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  • 2015/06/29 掲載

だからセブン銀行やソニー損保は「戦わずに」勝てる 山田英夫 早稲田大学教授インタビュー

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あなたの会社は、従業員が残業や休日出勤などもして懸命に働いているのにも関わらず、「儲からない」「勝てない」ということはないだろうか。その一方で、それほど躍起になって働いているわけでもないのに、なぜか儲かっている会社もある。その差は一体何なのか。その視点で企業の戦い方を分析し、3つのタイプの「競争しない競争戦略」を掲げるのが、早稲田大学ビジネススクール 大学院 商学研究科の山田英夫教授だ。
(聞き手は編集部 松尾慎司)

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早稲田大学 ビジネススクール 大学院 商学研究科
教授 山田 英夫 氏

孫氏と生物学に学ぶ“戦わない”戦略

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──「競争しない競争戦略」という考え方はどういうきっかけで生まれたのでしょうか。

山田氏:日本では、競争の激しい業界ほど儲かっていないという話を色々な方から聞きます。しかも、誰もサボっていない。皆が一所懸命に働いているのに儲かっていないのです。一方、シャカリキに働いているわけでもないのに、儲かっている会社もある。この差は何なのか。

 過酷な競争状況にある日本企業がある中で、戦わない状態を作るための考え方やヒントを提示することはできないか。そう考えたのです。

 また、歴史を振り返ってみても、約2500年前の中国の兵法書『孫子』には「戦わずして勝つ」という有名な言葉があります。生物学でも、種間競争/種内競争を生き抜くために、“棲み分け”と“共生”が存在しています。つまり人類や生物の歩みの中には、“戦わない”という戦略が1つの「王道」としてあるということです。

 とはいえ、これらの理由は後付けで、このタイトルを先に決め、その内容で本を書こうと考えたのです。このタイトルでなければ、執筆はあきらめようと思ったほどで、このタイトルこそが、私の言いたいことのすべてを物語っています。

──先生は「競争しない競争戦略」を、「ニッチ戦略」「不協和戦略」「協調戦略」の3タイプに分類されています。

山田氏:競争しない競争戦略は、生物学で言う「棲み分け」か「共生」に大別でき、棲み分けに相当するのが「ニッチ戦略」と「不協和戦略」、共生に相当するのが「協調戦略」分類です。

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「競争しない競争戦略」の分類
(出典:『競争しない競争戦略』、山田英夫著、日本経済新聞出版社、2015)


 ここでいう「ニッチ戦略」とはリーダー企業との直接競合を避け、棲み分けした市場に資源を集中する戦略のことです。その市場は、大手企業が参入しようとしても参入できない市場で、“大手が入れない”というのがミソです。決して小さな市場だけを意味しているわけではありません。

 さらにニッチ戦略は、質的なニッチと量的なニッチのニ軸に分類することができます。前者は、その分野のリーダー企業でもカバーできていない経営資源の優位性を武器に、特定分野で事業を展開する戦略、後者は、リーダー企業にとっては小さすぎる市場、あるいはコストがかかり過ぎる市場を開拓して、そこに集中して事業を展開する戦略のことです。

 以前から、技術力の非常に高い小企業の戦い方をニッチ戦略と呼んでいましたが、市場規模をある一定以上に大きくしないことで、大手の参入を阻むというのも立派なニッチ戦略だと言えます。量を求めるリーダー企業は、これと同じ戦略はとれません。

──ニッチ戦略をとるとどこかで頭打ちになる印象もありますが、企業として成長していけるのでしょうか。

山田氏:具体的には2つの方法があります。1つめが「マルチニッチ戦略」です。大手企業がいる市場には入っていかず、ある小さな市場で自社が先発となり、圧倒的なシェアを獲り、ある程度確立すると、今度は別の市場を作っていくという戦略です。

 この戦略で成功しているのが小林製薬です。「トイレ その後に」や「熱さまシート」など、ユニークな商品名で知られた会社です。そもそもP&Gや花王などの大手企業はブランド戦略の関係から、こうしたネーミングはできません。また、小林製薬はある一定以上売れると、市場をそれ以上拡大しないよう、広告を抑えているようにも思います。

 このように、商品1つ1つの売上規模は小さいながら、そういう製品を年間に数多く出しています。ニッチを作る会社には、どうすれば大手と違うやり方ができるか、あるいはニッチの作り方に長けるノウハウが溜まってくるので、こうした「マルチニッチ」が可能になるのです。

 2つめが「チャレンジャーへの転換」です。一般にニッチ戦略で成功している企業は、売上規模は大きくありませんが、利益率は高い。一方、リーダー企業は、売上も利益率も高い。成功したからと言ってニッチ企業が規模の拡大をしていくと、利益率はだんだん落ちてきてしまいます。ニッチだったからこそ利益が出ていたわけで、中途半端な規模になると儲からなくなるのです。

 チャレンジャーへの転換とは、規模の拡大を目指したために利益率が落ちてしまった状態から、とにかくアクセルを一気に吹かして抜け出し、リーダー企業と競争できる所までもっていく戦略です。

 これを実現したのが日本のスターバックスです。1996年に日本に参入したスターバックスは当初、都心部を中心に小さく展開し、価格も高めに設定し、高い利益率を確保していました。ところが現在では、病院や学校などへの出店、ANAとの提携、さらには鳥取県への進出など、店舗数を一気に増やす戦略へと転換しました。その際に自社の力だけでの展開が難しいようであれば、他社との協業も視野に入れて取り組んできました。

【次ページ】セブン銀行やソニー損保はなぜ「戦わずに」勝てるのか

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