【2008年08月07日 00時00分 更新】

東京大学大学院技術経営戦略学教授 経済産業研究所 ファカルティフェロー 元橋一之氏

【インタビュー】 米国との違いは何か?日本企業におけるIT活用の現状と求められるIT経営の姿

東京大学工学系研究科技術経営戦略学教授の元橋一之氏は、マクロ/ミクロの両面から見たIT投資と経済成長の関係やITと経営の親和性に関する国際比較分析などを行っている。それらの研究成果から、主に米国との比較データに基づいた日本企業におけるIT活用の傾向や問題点、今後目指すべきIT経営のあり方などについてお話を伺った。

【元橋一之氏 基調講演】9月10日開催「NEC Middleware Day 2008」


ITによる生産性向上で米国に遅れをとる日本

【マネジメント】米国との違いは何か?日本企業におけるIT活用の現状と求められるIT経営の姿

東京大学大学院技術経営戦略学教授
経済産業研究所 ファカルティフェロー
元橋一之氏

 ITの黎明期から今日に至るまで「IT先進国」と称されてきた米国と比べて、日本では企業におけるIT活用が遅れていると言われている。その違いはどこにあるのだろうか?

 元橋氏の調査結果によると、マクロレベルで見た日本のIT投資水準そのものは、米国と比較しても遜色ないものだという。一方で、両国の違いが顕著に表れたのが、経済成長の大きな要因である「生産性」に対してITが与えるインパクトだ。

「経済成長の主な要因としては、労働、資本、生産性の3つがあり、特に先進国の経済成長を大きく左右するのが生産性です。この生産性とITとの関係を比較分析したのですが、日本の場合はTFP(全要素生産性:Total Factor Productivity)に対するITの寄与度が米国の半分程度しかないことが分かりました」(元橋氏)

 つまり、同じレベルでIT投資を行っていたとしても、それを生産性向上という効果に結びつける力が日本は米国よりも弱いということになる。こうした結果を踏まえ、元橋氏はさらにITをどのように経営に活かしているのかという点に着目してそれを企業レベルで分析するために、2007年2月、経済産業研究所で日本・米国・韓国の企業を対象とした国際比較のアンケート調査を実施した。

 その結果、明らかになったことの1つが、ITシステム導入において重視されている目的が日米の企業で大きく異なっているということである。


日本は基幹系システム、米国は情報系システムに注力

「日本の企業が主に投資しているのは『基幹系システム』です。これはミッションクリティカル系システムとも呼ばれており、ごく簡単に言えば日々の定常的な業務を効率化し、安定的に進めるためのシステムということになります。調査対象が上場企業・大企業だったこともあり、比較的古くからIT投資を行っていた企業が多く、この基幹系システムの導入はかなり進んでいることが分かりました。

 一方、日本企業で導入が遅れているのが、基幹系システムに蓄積された社内データや社外から収集したデータを分析してマーケティングや経営判断などに活用する『情報系システム』です。こちらはオペレーショナルな業務ではなく、売上拡大や新規ビジネス開拓のために使うシステムであり、まさに『攻め』のIT経営といえるでしょう。米国企業はこの情報系システムへの投資が非常に活発で、広く導入が進んでいます。」(元橋氏)

 企業がITシステムを導入する目的として、かつての業務効率化やコスト削減だけでなく、データ分析による意思決定支援や競争力強化がより重要になってきたと言われるが、この調査結果からは、日本企業の多くが依然として旧来型のIT活用に留まっていることが分かる。その点が「攻め」のIT経営に積極的に取り組んでいる企業の多い米国との大きな違いであり、ITの生産性に対する貢献度に差が生じている理由といえるだろう。

 米国と日本では企業文化や組織構造が異なり、日本企業でなかなか情報系システムの導入が進まない要因もそこから見て取れる。よく言われる違いが、日本企業では意思決定のプロセスがボトムアップ型であるのに対して、米国企業はトップダウン型であるという点だ。また、それに関連してITシステム導入のキーパーソンとなるCIOの立場にも違いがある。元橋氏によると、日本企業の場合は総務や財務系の役員が兼任でCIOを務めるケースが多いのに対し、米国企業のCIOは基本的に専任であり、外部からITシステムのエキスパートをCIOとして迎え入れることも多いのだという。


