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  • 2019/11/21 掲載

銀行のデジタル化&BPR、当時の支店長が語る苦難の連続

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激動の時代において、銀行・銀行員のキャリアに疑問符がつけられている。だがそんな中でも、泥臭く現場と向き合っている支店長・支社長がいる。愛媛県の大手地銀・伊予銀行において松山北グループ長を務める矢野 一成氏もその1人だ。同氏は2017年6月、デジタル技術を駆使した斬新な店舗として誕生した松山北支店の初代支店長を務めた。しかし、当初は来店客からの“苦情の嵐”だったという。『ザ・ネクストバンカー 次世代の銀行員のかたち』(講談社)を著した浪川 攻氏が、その苦難のエピソードを紹介する。

金融ジャーナリスト 浪川 攻

金融ジャーナリスト 浪川 攻

1955年、東京都生まれ。上智大学卒業後、電機メーカーを経て、金融専門誌、証券業界紙、月刊誌で記者として活躍。東洋経済新報社の契約記者を経て、2016年4月、フリーに。「金融自壊」(東洋経済新報社)など著書多数。

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新支店のデジタル変革およびBPRを推し進めるも、決して易しい道ではなかった
(Photo/Getty Images)


「10年先も必要とされる銀行」になるために

 いま、愛媛県のトップバンク、伊予銀行が先進的な取り組みで先行する有力地銀の1つとして、大きな注目を集めている。営業目標の自主申告制、総合表彰制度の廃止、デジタル化といった、近年、問題視され変革の必要が論じられている課題に対し、いち早く着手してきているからだ。その起点と言えるのが、2015年4月に策定した「10年ビジョン」。メインテーマは「10年先も必要とされる銀行」である。

 その後、打ち出したさまざまな施策の一環として、2017年6月に2つの支店を統合するとともに、デジタル技術を駆使した新モデル店舗として誕生したのが、今回訪れた松山北支店だ。

 初代支店長の矢野 一成氏(55歳※取材時)は、同銀行の松山北グループ長として、松山北支店長のほか、松山中央市場出張所長を兼任している。銀行内では「最も尖(とが)った支店長」の異名を持つ人物だ。

 事前にそんな情報を得たうえで松山北支店を訪れたのは、オープンから1年8カ月が経過したときのことだった。それも指定された日時は3月28日。年度末の最終金曜日といえば、通常、銀行の店舗はごった返すものだ。だが、たしかに、来店客は後を絶たないものの、店内は落ち着いている。

 それにしても、広々とした店内である。実に銀行っぽくない。そんな気持ちで眺めていると、静かな笑みを浮かべた痩身(そうしん)の人物がロビーに現れた。矢野氏である。「多忙を極める期末日に申し訳ない」とわびを言うと、「いや、私は何もやることはありませんから」と相好を崩す。さぞかし、ピリピリした人だろうという予想は大いに外れた。しかし、こちらの拍子抜けした気分は次第に消えていった。なぜなら、やはり、「尖った人物」だったからである。

「途中でハシゴを外すな」と本部に注文

 2016年6月に問屋町支店と潮見支店が統合して誕生した松山北支店は、総勢50人ほど、サテライト店舗を含めると90人という規模に達する、いわゆる大店(おおだな)である。問屋町支店長だった矢野氏はそのまま、新店舗の支店長に就いた。

 統合直後の店舗運営は大変である。母体の旧支店のうち、一方の支店は店番号が変更され、同店舗の顧客は口座番号等々も変わる。銀行はその手続きに大わらわとなるためだ。

 しかし、松山北支店の大変さは、その比ではなかった。当時の様子を振り返る矢野氏も、「とにかく、苦労の連続でした」と苦笑する。というのも、伊予銀行は、この新支店をBPR(Business Process Re-engineering 業務改革)による初めての斬新な店舗として生まれ変わらせたからだ。いわゆる、新時代に向けたパイロット店舗である。

 そのエッセンスはデジタル技術を駆使した業務の効率化である。店舗内は顧客ロビーが大半を占め、来店客はまず受付でキャッシュカードをかざして本人確認と用件を告げる。その手続きの際、押印は不要となっている。ペーパーレスと印鑑レスの同時実現である。通常、1階ロビーには数多くの銀行員たちが働いているが、ここでは数人の女性行員の姿しか見られず、従来の店舗仕様とは圧倒的に違っている。

 店舗統合の対応だけでもてんてこ舞いであるうえに、前例のない次世代型の業務運営への変更も重なったのだから、天と地がひっくり返ったような事態である。その責任を負う矢野氏は、支店長への就任を告げられた時、どう受け止めたのか。

「頭取に呼び出されて『お前、新しいことが好きやろ』と言われました。頭取がそんなことを知っているはずはないのですが(笑)。まあ、そのときは『そうです。大好きです』とお答えしましたが、内心、さて、どうしたものかと思いました」

 店舗統合、前例を見ない業務改革というダブルショックの店舗運営のしんどさを予感しつつも引き受けたわけだが、そこは「尖った人物」である。本部の企画担当者たちにはこう告げていた。

「途中でハシゴを外すな。それをやられたら、ちゃぶ台をひっくり返して怒るでえ」

 ベテラン支店長ならではのちょっとレトロな表現だが、本部の指示を唯々諾々と飲み込むだけのヤワな支店長ではないことがこの言葉からもうかがい知れる。

【次ページ】「転職したと思ってくれ」

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