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2016年09月29日

芸術とビジネス

宝生流能楽師 辰巳満次郎氏が語る「伝統芸能が訪日観光客に注力する理由」

2013年から順調に伸びを見せる訪日外国人数。東京オリンピックを控え、観光産業やエンタメなどのコンテンツ分野や活気を帯びている。伝統芸能の「能楽(能と狂言)」もこの好機を利用しようとしている。その試みの一つが9月8日、9日、15日、16日に行われた「能楽堂リレー公演2016能 『葵上』」だ。この公演では、宝生流と観世流がタッグを組み、双方が持つ場所と人を活用し、訪日観光客を中心とした新たなる観客の開拓と新しいビジネスモデル構築に挑んだ。伝統芸能として盤石なファンとノウハウを持っていそうな能楽がファンの獲得とビジネスモデル改革に駆り立てられた理由は何か。シテ方宝生流能楽師 辰巳 満次郎氏に話を聞いた。

(聞き手・構成:編集部 佐藤 友理)

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公益社団法人宝生会 理事
シテ方宝生流 能楽師
辰巳 満次郎氏



「リレー公演」とは

──今回の公演の名前は「能楽堂リレー公演2016能 『葵上』」ですが、この「リレー公演」とは、通常の能の公演とどう違うのでしょうか。

辰巳氏:能は通常、単発の日程で上演されます。歌舞伎や一般的な舞台の場合、だいたい1か月単位で同じ出演者、同じ演目でほぼ毎日公演しますよね。たまに出演者が変わることもありますが、基本的には顔ぶれは変わりません。しかし、能の場合は『○月×日にX、Y、Zという出演者がAという演目を上演する』という形をとります。なので、Aという演目を見たくても、公演日の都合がつかなければ見られない。また、Xという能楽師が演じるAという演目を見たい、となると、見たい公演を見つけるのはもっと難しくなります。

 もともと、この「単発公演」という公演形式は、能の「一期一会」の精神にのっとっているのですが、働くみなさんは忙しいですし、日本人・外国人観光客にとっては、スケジュールも立てづらい。そこで、「リレー公演」というものを企画しました。

 今回試みた「リレー公演」では宝生流の宝生能楽堂と観世流の矢来能楽堂という2つの能楽堂が連携し、平日の夜4回にわたって、能の中でも有名な演目「葵上」を上演しました。

 能の舞台は分業制で成り立っており、役割ごとに複数の流派があります。そのため、能の「葵上」といっても、5つのパターンがあります。今回は観世流・宝生流の2パターンの「葵上」を上演しました。

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「番組」と呼ばれる能のプログラム。左側が英語、右側が日本語。8日と16日が宝生流「葵上」、9日と15日が観世流「葵上」であることがわかる。能楽の公演は能2本以上と狂言1本以上で構成されるが多いが、本公演では能1本のみ。


能楽堂版シェアリングエコノミー

──「能楽堂リレー公演」の狙いをお聞かせください。

辰巳氏:一言でいえば、能楽堂の活性化です。能楽は千年以上の歴史を誇る日本の伝統芸能で、流派ごとに能楽堂を持ち、そこで観客を迎えています。能楽堂という場所は、いわゆる「劇場」とは異なります。舞台の上で能楽師、狂言師、囃子方(楽器の演奏者)が技を磨いて披露する場であり、流派の能楽師が稽古をする場であり、その流派の能を習いにくるお弟子の方々の稽古の場でもある。能楽堂とは、舞台、訓練場、そして流派というコミュニティー形成などの多様な側面を持つ独特の場所です。

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「能楽堂リレー公演2016能 『葵上』」チラシ。日本語版と英語版が用意された。「葵上」は源氏物語をもとにした演目。写真は両方、「葵上」の中で最も重要な役、六条御息所のもの。


 日本全国に約70の能楽堂がありますが、能楽堂は流派と結びついているために、能楽堂間の流派を超えた連携は、これまでほとんど存在しませんでした。たとえばある能楽師が公演をしたいときに、自分の流派の能楽堂が空いておらず、公演を断念せざるを得ないとします。でも、他の流派の能楽堂に空きがある、なんてこともあります。もったいないですよね。こういうことが積み重なって、能楽堂の運営が傾けば、能楽堂の改修が必要になった際に費用を捻出できず、われわれ能楽師が舞う場を失います。

 そこで、「流派を超えて連携し、共存共栄を考えませんか」と流派の家元などにお話しし、流派を超えて能楽堂をつなぐ「能楽堂ネットワーク協議会」を立ち上げ、同じ演目を複数日程にわたり複数の能楽堂で上演する「リレー公演」というビジネスモデルを実現させました。「使われていないもの・場所と人をマッチングして利用する」という意味では、UberやAirbnbなどのシェアリングエコノミーに通じるところがあります。

【次ページ】伝統芸能が訪日観光客に注力する理由

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