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  • 2023/06/06 掲載

東大・越塚教授が語る「データ覇権」競争、先導する欧州・悩める米国…対する日本は?

Seizo Trend創刊記念インタビュー

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データを制する者は、経済を制する──。人口減少が深刻な日本において、データ利活用による生産性の向上と、新たな価値創出が重視されてきている。そのためには、企業や産業、国など、あらゆる分野を超えたデータ連携が必要である。そうした中、世界の製造業界では、「GAIA-X(ガイアX)」や「Catena-X(カテナX)」のように、データ連携のプラットフォーム構築に国を挙げて注力している。では日本の現在地はどうだろうか。今回は、「データ連携」の第一人者である東京大学大学院情報学環 教授の越塚 登氏に、日本のものづくりにおけるデータ連携の重要性やその基盤の取り組みなどについて聞いた。

聞き手:井内亨、執筆:阿部欽一、写真:濱谷幸江

聞き手:井内亨、執筆:阿部欽一、写真:濱谷幸江

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東京大学大学院情報学環 教授 越塚 登(こしづか・のぼる)氏
1966年生まれ。1994年に東京大学大学院 理学系研究科情報科学専攻 博士課程修了、2009年には東京大学大学院 情報学環 教授に就任し、現在、一般社団法人データ社会推進協議会(DSA)・会長、スマートシティ社会実装コンソーシアム(SCSI)・理事長、JEITA Green x Digitalコンソーシアム・座長、気象ビジネス推進コンソーシアム(WXBC)・会長など、さまざまな領域の研究を主導する。

なぜ「データ連携」が必要なのか?

 製造業において、生産性向上は非常に重要なテーマとなっています。世代別の人口分布を見ると、50歳前後のいわゆる「団塊ジュニア世代」がボリュームゾーンとなっていますが、その子ども世代となる20歳前後の人口は団塊ジュニアの6割程度です。つまり、一世代(30年)で人口が4割減る段階にあるということです。

 また、国内における名目・実質GDPの推移はこの30年間でほぼ横ばいとなっています。このことも相まって、多くの就業人口を擁する製造業は、労働生産性を高めていくことが喫緊の課題となっています。そして、その鍵を握るのがデータ活用によるイノベーションです。

 製造業で重要なことは、モノからサービスの時代になったということです。なぜなら、国内市場は人口減少により縮小基調にあり、ものを作るだけではビジネスにならなくなっているからです。

 今までは物を売ることがビジネスのゴールでした。しかし今後は、売った後のビジネスが大きくなります。ものを利用するシーンにおいても、その商品を製造する企業はビジネス価値を生み出さなければなりません。いわゆるサブスク型、あるいは「as a Service」型ともいうべきビジネスモデルへの転換が求められています。

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日本の製造業は、サブスク型、as a Service型ともいうべきビジネスモデルへの転換が求められていると語る越塚氏

 これに伴い、データの流れも、作ったものを売るためのプッシュ型から、顧客ニーズを吸い上げ、それに合わせた物を作り、届けるためのプル型の流れに変わっていきます。

 ビジネスのサービス化により、データの流れが変わるのです。ものを売るための店舗の役割も変わり、従来のような店舗を中心とした街づくり、都市計画も変わっていく可能性があります。そして、再度言及しますとその中心にあるのはデータです。

 これからの時代はあらゆるデータを連携してサービスを構築することが必要となります。そのためには、データ連携基盤の構築が欠かせません。

GAFAら「ネットの時代」から新興勢力の「データの時代」へ

 デジタル技術の変遷を見ると、1960年代に「銀行のオンラインシステム」や「航空機の座席予約システム」など、メインフレームによる最初のDXともういうべき「大型計算機の時代」が到来しました。

 1980年代には、マイクロソフトがMS-DOSを発表して「マイクロコンピューターの時代」が到来しました。そして2000年代には、「インターネットの時代」、2020年代には「IoT+AI=データの時代」が到来しています(図1)。

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図1:20年ごとにパラダイムチェンジが起きており、2020年代には「IoT+AI=データの時代」が到来している

 これを見るとわかるように、20年ごとに技術のパラダイムチェンジが起きています。いわゆるインターネットによるドットバブルから20年以上経過した今、次のパラダイムシフトがいつ起きてもおかしくない状況です。

 そして、インターネットの時代はインターネットというグローバルな協調領域としてインフラがあり、その上にGAFAなどのグローバルプラットフォーマーがビジネスをするという世界でした。ですがその時代が終わって次に到来するIoTとAIによるデータの時代では、新興勢力も出現し、新たな競争の時代に突入しています。

先導する「欧州」、悩める「米国」

 その前触れとして、データの主権やトラスト、ハーモナイズ、ガバナンスといった新たな概念、理念が訴えられるようになっています。欧州では、こうした新たな概念を有するデータ経済圏のプラットフォームを「Dataspace(データスペース)」と呼んでいます。

 データスペースは、ICTシステムなどを通じ、多くの企業や組織などを横断して緩やかに統合されているデータプラットフォームです。従来型のデータプラットフォームが「集中型」「独占型」であるのに対し、データスペースは「分散型」「非集中型」「連邦型」で運営されます。

 欧州では、欧州でデータ連携の標準化を推進するリーダー的存在の「インターナショナル・データ・スペース・アソシエーション(IDSA)」や、ドイツ・フランス・EUが中心となりIDSAとも連携する「GAIA-X(ガイアX)」、これらの取り組みを踏まえて生まれた自動車領域の「Catena-X(カテナX)」など、すでに多数のプロジェクトがデータスペースの開発に着手し、世界を先導しています。

 一方、米国ではGAFAをはじめとした巨大プラットフォーマーが企業間データ連携を推進しています。ですが、政府としては、民間企業の経済活動を優先しており、データ集積・利用への関与は限定的のようです。

 外交問題評議会(Council on Foreign Affairs)のワーキンググループが発表したレポートには「米国はデジタル貿易の主導権を奪取できない」と書かれた内容も見られました。米国は、データスペースの取り組みに悩んでいる様子がうかがえます。

 では、日本における取り組みはどうでしょうか。 【次ページ】目指すべき最終形は日本発の「データ流通インフラ」

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