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  • 2019/01/10 掲載

インドが死に物狂いでバイオ燃料に注力するワケ

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13億の人口を抱えるインドでは近年、都市部での大気汚染がひどく、その深刻さは世界屈指ともいわれている。その汚名返上の効果もねらって、現政権が注力しているのが、バイオ燃料の普及だ。きれいな空気を取り戻すだけでなく、ほかにもさまざまなメリットが期待できるバイオ燃料。現地在住のインド人コンサルタントが、インドのバイオ燃料事情を詳説する。

エクシール・エフ・エー・コンサルティング ガガン・パラシャー、大塚賢二

エクシール・エフ・エー・コンサルティング ガガン・パラシャー、大塚賢二

ガガン・パラシャー

IILM卒。財務分析、投資コンサルティング、ビジネス調査の経験を経てBig4系列で法人事業コンサルティングに従事。その後X-Ciel Consulting Pvt. Ltd.を立ち上げ、エクシール・エフ・エー・コンサルティングに参画。インド北部ノイダで活躍中の気鋭のコンサルタント。


大塚賢二

東京大学法学部卒。金融機関、Big4系列コンサルティングファーム勤務等を経て現在、株式会社ファルチザンの代表を務める。中小企業の海外進出、金融機関の経営管理・内部統制の支援に注力。エクシール・エフ・エー・コンサルティングではガガン・パラシャーとともに中小、ベンチャー企業のアジア進出を支援。

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インドのバイオ燃料政策は同国の他の政策とも密接にかかわっている
(© Poprotskiy Alexey - Fotolia)

インドが、バイオ燃料政策に熱心な理由

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 インド政府は、より高い生産性や安全性を求めてエネルギー政策を推進している。エネルギー新時代に向けて環境のことを考えながら、「エネルギーの理想の組み合わせ」を模索している状況だ。

 旧来の化石燃料は有限で再生不可能なうえ環境にもよくないため、使うには配慮が求められる。一方、再生可能エネルギーは地球上のどこにでも存在し、環境を害することなく無限に使うことができる。そのため、実用化に向けた期待は高い。

 再生可能エネルギーの中でも、2018年5月に新たな政策が打ち出され、注目されているのがバイオ燃料である。主なバイオ燃料には、バイオエタノールとバイオディーゼルがある。

 バイオエタノールは、バイオマス原料から精製されるエタノールである。バイオマス原料としては、サトウキビ・シュガービート(てん菜の一種)・サトウモロコシなど糖分を含むもの、トウモロコシ・キャッサバ・藻類などデンプンを含むもの、バガス(サトウキビの搾りかす)・木くず・農林作業から出た廃棄物などセルロース由来のものがある。

 一方、バイオディーゼルは、ディーゼルとして利用できる植物油(食用・非食用問わず)や動物性脂肪から精製された脂肪酸メチルエステルや脂肪酸エチルエステルを指す。 なお、そのほかのバイオ燃料には、バイオメタノールおよびバイオ合成燃料などがある。

 インドでは、バイオ燃料に関する取組みは、「メイク・イン・インディア」「クリーン・インディア」といった、現政権が推進するほかの政策と方向性を同じくしているため、戦略的な重要性が高い。また、農業所得倍増、輸入依存低下、雇用創出、ゴミ再生といった、広範囲で意欲的な目標を統合する絶好の機会ともなる。 ちなみに、インドのモディ首相も、バイオ燃料政策に対しては以下のようにコメントしている。
ガソリンに混合させたエタノールの量は、4年前の3億8000万リットルから直近1年で14億1000リットルまで伸びたと思われる。今後4年で45億リットル前後のエタノールを精製するよう国として取組みたい。そうすれば、インドは年間1200億ルピー分の貿易収支を改善できる

 原油価格は、1バレル140ドルを超える水準まで高騰したことがある。こうした思いもよらない原油価格の上昇は、途上国に大きな影響を与える。石油燃料を補う、あるいは石油燃料に取って代わる代替燃料が、自国で採取できる再生可能な原料から開発されないうちは、インドのエネルギー確保は依然として脆弱なままだろう。バイオ燃料は、インドにとってエネルギー確保のための一筋の希望の光といえるのだ。

インドのバイオ燃料戦略を概観

 ここで、バイオ燃料をめぐるインドの国家戦略を項目別に紹介する。

1. 分類
基本的バイオ燃料:バイオエタノールやバイオディーゼルに代表される第1世代
先進的バイオ燃料:エタノールやドロップイン燃料(設備の改修を要さず既存の燃料にも混ぜて使える燃料)用の都市廃棄物のような第2世代
第3世代バイオ燃料:バイオ圧縮天然ガスなど
このように分類することで、資金・財源の適切な配分に役立っている。

2. エタノール精製原料の範囲の拡張
サトウキビ原液・シュガービート・サトウモロコシなど糖分を含むもの、トウモロコシ・キャッサバなどデンプンを含むもの、コムギ・損傷したイネ・傷んだジャガイモなどヒトの食用に適さない廃棄穀物のエタノール精製への使用が認められ、エタノール精製原料の範囲が拡張された。

3. 余った穀物でエタノールの精製が可能に
穀物生産量が過大になった場合、農家は適切な値段で作物を売れなくなるリスクがある。政策によって、全国バイオ燃料調整委員会に承認されれば、余った穀物を混合してエタノール精製に利用することができるようになった。

4. 採算ギャップ援助資金
先進的バイオ燃料を普及させるため、第2世代バイオ燃料であるエタノールの精製業者に対し、税制上の優遇措置を上乗せした上で更に6年間で500億ルピーの採算ギャップ援助資金が規定されている。これは、第2世代バイオ燃料を第1世代バイオ燃料より高い価格で売買できるよう政府が資金援助を行うスキームである。

5. バイオディーゼル精製のサプライチェーン
非食用油糧種子、使用済み料理油、未熟な作物から精製されるバイオディーゼルのサプライチェーン機能の整備を促進する。

【次ページ】インドのバイオ燃料政策の効果

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