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2005年10月07日

青山学院大学国際マネジメント研究科講師 黒岩健一郎氏:

顧客の知識を活用する仕組み〜資生堂事例〜資生堂 お客さまセンターの取り組み〜

競争戦略のキーコンセプトは、時代とともに変化している。1960年代の高度経済成長期は、製品の新規性を競う「差異優位性」が中心だった。各企業は、目新しさによって需要を刺激し成長してきた。1970年代半ばになると、オイルショックなどで市場成長が鈍化してくる。限られた需要を巡って競争することになると、模倣が容易な差異優位性よりも、継続的な強みに焦点をあてた「持続的競争優位」が重要になる。コストリーダーシップといったポーターの基本戦略はその代表例である。1980年代半ば以降は、持続的競争優位そのものよりも、それを生み出すための組織能力こそが強さの源泉であるという考え方が出てきた。コア・コンピタンスの概念もその流れである。


武蔵大学経済学部専任講師
青山学院大学国際マネジメント研究科講師
黒岩健一郎 Kuroiwa Kenichiro(写真 左)
1990年、早稲田大学理工学部を卒業し、住友商事株式会社に入社。2000年、慶應義塾大学経営管理研究科修士課程(MBA)を修了、2003年に同博士課程(マーケティング専攻)を単位取得退学。研究分野は、苦情対応のマネジメント。著書に『仕組み革新の時代』(有斐閣・共著)などがある。

株式会社資生堂
お客さまセンター課長
田中亮成 Tanaka Yasunari(写真 右)
1979年:資生堂入社、営業部門配属 1987年:本社チェイン部(営業部門の統括)に異動全国ビューティーコンサルタント(美容部員)の戦略的運用、教育営業担当教育等に従事 1994年:お客さまセンターの前身コンシューマーズセンターに異動ボイスネットCの開発、お客さまセンター全体戦略立案、センターの運営統括、お客さま情報の社内活用の推進と反映等に従事

顧客の知識は競争戦略の鍵

 競争戦略のキーコンセプトは、時代とともに変化している。
 1960年代の高度経済成長期は、製品の新規性を競う「差異優位性」が中心だった。各企業は、目新しさによって需要を刺激し成長してきた。1970年代半ばになると、オイルショックなどで市場成長が鈍化してくる。限られた需要を巡って競争することになると、模倣が容易な差異優位性よりも、継続的な強みに焦点をあてた「持続的競争優位」が重要になる。コストリーダーシップといったポーターの基本戦略はその代表例である。1980年代半ば以降は、持続的競争優位そのものよりも、それを生み出すための組織能力こそが強さの源泉であるという考え方が出てきた。コア・コンピタンスの概念もその流れである。

 ところが、近年、他社に勝つことよりも顧客に愛されることこそが重要であるという考え方が支持されるようになってきた(i)。顧客の維持、顧客との関係性の管理に注目が集まっている。コア・コンピタンスを提唱したプラハラードもカスタマー・コンピタンスという概念を提示している。すなわち、顧客の保有している知識や顧客との対話から生まれる知識が、企業のコンピタンスの源泉になるというのである。現代の競争戦略の鍵は、顧客の知識をいかに活用するかにかかっている。

顧客との接点は知識の泉

 顧客の声は、営業部門や顧客相談窓口に寄せられるのが一般的である。このような顧客との接点部門には、苦情や相談、問い合わせなど、顧客からもたらされる様々な情報が溢れている。これらをうまく利用すれば、製品改良や新製品開発、ひいては事業プロセスの改善につながる。まさに、知識の泉である。

 接点となる部門は、顧客の知識を効率的に収集し、関係部門と共有し、積極的に活用していかなければならない。昨今、顧客相談窓口を拡充する企業が増えてきた。シャープは、東西2ヶ所にコールセンターを設置し、約20億円を投資して情報システムを構築した。エアコンのダイキン工業も、東京と大阪に合計300人規模のコールセンターを開設した。また、ベルシステム24のようなコールセンター専門業者も、数・規模ともに増加している。  資生堂も顧客の知識を活用することに積極的な企業である。女性用育毛剤「セラムノワール」や口紅「リップパーフェクト」など、顧客の声を活用して生まれたヒット商品は多い。本稿では、資生堂お客さまセンターの事例を紹介し、顧客の知識を活用する仕組みについて考える。

