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  • 2008/11/11 掲載

米国における社会保障番号の利用実態 【第9回】情報戦略ガバナンス(2/2)

ボストン・コンサルティング グループ 井上潤吾氏

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日本の制度の構造的原因

 日本の制度が細切れになった背景には、構造的な原因がある。まず、縦割りの官公庁組織のために、導入時期が大きく異なる仕組みの制度設計が、担当部署ごとに別々に実施されたことである。たとえば、厚生年金の制度は旧厚生省が制度設計を行い、共済年金は公務員それぞれの管轄省庁が制度設計を行った関係で、同じ年金でありながら、1996年に基礎年金番号が導入されるまでは、それぞれ加入していた年金制度ごとの番号によって、加入者記録を管理していたのである。

 次に、国家による統一的な識別番号管理に対する国民の拒否反応がある。これは、昨今の住基ネット導入時にみられたように、利用者である国民へのメリットの訴求が不十分なまま、プライバシー侵害や国家による管理強化といったデメリットがマスコミによって強調されると、国民は感情的な拒否反応を起こすのである。縦割りや国民感情を考慮し、社会保障制度は本来どうあるべきかという「グランドデザイン」にさかのぼって本格検討をする必要があるのだ。

 さらに、政府のIT 調達という視点で考えた場合、現状の調達は「費用(コスト)の削減」に主眼が置かれすぎるきらいがある。国民の税金を用いて調達する以上、無駄な費用の削減は必須であることは言うまでもない。しかし、本来考えるべきは「費用対効果」ではなく、「投資対効果」の向上だ。

 なぜなら、「費用の削減」が目標になれば安く調達することに主眼が置かれ、かけた費用の結果としての機能、すなわちシステム導入によって、どのような効果(国民に対するサービス)を得るのかといった視点が弱くなってしまう。

 一方、「投資対効果」は、そもそもの効果を最大化するためにどれだけ適正な価格で投資をするかという視点で考えるため、本来のグランドデザインを実現にふさわしい考え方であり、民間企業では極めてオーソドックスな考え方である。

あるべき姿に向けた
制度設計の方向性

 社会保障制度をそのインフラであるシステムの機能でみた場合、大きく3 つに集約される。

1、年金や健康保険料等の「徴収」
2、基礎年金番号の統合作業等の「記録」
3、年金や保険料等の「給付」

 効率的な制度設計とは、これら3 つの機能を社会保障番号によって効率よく管理し、無駄な維持コストが省力化できることである。しかし、社会保障番号による制度設計にはリスクも存在する。たとえば、SSN と氏名、住所などの個人情報を不正に入手して本人になりすまし、クレジットカードを発行したり運転免許を申請したりという被害である。

 このような情報を不法移民に対して売りさばく情報ブローカーも存在する。そうしたリスクに対して、導入先進国ではさまざまな対策を講じている。とくに米国では、発行されたSSN を盗まれないための予防措置を強化している。

 まず、認証のためにSSN を不必要に多用しないため、何らかの登録に際してSSN を開示するリスクを避けるよう国民に呼びかけている。さらに、個人の氏名・住所などの情報とSSN を切り離して管理するため、免許証や学生証などのID にSSN を記載することを制限している。

 ここで重要なことは、制度のリスク面ばかりを強調して本来あるべき効率的な制度設計を後回しにしてはならないという点である。さもなければ、国民の税金の「投資対効果」の向上には繋がらない。効率的な制度設計を基本に据え、それに伴うリスクに対しては、諸外国の事例を研究して最善策を検討することで回避していく姿勢が必要である。

 制度設計の効率化を実現することによって、社会保障制度のより付加価値の高い効果を考えることができるようになる。すなわち、社会保障に関わる国民サービスの充実である。たとえば、米国においては、年金において401k 制度の活用促進に向けた投資教育サービスを提供している。また、欧州においては、医療機関の評価/ 監査、予防医療の強化に向けた教育などのサービスを提供している。これら実際の事例に加え、年金や保険、社会福祉を総合的にみて、どの制度をどう活用してライフプランを設計していくかといった相談や、ファイナンシャルプランの相談などのアイデアも考えられる。

 以上みてきたように、効率的な社会保障制度を再設計することで、より付加価値の高いサービスを検討していくことが、本来の社会保障制度の「投資対効果」を考えることなのである。その意味で、今後、単に年金制度の不備を解消するという後向きの発想に留まらず、本来あるべき「投資対効果」の議論が今後活発に行われ、「グランドデザイン」をもとに制度設計と国民サービスの向上を図ることを検討してほしいものである。

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