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  • 2022/01/18 掲載

アベノミクス失敗を認めることになる?「量的緩和策の撤回」を言い出せない日銀の本音

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日銀の国債保有残高が減少に転じている。各国の中央銀行はすでに金融正常化に動き始めており、金利の本格的な引き上げも近い。日銀だけが緩和策を続けることは現実的に不可能だが、アベノミクスの否定につながってしまうことから、正面切って緩和策の終了を言い出せない状況にある。明確なアナウンスなき保有残高の減少は、日銀の苦肉の策だろうが、時間稼ぎにしかならない可能性は高い。

執筆:経済評論家 加谷珪一

執筆:経済評論家 加谷珪一

加谷珪一(かや・けいいち) 経済評論家 1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『新富裕層の研究-日本経済を変える新たな仕組み』(祥伝社新書)、『教養として身につけておきたい 戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。

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各国中央銀行が金融正常化に動き始める中、日銀はどのような対応に出るのか? 緩和策の終了はアベノミクスの否定につながってしまうが…
(写真:つのだよしお/アフロ)

当初から量的緩和策が効果を発揮しない可能性が指摘されていた

 日銀が公表した2021年末の国債保有残高は521兆円と、前年比で14兆円のマイナスとなった。年ベースで保有残高が減少するのは、黒田東彦総裁の就任後としてはもちろんのこと、白川方明前総裁の時代以来、13年ぶりのことである。

 安倍政権は「デフレ脱却」が日本経済復活の鍵であるとして、金融緩和を主軸とするアベノミクスを提唱。日銀の黒田総裁は安倍氏の意向を受けて、大規模な量的緩和策に踏み切った。

 量的緩和策は、日銀が国債を積極的に購入することで大量のマネーを供給し、市場にインフレ期待を生じさせる政策である。日本は長く低金利の状態にあり、これ以上、名目金利を下げることができない。このためインフレ期待を醸成し、実質金利を引き下げることで設備投資を促すというのが量的緩和策の狙いである。

 各国は量的緩和策がそれなりに効果を発揮したが、日本の場合、諸外国とは異なる事情が存在していた。年金財政の悪化や、長引く賃金の低下によって消費者は将来不安を抱えている。こうした経済環境下においては、十分な乗数効果が発揮されず、仮に設備投資が増加しても、持続的な成長には結びつかない可能性が高い。

 量的緩和策の実施には弊害が伴うため、上記の改革を先に実施すべきという慎重論も根強かった。だが、アベノミクスを熱狂的に支持する声にかき消され、こうした意見は顧みられることはなかった。

 2%の物価目標を達成するため、日銀は年間60兆から80兆円もの国債を買い続けたが、物価はほとんど上がっていない。国債保有残高が増えれば、金利が上がった時に日銀の財務が悪化するリスクが高まる。日銀は簿価で国債を評価しているので、仮に金利が上がっても(つまり国債の価格が値下がりしても)損失を計上する必要はない。

 だが、時価を反映しないバランスシートを市場がそのまま受け止める可能性は低く、さらに言えば、額面を超える金額で買い入れた国債については、償還時には損失を計上しなければならない。

 本来であれば、量的緩和策について見直しを行うべきだったが、安倍政権が量的緩和策の継続を強く求めている以上、黒田総裁にそうした選択肢はなかった。

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本来であれば量的緩和策について見直しを行うべきだったが、安倍政権が量的緩和策の継続を強く求めている以上、黒田総裁にそうした選択肢はなかった…
(Photo/Getty Images)

日銀はすでにテーパリングを始めているが…

 こうした中、日銀が選択したのは、表面的には量的緩和策の継続をうたいつつ、実質的に量的緩和策から脱却を進めるという方策である。中央銀行が国債の買い入れ額を減らしていくことをテーパリングと呼ぶが、本来ならテーパリングを始める段階で中央銀行は市場に対し、その方針を示す必要がある。実際、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は2021年11月からテーパリングを開始しており、2022年3月には量的緩和策を終了するとしている。

 だが日銀の場合、「テーパリングを始める」と言ってしまうと、アベノミクスを否定することになってしまうため、そうした言動はできない。結果的にこっそりと買い入れ額を減らすという、テニクカルな手法に頼らざるを得なかったのが現実だ。


 2017年以降、日銀は買い入れのペースを落としており、2020年には「年間80兆円をメドにする」という長期国債の買い入れ目標も撤廃した。表向きはコロナ危機に対応するため、国債購入の上限をなくしたということになっているが、実際には買い入れ増額ではなく、減額に対応できるようにしたいという日銀の思惑があった。そして、とうとう2021年には国債の保有残高が前年比でマイナスとなり、現実的に国債保有残高を減らすことに成功した。

 量的緩和策の撤回を言い出せない中、国債保有残高の減少に成功したことは、日銀の事務方(いわゆる日銀官僚)にとってはそれなりの成果と言って良いかもしれない。だが、こうした対応はあくまでもテクニカルなものであり、本質的な問題解決ではない。事務方のホンネとしては、事実上のテーパリングを続けて時間稼ぎを行い、黒田氏の任期が切れる2023年あたりから正常化を本格化させたいところだろう。

 ところが市場環境の変化がそれを許さない可能性が出てきている。全世界的な物価の上昇に伴い、米国の金利が上がりそうだからである。

 このところコロナ危機からの景気回復期待を背景に、全世界的な物価上昇が進んでいる。景気回復期待だけが原因であれば、物価上昇は一時的なものだが、背景にはもっと複雑な事情がある。近年、新興国がめざましい経済成長を実現しており、コロナ後はその勢いがさらに加速すると予想されている。ところが資源や食糧といった一次産品は、生産量を急激に増やすことができない。このため長期にわたって需要過多が続くという予想が高まっているのだ。

【次ページ】日本だけ緩和策継続はヤバい?それでも低金利から抜け出せない事情

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