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2012年06月28日

「サイバー攻撃に強い組織」を作る

CSIRTとは何か?5分で理解する企業内セキュリティインシデント体制構築の方法

システムの脆弱性を突いた不正アクセスやマルウェア感染、標的型攻撃による情報漏えいやシステム破壊などは後を絶たず、脅威のレベルも年々増大する傾向にある。これを情報システム部門ですべて対応するには限界がある。このような現状において、今大きく注目されているのが、インスデントに対処するための組織、CSIRT(Computer Security Incident Response Team)だ。CSIRTを自社内に設置すると、他企業、他組織と連携しながらインシデントに効果的に対応できるようにする体制・仕組みが構築できる。このCSIRTの詳細と構築・運用方法について詳しく見ていくことにしよう(監修協力:日本シーサート協議会)。

執筆:池田冬彦

1分:変容するインシデントと脅威の拡大

1分変容するインシデントと脅威の拡大
2分CSIRTの登場と発展について
3分今、なぜCSIRTが注目されているのか?
4分CSIRTはどのようにして作ればいい?
5分社内CSIRT構築のポイントは?
 情報セキュリティにおける脅威は年を追うごとに複雑化し、手口も巧妙化している。既存のファイアウォールやIDS/IPSといった不正侵入防止のためのシステムは、インシデントを未然に防ぐという発想で設置されているものだが、現実にはこれらを装備するだけで企業情報システムが完璧に守られるものではない。

 近年はインシデントの種類が変化し、これらの防衛システムをすり抜けて実害を及ぼす事例が増えているのだ。この実例の1つとして挙げられるものが、2005年頃から蔓延したボットネットの存在だ。ボットネットは、マルウェアを利用してインターネット上のコンピュータを乗っ取り、遠隔操作されてしまうコンピュータ群のことだ。

 ボットに関する解析と活動に関する調査、啓発活動などを行う「サイバークリーンセンター(CCC)」によると、2005年に2000万台のコンピュータを調査したところ、既に40〜50万台のパソコンがボットに感染していたという。この状況はますます深刻化し、次々と新しい新種のボットが出現し、今もなお、新しいインシデントを生み出している。

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ボットネットワークの仕組み

(出典:サイバークリーンセンター)


 さらに、企業にとって特に大きなダメージとなるのが「標的型攻撃」である。これは2006年頃から目立って増えてきた攻撃だ。特定の企業や組織をターゲットとし、その企業にゆかりのある人物や組織からのメールとみせかけてマルウェアを送りつけたり、特定のWebサイトからマルウェアをダウンロードさせたりする。

 このような標的型攻撃は、世界的に広く蔓延するタイプのマルウェアと違い、ピンポイントで特定の企業だけが狙われる。そのため、セキュリティベンダーが脅威を検知することが難しく、ウィルス対策ソフトも役に立たないケースが少なくない。また、近年では、標的型攻撃ではない事例でもゼロデイ攻撃(ソフトウエアなどに脆弱性があり、修正プログラムが提供されるまでに行われる攻撃)が行われるケースも増えており、対策が後手後手に回りがちだ。

2分:CSIRTの登場と発展について

 既存のセキュリティシステムでは、近年問題となっている悪質、かつ、巧妙な脅威に完全に対抗することは極めて難しくなっている。セキュリティの世界では昔から、守る側と攻撃する側との「イタチごっこ」という様相が指摘されていたが、その事実は今も変わっていない。インシデントを100%完璧に防ぐことは不可能だ。

 もちろん、インシデントに対抗するためのセキュリティシステムの整備やパッチの適用、セキュリティに関する啓蒙活動や制度上の整備などは重要だ。しかし、インシデントが発生しないという前提でセキュリティ対策を講じることは非常に危険だ。いざ、インシデントが発生してしまった場合、その対策(インシデント・レスポンス)を行えないからである。

 インシデントの発生の迅速な検地と的確な対応を行うための何らかの対策を講じるインシデント・レスポンス体制の整備も重要な課題である。このために機能するのが今回主題となるCSIRT(Computer Security Incident Response Team)の主たる目的である。

 CSIRTを一言で表現すれば、インシデントが発生した場合その通知を受け取る窓口として機能し、その状況を他のセキュリティ関連組織と連携して把握・分析して適切なレスポンスを提供する組織のこと。

