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  • 2024/01/23 掲載

観光地の激混みは解消されるか?業界の“特有事情”と国が目指す2027年像

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移動制限の緩和によって訪れた新たなインバウンド時代の観光業においては、データ活用が勝敗を分けるポイントになるかもしれない。国の検討会では「観光DX」を前面に押し出し、2023~2027年度の5カ年計画としたロードマップが作成された。顧客データ管理・活用の高度化や、オンライン上の情報発信強化を推進する方向性が示されており、2024年は各地で取り組みが加速する見込みだ。効率的で快適な観光業の実現に向け、国はどのような道筋を描いているのか。観光DXの先進地である箱根温泉における事例とともに解説する。

執筆:三上 剛輝、編集:川辺 和将

執筆:三上 剛輝、編集:川辺 和将

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年間2000万人が訪れる箱根温泉
(Photo/Shutterstock.com)

小規模宿泊業で顕著なDXと情報発信の課題

 「ガイドブックに載っている観光スポットや飲食店は激混み。メイン道路は渋滞。思うように目当ての場所を回れなかった」──旅行中、こんな経験をしたことはないだろうか。

 観光庁は2022年に、このような課題を解決するため、「観光DX推進のあり方に関する検討会」を設置。会合では、特に観光・宿泊業に携わる中小・零細事業者において、デジタル活用に改善の余地が大きいとの指摘が上がった。

 特に課題視されているのが、顧客データの管理・活用だ。

 たとえば宿泊業では、紙台帳ベースで予約を管理する慣習が残り、旅行会社からの送客に過度に依存している事業者が少なくない。

 全国の観光地には地域づくりの司令塔として、地元関係者と連携した観光客誘致や情報発信などの役割を担う観光地域づくり法人(DMO)が設置されている。

 観光庁の調査ではこのDMOでさえ、8割以上がCRM(Customer Relationship Management、顧客関係管理、顧客のニーズや属性などを把握・分析することで嗜好(しこう)にあったサービスを提供し、リピーター獲得を目指す管理手法)に取り組んでいない現状が明らかになった。

 もう1つの課題が、情報発信だ。

 特に従業員の少ない小規模事業者では、情報発信がチラシ配布などアナログな手法に限られているケースもある。ウェブサイトやSNSに情報を載せていたとしても、検索結果の上位にヒットしなかったり、情報が概要やアクセスなど基本的な内容ばかりで具体性に欠けたり、情報更新の頻度が極端に低かったりといった事例が目立つ。

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観光分野で活用できるデジタル手段の例
(出典:観光庁作成資料

 仮にオンライン上で情報発信をしていても、マイナーなホームページやアプリだけに掲載していては利用者の目に届きにくい。また、最新の情報を必要なタイミングで取得できないと、旅行者の満足度が低下し、リピーター獲得に悪影響が出る懸念がある。

 DX活用の低調さは、業界特有の事情も関係しているようだ。宿泊業では、従業員数10名以下の施設が78%を占める。家業として経営を受け継ぐ旅館も多く、経営手法を長年の経験や勘に依存しているため、DXに対する意識が希薄になりがちだと考えられている。

観光地経営のデジタル化に向けた5カ年計画

 こうした課題認識を踏まえて検討会は2023年3月、「観光DX推進による観光地の再生と高度化に向けて」と題した報告書を取りまとめた。

 報告書はデータ活用に基づく観光地経営のデジタル化に向け、次の3つの方向性を示している。

(1)データに基づく戦略策定
 旅行会社からの送客が主流であった旧来型の旅行形態からの変化に対応し、訪問者の来訪状況、属性、消費額などのデータを基にした戦略策定の重要性を認識すべきだと強調している。

 「宿泊客が多い」「日帰り客が多い」「船舶・飛行機での来訪が多い」などの特性を理解した上で、競合地域と比較するための指標を設定し現状を把握することが必要になるという。

(2)CRMの導入
 データの取得と分析のフローを明確化し、地域間でのデータ比較を視野に入れた広域連携の仕組みを整備する。単に個々の事業者が競争するだけでなく、必要に応じて成果を共有し、外部に情報を提供することで、新たな旅行商品の開発や設備投資、企業誘致につながるとの見解を示している。

(3)経営状況に関するデータのモニタリング
 収集したデータを生かした観光施策の効果検証や経営状況の可視化、競合地域との比較を定期的に行うことが必要となる。

 観光庁は2023~2027年度の5カ年計画としてロードマップを作成し、合わせてKPIを策定。

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データ活用推進のロードマップ
(出典:観光DX推進のあり方に関する検討会資料)

 情報発信・予約・決済機能を提供する地域サイトについては、すべての登録DMOで構築することを目標に掲げた。すべてのDMOに対し、データに基づいた経営戦略の策定を求め、CRMやDMP(デジタル管理プラットフォーム)を活用する登録DMOについては、全体の3割程度にあたる90法人を目指すとした。

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報告書で取得が奨励されるデータの一覧
(出典:観光DX推進のあり方に関する検討会資料)

 地域の収益向上の要となる宿泊施設のDXも促す。KPIとして、PMS(ホテル管理システム)などの導入を要件とする「高付加価値経営旅館等」の登録数2000施設という目標を掲げた。また、DX人材を育成するため、登録DMOなどでDX関係業務に就くすべての人に教育プログラムの受講を求める。

 これらのKPIを達成するため、観光庁は2024年度から新たに、旅行者がよく利用するGoogleビジネスプロフィールやオンライン旅行代理店への情報掲載や、CRM導入やデータ活用に関する研修を始める予定だという。 【次ページ】年間約2000万人が来訪する箱根温泉が稼げる理由

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