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  • 2021/04/21 掲載

日本政府が本気で取り組む「国際金融都市化」、その勝ち筋とは

FINOLABコラム

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政府は現在、世界に開かれた国際金融センターとしての日本の地位を確立することを目指している。日本の金融資本市場の魅力を向上させることで、海外の資産運用業者などの参入を促し、アジア、世界における国際金融センターとしての機能を高めていくことを表明している。「国際金融都市化」へ日本が注力する施策のポイントと世界各国との「国際金融センター競争」を解説する。

執筆:FINOLAB Head of FINOLAB 柴田 誠

執筆:FINOLAB Head of FINOLAB 柴田 誠

FINOLAB設立とともに所長に就任。東大経済学部卒、東京銀行入行、池袋支店、オックスフォード大学留学(開発経済学修士取得)、経理部、名古屋支店、企画部を経て1998年より一貫して金融IT関連調査に従事。2018年三菱UFJ銀行からMUFGのイノベーション推進を担うJDDに移り、オックスフォード大学の客員研究員として渡英。日本のフィンテックコミュニティ育成に黎明期より関与、FINOVATORS創設にも参加。

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日本政府は「金融都市化」を推進している
(Photo/Getty Images)

政府が目指す「国際金融センター」とは

 政府は現在、日本の金融資本市場の魅力を向上させて海外の資産運用業者などの参入を促し、アジア、世界における国際金融センターとしての機能を高めようとしている。2020年12月8日には「国民の命と暮らしを守る安心と希望のための総合経済対策」を閣議決定し、その中の施策の1つとして、「世界に開かれた国際金融センターの実現」を盛り込んだ。諸施策にオールジャパンで取り組んでいくとしている。

画像
世界に開かれた国際金融センターの実現について
(出典:金融庁 報道発表

 これまでにも、「国際金融センターとしての地位向上」といった掛け声は度々聞かれていた。しかし、「金融市場が発展しさえすれば自然と海外から日本を目指す金融機関が増えるはずだ」といったアプローチが中心であり、中小規模、専門性の高い金融プレーヤーに対するアピールが不十分だった。

 そこで今回は、日本進出のネックとなっていると考えられる「税制」「進出時の行政手続き」「専門人材の受入れ」といった面において、海外の金融関連企業に明確な受け入れ姿勢を示すべく、思い切った施策を打ち出すこととなった。以下で具体的に説明していく。

・税制優遇措置
 2020年12月20日に閣議決定された税制改正大綱においては、海外で資産運用業を行ってきた事業者や人材が同様のビジネスを日本で取り組みやすくなるよう、法人税・相続税・所得税について下図のように大胆な措置を講じることとなった。

税目 従前 今後 実施時期
法人税
(運用会社に課税)
30%
役員の業績連動報酬
上場会社:損金算入可能
非上場会社:損金算入不可
投資運用業を主業とする非上場の非同族会社等について、業績連動給与の算定方法等を金融庁のウェブサイトへ掲載する等の場合には、損金算入を認める 金商法改正法案施行(2021年12 月見込)後、順次適用予定
相続税
(ファンドマネージャーなどの相続人に課税)
0-55%
10年超居住…全世界財産
10年以下居住…国内財産のみ
勤労等のために日本に居住する外国人について、居住期間にかかわらず、国外財産を相続税の課税対象外 2021年4月1日施行
所得税
(ファンドマネージャーなどの個人に課税)
0-55%
ファンドマネージャーのファンド持分に対して運用成果を反映して分配される利益 →金融所得にあたるかが不明確
利益の配分に経済的合理性がある場合等においては、総合課税(累進税率、最高55%)の対象ではなく、「株式譲渡益等」として分離課税(一律20%)の対象となることを明確化 2021年4月1日公表
(金融庁開示情報より筆者作成)


・手続きの簡素化
 下図のように、日本拠点開設を検討する海外金融事業者に対する一元的な相談窓口として「拠点開設サポートオフィス」を開設、金融ライセンス取得に係る事前相談から登録手続き、登録後の監督までを切れ目なく英語で対応することが可能になる。ビデオ会議を用いた海外からの事前相談にも対応していくという。

対応内容 従前 今後 実施時期
一元化・英語対応
  • 日本への参入を検討する海外の資産運用会社に対する事前相談対応、登録審査、監督を担う場が、金融庁と財務局で分かれている
  • 提出書類や議論を日本語で行う必要があるため、海外事業者の規制対応コストが高い
  • 金融庁・財務局が「拠点開設サポートオフィス」を設置→事前相談、登録審査、監督等を英語によりワンストップで対応
  • 併せて、AI翻訳を用いた音声・テキスト翻訳サービスを導入し、金融行政の英語化を推進
2021年1月12日




2021年3月~
手続きの簡素化 海外のプロ投資家を顧客とする資産運用業者であっても、日本で資産運用業を行うには、原則として「登録」が必要であり、さらに海外で業務実績がある場合でも、登録手続には一定の時間を要する
  • 海外当局による許認可を受け、海外の顧客資金の運用実績がある資産運用業者(海外の資金のみ運用)
  • 主として海外のプロ投資家を顧客とするファンドの資産運用業者
3~5年程度の時限措置



2021年通常国会に法案を提出予定
(金融庁開示情報より筆者作成)


・在留資格の緩和
 2020年12月8日に閣議決定された「国民の命と暮らしを守る安心と希望のための総合経済対策」において、海外事業者が安心して日本でのビジネスを検討できる環境を整備する一環として、在留資格関連の利便性向上のための諸施策を行っていくこととなっており、資産運用業者を想定して日本進出の誘因策としていく。

項目 利便性向上施策
在留資格
  • 起業準備のため在留資格「短期滞在」で入国した場合でも、一定の要件を満たせば、事業開始前に日本から出国することなく在留資格を取得可能に
高度人材
  • 様々な優遇措置を受けられる「高度専門職」の在留資格を得るために必要なポイントに、資産運用業者向けのポイント項目を追加
  • 上記「高度専門職」の在留資格を得る場合、優先処理(10日以内を目処)で取得可能
家事使用人 一定の要件を満たす高度人材について、
  • 13歳未満の子供がいる等の家庭事情がなくても家事使用人を雇用することが可能に
  • 高度人材が雇用可能な家事使用人の人数枠を1名→2名に増加
配偶者
  • 高度人材の配偶者は一定の要件を満たせば就労資格を取得することなくフルタイムでの就労が可能
(金融庁開示情報より筆者作成)


・日本での創業支援
 各種の優遇措置に加えて、前述のように拠点開設サポートオフィスを設立し、日本進出に関する幅広いサポートを「英語・ワンストップ・無料」で担うことも発表されている。

画像
金融行政の英語か及びワンストップ化
(出典:金融庁 報道発表

 具体的な支援内容としては、日本で新規に拠点開設を検討している外国人・海外金融事業者方の参入負担を軽減するため、以下のようなビジネス面での相談・支援を行っていく体制を整備することになる。

▶法人設立登記
▶在留資格取得
▶ 金融ライセンス取得(金融商品取引業者の登録手続きなど)

 さらに、ビジネス面だけではなく、日本進出時の立上げに関する不安を解消すべく、以下のような生活面での相談・支援も発表されている。こうした施策においては、香港における中国本土の管理強化によって不安を覚えた金融人材の受け皿となることも意識されている。

▶住居の確保
▶英語の通じる医療機関
▶インターナショナルスクール

【次ページ】フィンテックをめぐる「都市間競争」とは

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