やリスクの調査「デューデリジェンス(Due Diligence:DD)」の対応も支援する。
「デューデリジェンスには膨大な資料が必要ですが、未上場企業はこうした資料が揃わないケースが少なくありません。そこで我々が間に入ってデータを整理し、必要な資料を作成します」(西村氏)
なお、デューデリジェンスのレベルは、買い手となる事業会社やファンドによって濃淡があるとされ、投資家の資金や銀行の借入金を活用するPEファンドが求めるレベルは非常に高いのが一般的だ。このためデューデリジェンスの対応にはさまざまな専門家をはじめとした高度な専門性を有する人材によるサポートが必要となるが、fundbookには経験豊富なM&Aプレーヤーはもとより、会計や法律の専門家が揃っているので、PEファンドの高い要求にも対応できる強みがあるという。さらに、段階的M&Aの実績が豊富なのもfundbookの特長だ。
投資期間2年3か月でIPOを果たしたベイカレント・コンサルティング
「段階的M&A」を活用する企業は増えている。東証一部に上場し、ITを中心とするコンサルティングビジネスを展開するベイカレント・コンサルティングもその1社だ。「もともと創業者の方が100%の株をお持ちでしたが、将来の成長を考えるとPEファンドにバトンタッチしたほうがよいと判断され、我々が(共同投資家を含め)約60%を取得させていただき、支援を行いました。その結果、投資期間が2年3カ月、IPOの準備に入ってから1年8カ月で東証マザーズに上場することができました」(清塚氏)
また、fundbookが仲介し、現在CLSAキャピタルパートナーズジャパンが支援している事例として、清塚氏はEarth Technologyを挙げる。同社はバイリンガルのITエンジニアを育成し、企業に派遣する事業を展開している。
「現在、IPOを目指してご支援しているところです。創業者はいわゆる“連続起業家”で、経営は信頼できる役員の方に引き継がれました。創業者の方は、現在新しい事業にチャレンジされています」(清塚氏)
「段階的M&A」は成長を描く企業にとって、合理的に選ばれる手法になっていくだろう。
PEファンドの生の声、M&Aの成功事例が多数聞けるオンラインセミナーを開催
清塚氏によれば、現在、日本国内で活動しているPEファンドは40~50社で、日本のM&AのうちPEファンドが関わる割合は約10%だという。ちなみに米国のPEファンドは数千社、M&Aに関わる割合は全体の約30%だそうだ。「米国では、年金基金などの莫大な資金を運用するPEファンドが当たり前のスキームとして活用され、米国経済を強固なものとするエコシステムの中に見事に組み込まれているのです」(清塚氏)
その意味でも、今後日本経済が成長していくためには、PEファンドを活用する企業が増えていくことが望ましいといえる。ただし日本では、PEファンドの知名度はまだそれほど高くない。また、その運用担当者の生の声を聞ける機会も少ない。
「そこで弊社では、M&AやIPOに関心のある方向けに、『成長戦略型段階的M&Aオンラインセミナー』を開催します。実際にPEファンドへのM&Aを実施された経営者の体験談、PEファンドの担当者の話が聞けますので、ぜひご参加いただければと思います」(西村氏) ※本セミナーは終了しました。
日本におけるPEファンドは約25年の歴史を持つという。黎明期から関わってきた西村氏によれば、最近は若手経営者を中心に認知も広がってきたという。
「IPOを目指す経営者にとっても、M&Aは事業を躍進させる強力な選択肢の1つになってきています。外部のノウハウやアセットを生かし、より高い成長戦略を描くことができるのです」(西村氏)
成長を目指す志の高い企業経営者にとって、PEファンドそして段階的M&Aは間違いなく魅力的な経営手段の一つと言える。ぜひ関心を持っていただき、セミナーにもご参加いただきたい。

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