資生堂お客さまセンター

 資生堂お客さまセンターの起源は、消費者運動の高まりから消費者保護基本法が成立した1960年代まで遡る。資生堂は、1968年に「消費者課」を設置した。本格的に整備されるのは、福原義春氏が社長に就任した1980年代後半からである。当時、福原社長は、「あなた方は、お客さまと企業のパイプ役です。企業の中のお客さまになりなさい。社内にずけずけ言ってよい。」と指示したという。その後、ショールーム「コスメティック・ガーデンC」の設置など、様々な施策が実施されてきている。本年6月には、新しい情報システムである「新ボイスネットC」を稼動させている。(「お客さまセンターの沿革」参照)

 現在、お客さまセンターは、ソフト&コミュニケーショングループに属している。このグループは、美容技術の教育やビューティートレンドの研究、美容ソフトの研究・開発と、お客さま相談窓口をはじめとした顧客とのコミュニケーションに関することを担当している。製品事業部と並列した組織である。

 お客さまセンターは、本社機能の集まる汐留オフィスにあり、8つのチームで構成されている。(「お客さまセンターのチーム編成」参照)人員は約110名で、そのうち相談窓口チームが半数である。相談スタッフのほとんどは、資生堂チェインストアに出向いて美容相談を行う美容部員の経験者である。相談スタッフは、チェインストア向け製品担当のチームとドラッグストアやコンビニ向け製品担当のチーム、さらに、早番(9時〜17時)、遅番(11時〜19時)とに分かれている.




 お客さまセンターに集められる情報量は、年間53万件に上る。内訳は、約22万件のフリーダイヤル、約2万件の電子メール、約1万件のアンケートの回答、全国約25000店のチェインストアから寄せられる顧客の声、ショールームで蓄積された情報も含まれる。  顧客がお客さまセンターに電話すると、まず受付スタッフが電話に出る。受付スタッフは、どの製品についてのお問い合わせかを聞いて、担当の相談スタッフにつなぐ。相談スタッフは、受付スタッフから回ってきた電話をとると、まず受付から相談内容の概略を聞き、回線を顧客につなぐ。その後は、相談内容に従って臨機応変に対応する。

 顧客から寄せられた問い合わせや要望・苦情はすべて、情報システム「新ボイスネットC」に一元的に蓄積・管理されている。相談スタッフは、電話対応が終わると、相談内容を「新ボイスネットC」に入力する。音声の記録も可能で、臨場感のある顧客の声を他部門の人たちに伝えることもできる。また、このシステムで、相談内容の分析もできるようになっている。ある期間に最も多い相談内容や、製品、プラスの評価なのかマイナスの評価なのかが簡単に分析できる。

「新ボイスネットC」に入力された情報は、他部門の社員も見ることができる。社長用のパソコン画面には、見やすいように大きな文字で映るように工夫されている。社長は、業務の合間に頻繁に苦情情報を見ているようである。

 さらに、新製品開発などマーケティング部門全般、品質管理部門、支社、経営陣には積極的な情報提供を行っている。製品開発部門への顧客の声の反映業務には、特別のチームをつくっている。チームのスタッフは、製品開発の初期段階からプロジェクトに入り、顧客の立場で意見を言う役割を担っている。また、製品の苦情情報は、事業部にフィードバックし、製品の改善作業を促している。QA(品質保証)連絡会や各事業部の主催する会議において製品に対する顧客の声を報告している。最近では、新製品開発の社内申請に「新ボイスネットC」のデータ分析が添付されているケースが増えている。

 支社への情報提供のためにも、1つのチームを設けている。顧客の声の定量データや、問い合わせ事例は、社内LAN上で情報公開し、日々更新を行っている。経営陣へは、毎月の常務会で報告している。お客さまセンターの報告は、会議の冒頭で行われることになっている。

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