 CSIRTの歴史は非常に古く、1988年に遡る。アメリカでモリスワームというマルウェアが発生し、ネットワークに甚大な被害を与えたことから、情報の共有や組織間連携といった相互協力体制でインシデントに対応する必要性が高まり、その連絡調整を担う組織として「CERT/CC(コーディネーションセンター)」というCSIRTが米カーネギーメロン大学内に設置された。これが世界で最初のCSIRTだ。

 その後、世界各国で同様のCSIRTが作られるようになり、各国のCSIRTをまとめ、他国との情報の収集や共有を行うための世界的な組織「FIRST(Forum of Incident Response and Security Teams)」という国際的な非営利団体も1990年に設立された。日本では「JPCERT/CC」という日本国内におけるインシデント・レスポンスを担当する組織が1996年に発足した。ちなみにJPCERT/CCはFIRSTの会員である。

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FIRSTの日本の会員一覧(http://www.first.org/members/map)。現在、JPCERT/CCのほか、民間企業など22社が名を連ねており、後述する日本シーサート協議会のメンバーも多い


3分:今、なぜCSIRTが注目されているのか?

 これまでに述べてきた通り、インターネット上の脅威が拡大し続けている今日、企業がインシデントがまったくない状況を作り出すのは困難だ。そのため、インシデントが発生することを前提として、発生後の的確な対応が強く求められている。既に、情報システム部門だけが単独でこうした体制を構築し、処理することは困難な状況にある。では、企業としてどのように対応すればよいのだろうか? この問題について、日本シーサート協議会運営委員長の村上晃氏、同協議会事務局の瀬古敏智氏、山本健太郎氏に話を伺った。

 村上氏は、「CSIRTは事故前提のうえで、社内におけるセキュリティインシデントの“消防署”としての役割を担う」と言う。つまり、社内にCSIRTを設置し、インシデントが発生することを前提として、いざインシデントが発生すれば、技術的な支援や組織内全体の調整や統制などの活動を行い、被害の局限化と迅速な復旧を支援する。最初の火消しを行えば、あとは関連部署や専門部隊に引き継いで、運用を続けるようなイメージだ。

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企業内CSIRTは、事故が起こった場合に対応する地域の消防団のようなイメージ

(出典:日本シーサート協議会)


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組織内CSIRTが直接的に対応する例

(出典:JPCERT/CC)

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組織内CSIRTが各部署における対応について支援する例

(出典:JPCERT/CC)

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組織内CSIRTが外部の対応組織に対して調整役として対応する例

(出典:JPCERT/CC)

 「もし、マルウェアの感染や情報漏えいなどのインシデントが発生した場合、すべきことはたくさんあります。どのように状況を調べ、技術的に対策し、どこへ報告すればいいのか? また、広報などを通じて顧客などへどうアナウンスするか? これらはとても1人ではできないし、企業の各部署との連携も必要となります。また、自社だけで解決できない問題は、社外リソースの活用も求められます。このためにCSIRTが必要なのです」と村上氏は語る。

 また、瀬古氏は「CSIRTはすべて、自前の組織にする必要はない」と言う。企業の規模や能力などによって、自社でできることは限られている。「外部のセキュリティレスポンスチームと連携することもCSIRTの重要なポイントと言えます」(瀬古氏)。

 たとえば、組織内CSIRTがインシデントに直接対応する、あるいは、組織の部署内での対応を支援、調整する、または、インシデントへ直接対応せず、外部の対応組織への調整役として機能する、など、さまざまな役割が期待できる。

 このように、CSIRTは「事故前提」のもと、社内における組織を超えた横の連携、および、社外のチームとの連携が大きな鍵となっている。そのためには、社内においてCSIRTの活動内容とセキュリティに関する啓蒙活動を行うとともに、社外のインシデント対応チームとの信頼関係を作り、連携が可能な体制を構築することが必要になってくる。CSIRTが適切に機能すれば、もし、社内で「火事」が起こっても被害を最小限に留められ、再発防止にも貢献できる。

【次ページ】今、なぜCSIRTが注目されているのか?CSIRTの作り方

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