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2016年11月08日

デンソー加藤充 IoT革新室長に聞く、「ダントツ工場」の主役が「人」である理由

IoTで世界130工場をつなぎ、2020年までに生産性を2015年比で30%高める目標を掲げるデンソー。「ダントツ工場」を標榜し、圧倒的な生産性向上を、継続的に生み出していこうという取り組みはどのような背景で生まれ、どのように進んでいくのか。ダントツ工場の担い手として生産革新センターに設立されたDP-Factory IoT革新室 室長の加藤 充 氏に聞いた。

(聞き手はフロンティアワン 代表取締役 鍋野 敬一郎氏とビジネス+IT 編集部 松尾慎司)

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デンソー
生産革新センター
DP-Factory IoT革新室長
加藤 充 氏

IoTによる競争力の源泉は“非定常”を担う「人の力」が前提にある

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──まずIoTをどのように捉えているかをお教えください。

加藤氏:色々な定義がありますが、「リアルタイム性」が一つのポイントだと考えています。リアルタイムに情報を収集し、これを分析して予兆を捉え、「Just In Timeに」準備を行い、「Just On Timeに」価値を提供する。これを継続的に行う取り組みがIoTだと理解しています。

 また、物理的に場所が離れている事象を可視化できるようになった点も特徴的です。これにより、製造業の範囲は製品を売り切ることから、売ったあとまでケアするライフサイクル全体の視点にまで拡張されてきました。

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IoTの世界の変遷

(出典:デンソー提供資料)


──こうした中で「ダントツ工場」に取り組むと明言されています。ダントツ工場とはいったいどのようなものなのでしょうか。

加藤氏:一言でこれだと定義するのは難しいですが、これまでのような数パーセントの進化を継続する活動に加え、「N倍」「N分の1」というように抜本的に生産性を向上させる非連続的進化“も短いサイクルで織り込む取り組みがダントツ活動です。

 その非連続的進化は、導入された初期だけ有益であるようではダントツとはいえません。変動する市場に対し、狙ったパフォーマンス、目標値をライフサイクル全域において達成し続けられることがダントツであるはずです。そのカギを握るのがIoTです。つまり、革新的技術を入れて、あとは安定維持だけという静的な現場でなく、日々の改善・改良をこれまでにないスピードと質で実行し、常に進化をし続ける動的な現場運営がなされる、これがダントツ工場であると考えています。

 具体的には、「予知・予兆管理」や「重点管理」、「全員オーナー/源流良化」「共創改善」がその体現の旗印になります。

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IoTを用いた20年ダントツ工場構想

(出典:デンソー提供資料)


──生産プロセスについて、日本は相当進んでいるといわれます。それでも、こうしたことに取り組まなければならない背景にはどのようなことがあるのでしょうか?

加藤氏:グローバル全域においての高生産性を継続していくためです。例えばグローバルのオペレーションで「ダントツ」を目指すときに、日本ほどスキル持った人材が豊富にいるわけではありません。モチベーションも含めて、人材を活性化し、能動的にしていくきっかけ作りにしたいとの思いがあります。

──グローバル化を考えたときに、誰がやってもいいようにプロセスを標準化する考え方もあると思います。

加藤氏:そもそも工場から人がいなくなってはいけません。進化が止まります。モノのインターネットは、工場設備の稼働状況をデータ化し、それを改善に活かしていくことが可能です。しかし、設備から情報を受け取っても原因改善できなければ実益は得られません。

 モノづくりの現場では、日々、色々な変化が起きています。安定的にラインを維持し、ダウンしないようにすることは、機械の中でデータを吸い上げ、分析処理することで可能となるかもしれません。しかし、さらに生産性を伸ばすイノベーションや改善は人のインプットなしに実現できません。

 その改善がスピーディに、短いサイクルで実現できること。それが日本のモノづくりの強みであり、IoTでさらに高めていく部分だと思っています。

 ある限られた変動域、すなわち定常状態においては、時間をかけ状況を機械に学習させ、安定稼働につなげることは可能です。しかしながら、日々改善を実施するようなモノづくり現場は、非定常が連続的に起きている状態です。この非定常的な事象をいかに定常に変えつつ進化を両立できるか? これにはスキルを持った高技能人材の知恵が欠かせません。人のノウハウの形式知化、育成もポイントになります。IoTが広がる世界では非定常を素早く定常に変え、さらに非定常を生むこの正のサイクルを速く回せる対応力が競争力になってくると考えます。

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デンソーが考えるIoTを用いた工場づくり

(出典:デンソー提供資料)


──IoTでは、つなぐことが一つのテーマになっています。どこまでをオープンに「協創」し、どこからが「競争」する領域だと考えていますか。

加藤氏:人がいかに速く情報を活用して新しい価値を生み出すかが差別化です。IoTの“つなぐ”システムの部分においては差別化はしづらいと思っています。

 デンソーがなぜ工場からIoTを進めているのか。工場はモノが流れる物流があり、モノを運ぶトラフィックもあります。さらにそこには人の動きもあるでしょう。

 これを俯瞰すると、工場は一つの「ミニ社会」といえます。安心、安全、環境によいという地球、街作りを考えたときに、まずは自社のミニ社会の中で、IoTでどんな価値が、どこまで実現できるのか、を最速のスピードで検証する。そして、検証結果を活かした高信頼な商品を市場に提供し、市場に新たな価値もたらすことがよいと考えています。

 例えば、工場内でモノを運ぶタガー(牽引台車)がありますが、この自動運転検証も、一般社会で行えば法規制や他社との連携といった規制や制約にぶつかり、スピーディに進めることができません。

 しかし、自社の工場内であればテストがいつでも自由に実施可能です。問題点を吸い上げて、解消し、パッケージングして自動運転技術の開発加速へとつなげていく。そうしたミニ社会での取り組みをたくさん実施し、有益な技術や仕組みを仕入先や協力先といったサプライチェーンに展開していきたいと考えています。

──人が担うべき領域という点で、具体的なエピソードはありますか。

加藤氏:ある製品で、良品を作るための加工条件を作り込んでいくときに、影響を及ぼす変動要因を、625個特定したエンジニアがいました。

 特定したパラメーターの数はすごいですが、そこまで人知を尽くしても、想定した方程式通りに最適化は進みませんでした。これに対して、ビッグデータ解析の結果、セオリー通りでないパラメーターの設定が有効と導かれ、実際に検証したところ、最適化できる予測が立ちました。データドリブンの世界には、人知を越えた領域があるのだと実感しました。

 しかし、この事例の大事なポイントは、変数を625箇所抽出したという「作り込みのプロセス」が前提にあることです。このプロセスがなければ0から1を生み出すことがそもそもできません。これに加えて、人の作り込みが終わった後のデータ活用によるさらなる進化もこういうスキルフルな人がいなければ具体化しません。これが「ダントツ工場」の前提です。ゼロから1を生み出す、非定常と定常を正の循環として稼働させるのは、やはり人が担うべき領域だと考えます。

【次ページ】価値を生み出す取り組みをサプライチェーンに広げていくのが狙い

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