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2017年04月17日

連載:企業立志伝

ミズノ創業者、水野利八氏が燃やした「スポーツ大国日本」への情熱

「球春」という言葉があるようにプロ野球が開幕する季節は野球好きの人にとって心躍る季節の一つと言えます。3月と8月に甲子園で開催される高校野球にも多くの人が熱狂しますが、日本で野球がこれほど盛んになるうえで大きな貢献をしたのがスポーツ用品メーカー・ミズノ(美津濃)の創業者・水野利八(幼名・仁吉。1910年に利八を襲名)氏です。「オーバーセーター」「カッターシャツ」「ボストンバッグ」「ポロシャツ」など、いまも日本人になじみのある言葉を生み出すとともに、日本がスポーツ大国となる礎を築いた功労者は何を考え、どう事業を拡大していったのでしょうか?

執筆:経済・経営ジャーナリスト 桑原 晃弥

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野球は日本の国民的スポーツとなった

(© mtaira – Fotolia)


接待・値引き禁止。大切なのは品物に対する信用である

 1884年、岐阜県大垣市に生まれた水野氏の父親は名字帯刀を許され、町の人々から「殿様ご用の棟梁」と呼ばれるほど腕のいい大工でしたが、1893年、水野氏9歳の時に亡くなっています。

 当時、水野氏の家は2年前に起きた濃尾大震災による仮住まい生活を送っていたうえ、頼りの父親まで亡くなったことで厳しい生活を余儀なくされています。母親だけが頼りの中、幼い水野氏はこう決意しています。

「自分の手で水野家を再興する。水野家再興の証として、間口は昔と同じでも、高さは百尺の店を建ててみせる」(『スポーツは陸から海から大空へ』p101)

 この思いはやがて水野氏が1927年、大阪・淀屋橋に建設した地上8階建てという、当時の大阪では屈指の高層ビルと話題になった美津濃本社ビルとして結実することになりますが、その約30年前の1896年、水野氏は興文高等小学校を1年で中退、「本当の商売人」になるために大阪・道修町の薬種問屋・川崎屋に奉公に出ています。

 当時の奉公は給料も出ず、休みもほとんどない厳しいものでしたが、「商い」は水野氏の天分に合っていたようで、1年も経たないうちに「しかま」という薬屋の番頭格になったばかりか、14歳で川崎屋の仕入れ一切を任されるようになっています。やがて京都の織物問屋・小堀商店に転じた水野氏はここで商いに必要な2つの原則を学んでいます。

 一つはのちのミズノにも受け継がれる「接待の禁止」です。当時、接待は商売の常識でしたが、水野氏は接待をすることで遊び癖がつき、やがてお金に困って店のお金を使いこむ人をたくさん見てきたことで接待を禁止しています。もう一つの「値引きの禁止」についてはこう話しています。

「商売というもんは、品物に対する信用や。お客さんの方でも、あいつは値引きせんけど、ええ品物くれよる、結局は得、ということで、ひいきにしてもらいました」(『スポーツは陸から海から大空へ』p113)

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(クリックで拡大)

ミズノの年表

出典:『スポーツは陸から海から大空へ』をもとに著者作成



闘病中に猛勉強したのは大実業家になるため

 こうした商いの原則と並んで、もう1つ水野氏が強く影響を受けたのが野球でした。当時人気の三高野球クラブの試合を見た水野氏は「世の中にこんな面白いものがあるのか」と心躍らせ、試合が行われる日には終日、見続けていたと言います。

 1905年、日露戦争に出征した水野氏は戦場で発病、長い闘病生活を送っていますが、この時、その後の人生を変えるアイデアを思いついています。

 一つは戦友たちと野球談議に花を咲かせる中で生まれた「将来、実業人の野球チームで大会を開いてみたら面白い」というアイデアと、もう一つは水野家再興のために「他人の手を借りず、どんな小さな商いでもいいから、自分の足だけで一歩一歩階段を上がっていく」という決意です。

 前者がやがて全国高校野球大会につながり、そして後者が独立につながっていますが、そのために水野氏は闘病中、すさまじいほどの勉強に取り組んでいます。当時の日記には「1時間、外国地理」「経済、作文、算術を勉学す。毎50分」といったスケジュールがびっしりと書き込まれています。理由をこう話しています。

「勉学をなすは、将来、大実業家たらんがためなり」(『スポーツは陸から海から大空へ』p124)

【次ページ】商品をつくりながらマーケットもつくる

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