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  • 2022/11/02 掲載

ヤマト運輸・日本航空が本格化へ、「社員のリスキリング」が賃金上昇につながる理由

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日本でも社員の本格的なリスキリング(学び直し)に取り組む企業が増えてきた。日本の労働生産性が諸外国と比較して著しく低く推移しているのは、社員のスキル不足からIT化が思うように進まないことが原因である。本格的にリスキリングに取り組む企業が増えていけば、確実に生産性と賃金上昇効果をもたらすだろう。

執筆:経済評論家 加谷珪一

執筆:経済評論家 加谷珪一

加谷珪一(かや・けいいち) 経済評論家 1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『新富裕層の研究-日本経済を変える新たな仕組み』(祥伝社新書)、『教養として身につけておきたい 戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。

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日本の労働生産性が著しく低く推移しているのは、社員のスキル不足からIT化が思うように進まないことが原因である
(Photo/Getty Images)

各社が続々とリスキリングに乗り出す

 ヤマト運輸は、管理業務を担う社員に対して本格的なIT教育を実施している。エクセルを使った単純な管理業務から、データ解析ツールを駆使した、より先進的なデータ管理業務への移行を目指す。社員教育を行う社内大学を2021年から開設しており、3年間で1000人を受講させることで高度なデータ分析ができる社員を増やす。

 日立製作所は、社員教育を合理的に進めるシステム基盤の導入を進めている。社員1人ひとりのスキルを把握し、将来、必要となる知識についてシステマティックに提示していく。社員に新しいスキルを身につけさせると言っても、無計画な状況では効率が悪い。スキルアップを総合的に管理・支援できる新システムを導入することで、学習の進捗を総合的に管理する。

 日本航空でも2023年度からグループ社員3万6000人を対象に、デジタル化や顧客データの活用などを柱とした本格的な教育プログラムの提供を行う。第1段階として、デジタル化の基礎知識を学び、各部門においてどのようにITを業務に生かせるのか議論することで、各分野のIT化につなげていく。大和ハウス工業も本格的なデジタル教育をスタートしており、全社員の2割にあたる3000人に対してジタル関連の講座を提供する。

 全社員を対象に、本格的なリスキリングの機会を提供することは、全世界的な流れになっている。

 自動車部品大手の独ボッシュは、全世界の従業員40万人に対して本格的なリスキリングの機会を提供しており、ほぼ全社員が何らかの形でソフトウェアに関連したスキルを獲得することを目指す。同社が一連の教育にかける費用は3,000億円近くに達する。

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全社員を対象に本格的なリスキリングの機会を提供することは全世界的な流れになっている
(Photo/Getty Images)

リスキリングとIT投資はセット

 こうしたリスキリングが行われる背景となっているのがIT投資の進展である。IT投資を強化することで企業の生産性が向上することは、ほぼ自明の理となっているが、単純にシステムを導入しただけでは十分な成果が得られるとは限らない。

 最適な形でITシステムを導入し、そのシステムを円滑に利用できる社員のスキルがあって、初めてITシステムは生産性向上ツールとして機能する。したがって、IT投資を強化すると同時に、それに対応できる人材育成を同時並行で進めなければ、十分な成果は得られない。この点において日本企業の取り組みは、質・量ともに諸外国と比較して大きく遅れているのが現実である。

 日本全体のIT投資額は、90年代以降ほとんど増加しておらず、3倍から4倍に拡大させた諸外国との差は大きい。IT投資額そのものが増えてない以上、それを使いこなす人材への投資が増えないのは当たり前のことであり、社員教育に日本企業がかける投資額(対GDP比の比較)は欧米企業と比較すると10分の1から20分の1程度にとどまっている。

 日本企業の労働生産性は諸外国の半分から3分の2程度の水準しかないが、IT投資に消極的で、それを使いこなせる人材の育成を行っていないという現実を考えると、当然の結果と言えるだろう。このような話をすると「日本もそれなりにIT化を進めているではないか」との声も聞こえてくるが、これは完全にガラパゴスなセルフイメージである。


 スイスのIMD(国際経営開発研究所)が策定している「デジタル競争力のランキング」の最新版(2022年)では、目を疑うような結果が出ている。評価項目のうち、デジタルテクノロジーのスキルで63国中62位、企業の俊敏性で63カ国中最下位、ビッグデータの活用で63カ国中最下位という、惨憺たる状況になっている。

 従来の日本社会はこうしたランキングが出てくるたびに、「恣意的な結果だ」「日本流のやり方がある」と叫び、現実から目を背けてきたが、こうした行為を続けていくのはもはや不可能となっている。日本は諸外国と比較して、完璧に遅れているのだという現実を直視し、まずは投資額を増やしていくところから始めなければ、さらに悲惨な結果を招くだろう。

【次ページ】リスキリングが「賃金上昇」につながるメカニズム

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