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  • 2023/07/20 掲載

強敵テスラ・BYDに勝てる日本企業はあるか? マツダ木谷昭博氏×八子知礼氏が激論

Seizo Trend創刊記念インタビュー

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テスラや上陸したばかりのBYDなど、海外の大手EVメーカーの参入などを受け、国内自動車市場の競争は激化している。内燃機関を中心に強みを発揮してきた国産自動車メーカーは、新たな提供価値で勝負を仕掛けてくる海外メーカーとどのように戦っていけば良いのか。先進的なクルマを開発し続けてきたマツダでIT部門を統括する木谷昭博氏と、DX推進支援を通して産業構造の変革を図るINDUSTRIAL-Xの八子知礼氏が、日本の自動車業界の未来について意見を交わした。

聞き手:中澤智弥、執筆:井上猛雄、写真:濱谷幸江

聞き手:中澤智弥、執筆:井上猛雄、写真:濱谷幸江

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マツダ 常務執行役員 兼 CIO 木谷昭博氏(左)とINDUSTRIAL-X 代表取締役 CEO 八子知礼氏(右)
(写真:マツダ広島本社にて撮影)

テスラ、BYDが強敵になる理由

──現在の自動車業界の状況をどのように見ていますか?

木谷昭博(以下、木谷)氏:ここ数年の自動車業界は、プレイヤーの増加や競争領域の多様化などもあり、競争が激しさを増しています。

 確実にEVは大きな競争の1つの軸になってきており、実際にテスラやBYD、ソニーなどの新興メーカーが続々と参入し、シェアを伸ばしている状況があります。強力な競争相手が増え、我々マツダとしても彼らの存在に危機感を感じています。

 それだけでなく、EV化とともにソフトウェア・デファインド・ビークル(以下、SDV)、OTA(Over The Air:無線を通じてソフトウェアを更新する技術)を導入したクルマも登場しています。無線通信を通じて車載ソフトウェアを更新すると、クルマの購入時には搭載されていなかった機能を追加できたり、エンタメ領域などのサービスを提供することもできます。このように、自動車に搭載されるソフトウェアも競争のポイントになってきているのです。

 現時点では、「この機能があるならこのクルマを買いたい」と消費者に思わせるほど革新的なサービスは登場してきていませんが、当社も含め内燃機関搭載車中心の国内老舗自動車メーカーは、追いつけ追い越せという形で、彼らと戦える体制を整えなければならないのです。

 とはいえ、簡単に負けてしまうほど日本の自動車メーカーは弱くありません。日本の自動車産業にはチームワークや調和の精神に基づく「すり合わせの力」があります。

 これは、EVやソフトウェアの競争になっても必ず求められる要素です。実際に、EVの製造工程を見ればわかりますが、制御技術からソフトウェアの開発まで、非常に細かいすり合せが求められます。また、エンタメ領域のサービスは消費者がクルマ選び際のポイントになり得ますが、ソフトウェアを搭載するクルマそのものの“品質”ではまったく負けていません。そのため、日本の自動車メーカーは自信を持って戦える状況にあると考えています。

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マツダ 常務執行役員兼CIO(最高情報責任者) 木谷昭博(きだに・あきひろ)
山口大学工学部生産機械工学科を1982年に卒業し、マツダ入社。2002年にMDIプロジェクト推進室長、2007年にパワートレイン革新部長、2013年にR&D技術管理本部長、2019年にMDIプロジェクト室長兼ITソリューション本部長を歴任。同年、執行役員MDI&IT本部長、2022年より常務執行役員MDI&IT担当、2023年に常務執行役員兼CIO(最高情報責任者) MDI&IT・業務イノベーション担当に就任し現在に至る。

八子知礼(以下、八子)氏:日本の自動車メーカーには世界に負けないモノづくりの技術があると考えています。そうした中でも、今後は、データ活用を経営の中心に据えることができるかどうかで、企業ごとに差が出てくるのではないでしょうか。