企業におけるIT活用の4つのステージと
日米企業の位置づけ

【マネジメント】米国との違いは何か?日本企業におけるIT活用の現状と求められるIT経営の姿

「ITシステム導入においては、
全体最適化が非常に重要に
なってくるのです。」

 企業におけるIT利活用のレベルを、元橋氏は4つの「ステージ」に分類している。ステージ1は、IT投資を始めて「とりあえず入れて使ってみる」という段階。ステージ2は、部門内におけるITの有効活用である。これがステージ3になると、部門の壁を越えて全社的に最適化されたIT活用となる。基幹系システムはステージ3までであり、情報系システムを導入して経営判断や新商品開発のために戦略的にデータを活用するような「攻め」のIT経営は、その先のステージ4とされる。

 日本企業の多くはステージ2から3に位置づけられ、特にステージ2の企業が多いと元橋氏は分析する。これに対して、米国企業はステージ3から4に移っているという。もちろんステージ4の日本企業も存在するが、やはり「米国に比べると圧倒的に少ない割合」なのだそうだ。

「日本企業では現場の力が強く、ITシステム導入もボトムアップ型で進むことが多いことから、ステージ2に該当する部門ごとの有効活用はかなり進んでいます。たとえば会計部門なら会計システム、生産部門なら生産管理システムを活用した業務の効率化などが例として挙げられます。しかし各部門で個別に最適化が進んでしまうと、複数部門にまたがってデータを集計したり、全社的にITを有効活用しようとしたときに、必ず不整合が起こる。そこで、ステージ3の全体最適化が非常に重要になってくるのです。」(元橋氏)


「攻め」のIT経営を実現するために日本企業は何をすべきか

 今後、日本企業がITによって生産性を向上させていくためには、言うまでもなく経営判断や新規ビジネス開拓にITを戦略的に活用すること、すなわち「攻め」のIT経営が求められる。ただ、それは単に情報系システムを導入すれば実現できるわけではない。

「日本の企業ではこれまで、ビジネスにおいて経験に基づいた『暗黙知』が重視されてきました。まず、これを『形式知』化する必要があります。各社員、部門、工場などが個別にもっているノウハウやそれぞれの業務プロセスなどの暗黙知を、ITシステムで扱える形式知にして、お互いに共有できるようにするわけです。

 そして、それを支えるシステム基盤をしっかりと整備することが重要です。このシステム基盤に求められる機能とは、社内の各部門に散在した情報を統合管理し、それらの情報を全社で有効に活用できるようにすること。それは、ステージ2の企業がステージ3の全社最適化を実現する上でも不可欠の要素となります。

 また、柔軟に変化に対応できるフレキシビリティも、システム基盤に求められます。ビジネスを取り巻く環境がダイナミックに変化している昨今、全社的に連携しているシステムなら、たとえば特定部門のオペレーションが変わったり、部門間の連携の関係が変わることも珍しくないでしょう。こうした変化に対応していくために、SOAのような技術を取り入れていくことも有効です。」(元橋氏)

 インフラ的な要素としては、このような「基幹系システムの足腰」を整えた上で、ステージ4の情報系システムの活用に取り組むことが必要だという。加えて、人的な要素としては「企業のトップが経営におけるデータの重要性を認識し、データを信じられるかどうかが成功の鍵を握る」と元橋氏は指摘する。

 なお、元橋氏は9月10日に開催される「NEC Middleware Day 2008」で基調講演に登壇する予定だ。最後に、同セミナーに向けてのメッセージをいただいた。

「『攻めのIT戦略とは何か?』をテーマに、日本と米国のIT活用の違いにフォーカスして講演させていただきます。アンケート調査による定量的データだけではなく、米国企業へのインタビューなどを実施して定性的な情報もいろいろと集めていますので、当日はその中から具体的な事例などもご紹介したいと思います。興味のある方は、ぜひ聞きにいらしてください」。


受講申し込みはこちら

┏┓「NEC Middleware Day 2008」
┗■〜ビジネスイノベーションを加速させる“攻め”のIT戦略を考える〜

■日時:2008年9月10日(水) 13:00〜17:30(受付開始 12:30〜)
■会場:セルリアンタワー東急ホテル
■受講料:無料/事前登録制
■主催:NEC
■運営協力:ソフトバンク クリエイティブ



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