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  • 2020/02/07 掲載

新経済指標「GDP+i」とは何か? デジタル時代のGDPは“消費者余剰”も含めるべきだ

連載:キャスター鈴木ともみの日本橋・兜町レポート

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各国の経済規模を比較する際に用いられる経済指標「GDP(国内総生産)」。1年間、国内で新たに生産されたモノやサービスの付加価値を数値化したもので、これまで最も重要な経済指標の1つとされてきた。だが、ここ数年は果たしてこのGDPが、デジタル化した現代の実体経済そのものを反映しているのかという疑問符がつき始めた。こうした中、野村総合研究所(NRI)が新たに提示する経済指標が「GDP+i(GDPプラスアイ)」だ。今回はNRI上級研究員の森健氏が日本記者クラブで行った「GDP+i」についての発表を紹介する。

キャスター 鈴木ともみ

キャスター 鈴木ともみ

経済キャスター、早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員、日本記者クラブ会員記者、FP。埼玉大学経済経営系大学院を修了し経済学修士を取得。TV、ラジオ、各種シンポジウムへの出演の他、雑誌やニュースサイトにてコラムを連載中。国内外の政治家、企業経営者、金融・マーケット関係者等へのインタビュー多数。STOCKVOICE TV『Tokyo Financial Street』のキャスターを務めている。

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野村総合研究所 上級研究員 森 健氏
(C)日本記者クラブ

自分を「上」「中の上」と感じる人が増えている

 NRIで上級研究員をつとめる森健氏は、ここ数年で国民の生活実感は変化してきていると指摘する。同社が3年ごとに行っている「生活者1万人アンケート調査」によれば、「世間一般からみた自分の生活レベルに対する意識」は上昇しており、2010年頃から生活者レベルが「上」もしくは「中の上」であるという回答は増加しているという。

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「世間一般からみた自分の生活レベルに対する意識」の推移
(出典:NRI 「生活者1万人アンケート調査」(1997年~2018年)。無回答を除外して集計)


 つまり、自分を「上」「中の上」と感じている人は、年齢を問わず増えており、さらに、スマホの利用頻度が高く、特にスマホを一時間に一回以上利用する人ほど、生活実感レベルが高いと感じている傾向になった。

 このアンケート調査を分析した森氏は、「自分の生活レベルに満足している人たちに共通しているのは『インターネットなどで生活情報、お得情報を集めることで、賢い消費ができるようになった』と回答している点だ。デジタルの活用度合いが高い消費者ほど生活の満足度が高く、ここ数年はその活用レベルが格段に高まったことで、賃金の伸びがなくとも、生活水準を高く維持している様子が定量的に観察できた」と説明する。

 つまり、GDPやCPIという既存の経済指標が低迷していても、デジタルの利活用によって、国民一人ひとりが賢い消費をするようになり、以前よりも生活の満足度が上昇してきているのである。

GDPに“ピンボケ”をもたらす「消費者余剰」

 さらに、この生活満足度が高まってきた背景にあるものは何かというと「消費者余剰」の拡大という事実が浮かび上がってくる。

 消費者余剰とは、消費者が最大支払っても良いと考える価格と、実際の取引価格の差分のことを言う。つまり、生活者が何か物を買ったりサービスの提供を受けたりするときに、この内容であればこれぐらいは支払っても良いと思う金額=「支払意思額」と、実際の価格との差分が消費者余剰となる。

 消費者にとっての「お得感」とも言え、この消費者余剰は既存のGDPに計測されていない。

 一方、生産者も実際は価格よりも低いコストで商品を生産しており、価格とコストとの差分が「生産者余剰」となる。この「生産者余剰」は、企業の利益(利潤)を示しており、この数値はGDPに計測されている。

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消費者余剰はGDPに計測されていない
(出典:NRI)

 森氏によれば、「デジタル化が進んだ昨今、消費者の支払意思額は以前とあまり変わらないのに、モノの価格が生産コスト以上に大きく下落してきたことによって、消費者余剰の拡大が生じている」という。

 さらに「この消費者余剰の拡大は、既存のGDPに反映されていないため、経済情勢(実体経済)と生活実感の間にギャップが生じ始めている」と指摘し、この現象を「GDPのピンボケ現象」と呼んだ。

デジタル時代の新経済指標「GDP+i」とは

 NRIとロッテルダム経営大学院(Rotterdam School of Management)の共同研究によれば、日本では2013年に101兆円、2016年には161兆円の消費者余剰がデジタルサービスから生み出されており、そのGDPは全体の3割にも相当することがわかった。

 そこで、このピンボケ(差分)を解消するために、NRIは消費者余剰を定量化し、それを付加した計測値である新指標「GDP+i」を提唱した。

 この新指標は、デジタル社会に対応しきれなくなった既存のGDPの欠点を補う計測値であると森氏は説明する。

「デジタルが生み出す消費者余剰は、実際の金額としては発現しない『虚数=i』のような概念上の存在となる。NRIはこれとGDPを足し合わせた数値『GDP+i』をデジタル時代の新経済指標として提案したい」

 これを見ると、2013年から2014年にかけて日本の実質GDP成長率は年0.7%だが、消費者余剰を合算する「GDP+i」は年率3.8%で増えている。これは冒頭に紹介した「国民の生活実感」の結果に近いと言えるだろう。

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日本の「GDP+i」の推移(2013~2016年)
(出典:NRI)


【次ページ】「GDP-B」など、GDPを超えた指標を生み出す取り組み

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