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  • 2024/03/12 掲載

割り付け・積み付けシステムとは何か? 勘と経験だらけの「配車」を激変させる救世主

連載:「日本の物流現場から」

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どの荷物をどのトラックに対しどのように積むと、最も効率が良いのか?──これを算出する割り付け・積み付けシステムがいま注目されている。背景にあるのは、「物流の2024年問題」を筆頭とする物流クライシスである。現在約38%しかないと言われる積載効率(トラックの許容積載量に対する実際の積載量の割合)を向上させることができ、中には輸送単価を17%削減できた例もある。救世主として期待したいところだが、そう簡単な話ではない。その理由を数学上の課題、現場の課題から論じつつ、実際に現場で活躍する割り付け・積み付けシステムも紹介しよう。

執筆:物流・ITライター 坂田 良平

執筆:物流・ITライター 坂田 良平

Pavism 代表。元トラックドライバーでありながら、IBMグループでWebビジネスを手がけてきたという異色の経歴を持つ。現在は、物流業界を中心に、Webサイト制作、ライティング、コンサルティングなどを手がける。メルマガ『秋元通信』では、物流、ITから、人材教育、街歩きまで幅広い記事を執筆し、月二回数千名の読者に配信している。

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割り付け・積み付けシステムとは何か?
(Photo/Shutterstock.com)

割り付け・積み付けシステムとは何か?

 割り付け・積み付けシステムとは、荷物を運ぶトラックの選択や、荷物をトラックに積載する際の組み合わせや順番の決定といった配車担当者が担う業務を自動化するシステムを指す。

 そもそも割り付けとは「どの荷物を、どのトラックへ積むのか?」という作業で、積み付けとは「荷物をどのようにトラックに積むのか?」という作業を言う。

 これまで、配車担当者は限られたトラックの許容積載量に対して、なるべく多くの貨物を搭載できるよう、頭の中で積載の順番や組み合わせをシミュレーションするなどしていた。つまり、配車担当者の勘と経験によるところが大きい作業なのだ。

 詳細は後述するが、人手不足などの課題感から、割り付け・積み付けの自動化ニーズが高まっている。しかし、割り付け・積み付けシステムは膨大な量の計算を要することから、実現が非常に難しいシステムでもある。

実用化を難しくする「ナップザック問題」

 「2つある荷物から、1つずつ荷物を選ぶ組み合わせは?」、この答えは2通りである。だがこの問題は、荷物数の増加に伴い、天文学的な数字へと増大していくことだ。たとえば以下である。

  1. 10個の荷物から、3個の荷物を選ぶ組み合わせは?
    120通り

  2. 20個の荷物から、5個の荷物を選ぶ組み合わせは?
    155万400通り

  3. 50個の荷物から、10個の荷物を選ぶ組み合わせは?
    102億7227万8170通り

  4. 160個の荷物から、16個の荷物を選ぶ組み合わせは?
    40垓(がい)5994京9873兆9643億6000万通り

 最後のケースでは、現在のスーパーコンピューターによって算出する場合でも数年を要する。

 ちなみに、広く使われている1100ミリメートル×1100ミリメートルのパレットに積まれた荷物(パレタイズされた荷物)については、4トントラックの場合で10枚、大型トラックの場合で16枚を積載できる。よって、3と4のケースは、以下のようにも言い換えられる(いずれも標準サイズの場合)。

3、50個のパレタイズされた荷物を、5台の4トントラックに載せる場合の組み合わせは?
 
4、160個のパレタイズされた荷物を、10台の大型トラックに載せる場合の組み合わせは?

 熟練した配車担当者は、こういった天文学的な組み合わせの中から、最適解を導いていることになる。もちろん、経験を積み「熟練した」配車担当者の話であって、誰もができるわけではない。

 ちなみに、性質や重量などが異なる複数の荷物を限られた容量に収める、このような計算を、ナップザック問題と呼ぶ。ナップザック問題は、計算複雑性理論に分類される数学上の難問である。

 「割り付け・積み付けシステムを構築するためには、本来膨大な計算量を必要とする算出プロセスを、現実的に利用可能なコンピューターの演算能力に合わせなければなりません」。これまで数々の割り付け・積み付けシステムを構築してきた構造計画研究所 オペレーションズ・リサーチ部 リソースマネジメント室 海野 悟氏は語る。

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取材に応じた(左から)構造計画研究所の矢野 夏子氏、宇野 もも子氏、橋本 雄士氏、海野 悟氏
(筆者撮影)

 つまり、配車担当者の脳内で行われる演算を、すべてシステム化することは無理なのだ。ここに、割り付け・積み付けシステムの難しさがある。

割り付け・積み付けシステムが求められる「3つの理由」

 「物流の2024年問題」を筆頭とする物流クライシスを背景に、運送会社から荷主に対する運賃値上げ交渉の圧力が高まっている。荷主としては物流コストをなるべく抑えたいところだが、公正取引委員会やトラックGメンなどによる監視が強化される中、「今や、運送会社からの運賃値上げ要請を断るという選択はあり得ない」(某大手食品メーカーの物流担当者)という状況にある。

 「運送会社からの運賃値上げ要望には応えつつ、運送コストを抑える」、この一見矛盾する課題を、「解決する」とまでは言えないまでも、「コストアップを最低限に抑える」方法はある。トラック1台あたりのチャーター運賃は値上げしつつ、積載効率を向上させることで、たとえば荷物1個あたりの運賃単価を削減させるのだ。

 構造計画研究所 社会デザイン・マーケティング部 ソーシャル・ロジスティクス戦略室 室長 橋本 雄士氏は、「弊社が手掛けた割り付け・積み付けシステムの導入事例では、システム化によって割り付け・積み付け精度を高めた結果、輸送コストを削減できた事例もあります」と語る。

 同社では、荷物1個あたりの運送単価を17%も削減できた事例があるという。これが割り付け・積み付けシステムが求められる理由の1つだ。

 別の観点もある。 【次ページ】もう2つの理由や事例を解説

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