 近年、社会からの要請もあり、企業からはESG経営やLCA(Life Cycle Assessment)に本腰を据えて取り組む姿勢が生まれ始めていますが、モノづくりの上流から下流までのサプライチェーンの動きをデータで捉えることができなければ、これらは実現できません。

 環境に対する取り組みだけでなく、モノづくりに関しても同じです。ハードウェアやソフトウェアの機能を向上させたり、消費者ニーズに合わせて調整したりする上でも、やはりデータ分析は欠かせないのです。データはあらゆる価値の源泉であり、これを活用できるかどうかがポイントになると考えています。

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INDUSTRIAL-X 代表取締役CEO 八子知礼(やこ・とものり)氏
1997年松下電工(現パナソニック)入社、製造業の上流から下流までを経験。その後複数のコンサルティング企業に勤務し、2016年(株)ウフルに参画、様々なエコシステム形成に貢献。2019年(株)INDUSTRIAL-Xを起業、代表取締役を務める。クラウドやIoT、DXの分野で多数の企業を支援。著書に「図解クラウド早わかり」「DX CX SX」など。

次の戦場はソフトウェア? 国産自動車メーカーはどう戦うか

── “つながる”ことを前提としたクルマづくりに関して、日本企業はどのように向き合っていけば良いでしょうか?乗り越えなければならない課題を教えてください。

木谷氏:SDVは産業革命に匹敵する時代変革の1つと捉えています。しかし、これにはやはりソフト開発にもコストがかかります。世界的にはテスラが先攻していますが、ヨーロッパ勢も力を入れています。それに対し日本勢はこの動きに躊躇(ちゅうちょ)していました。

 最近は日本メーカーも積極的に開発に取り組んでいますが、海外メーカーも含め、この領域では革新的なサービスを作れていない状況があります。その点に関しては、弱点というよりも、大きなチャンスと考えています。

 これまでソフトウェア開発は、外部ベンダーに依存する傾向がありましたが、今は自分たちでスピード感を持って開発することが大切です。たとえば、エンジンや車体などの部品は、どこの自動車メーカーでも内製で設計・製造しますが、これと同じように基幹となるソフトウェア開発も内部で技術を持って完結することができれば、強みになるでしょう。

八子氏:2008年頃、車載システムの標準化団体にヒアリングされたことがありました。その場にはマツダさんを含む日本を代表する自動車メーカーが集まり、私はハイテク・通信の立場でコメントさせていただく機会がありました。

 ちょうど初期のiPhoneが出た翌年頃で「そのうち自動車もiPhoneのように部品を組み合わせてモジュール化されていくと想定される」と私が発言すると、ある企業さんから「そんな簡単にクルマが作れるわけないじゃないか」と怒られてしまいました。ただ、そのときマツダの参加者の方には、「いや十数年後には、もしかすると起こるかもしれない」と擁護していただいた記憶があります(笑)。

 実際に15年が経ち、まさにEVも広まり、自動車づくりはいよいよモジュール的な発想になってきました。とはいえ、時代と共にモノづくりの方法や概念が変わることに対して、まだ国内の自動車メーカーのみならず、ハードウェアメーカーも追従できていないという実感があります。そろそろ既成概念を打破し、違う考え方でモノづくりに取り組むべきなのかもしれません。

 それでは、具体的にどのようなクルマを目指せば良いか。ソフトウェアのアップデートにより自動運転や運転をサポートしてくれる機能を追加することもできますが、そうした発想だけにとらわれず、たとえば、内装をソフトウェアで変えられるなら、それを求める消費者もいるかもしれませんよね。

 また、自動運転が実現すれば、便利にはなりますが、運転する楽しさは少なくなります。その時、ドライブ好きの消費者はどう思うのか。そうしたまだ答えの見えない問いに向き合い続けなくてはならないのだと思います。 【次ページ】なぜ海外企業には真似できない?日本企業の技術力の根源

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