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  • 2020/03/04 掲載

資金調達冬の時代へ、金融機関はフィンテック企業を買収するようになるか?

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2020年1月、メルカリによるOrigamiの買収が発表された。多くの人が衝撃を受けたのは、その買収価格が1株当たり1円という備忘価格であったと報じられたことだろう。各種報道によると、Origamiは当初は新たに資金調達を目指していたが、希望は叶わず売却を選択せざるを得なかったという。フィンテック企業の資金調達は困難になっているのか、そしてフィンテック企業買収の機運は高まるのか考察してみたい。

みずほ証券 小川久範

みずほ証券 小川久範

日本アイ・ビー・エムを経て2006年に野村證券入社、野村リサーチ・アンド・アドバイザリーへ出向。ICTベンチャーの調査と支援に従事する。2016年みずほ証券入社。FinTechについては、米国でJOBS法が成立した2012年に着目し、国内スタートアップへのインタビューを中心に調査を行ってきた。FinTechエコシステムの構築を目指す「一般社団法人金融革新同友会FINOVATORS」副代表理事。

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金融機関がフィンテック企業を買収する時代は来るのか
(Photo/Getty Images)

フィンテック企業の資金調達は難しくなっているのか?

 フィンテックに限った話ではないが、スタートアップの資金調達が難しい場合、その原因として大きく3つのケースが考えられる。(1)そもそもベンチャーキャピタル(VC)に資金が集まらないケース、(2)スタートアップが挑戦する事業内容や株価等がVCの投資基準に合致しないケース、(3)スタートアップが実際に事業に取り組んだものの成長が見込めなくなったケースである。

 (1)については、2020年以降にVCの資金調達が難しくなるかもしれないという噂話を耳にすることが最近何度かあった。IPOを延期し、企業価値を大きく損ねたとされるWeWorkのような事例が出てきたことで、投資家がVCへの出資を手控えることが懸念されている。

 また、国内でVCへ出資するのは、純粋に利益を求める機関投資家ではなく、オープンイノベーションのためにスタートアップについて情報を収集する事業会社が中心とされる。それらがスタートアップコミュニティの中で地歩を確立したことで、情報収集という観点からVCへ出資する必要性が低下した可能性が考えられる。

 しかし、VCはここ何年かの間に多くのファンドを組成してきたため、スタートアップへの出資が急減することはないだろう。今後組成する新ファンドに資金が集まらない懸念は否定できないものの、その影響が出てくるとしても数年後のことと予想される。

 (2)については、国内の場合、技術開発型のスタートアップはVCからの資金調達が難しいといった傾向があるように思われる。また、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)がスタートアップへ出資する際の企業価値が高すぎ、VCの投資基準に合わないという話を耳にしたことがある。

 フィンテックについては、これまでに多くのスタートアップがVCから出資を受けており、国内で10億円以上の調達に成功したところが複数存在する。個々の企業がVCの投資基準に合致するか否かという問題は当然ながらあるものの、フィンテックという分野自体が投資対象としての魅力を失うということは、現時点では想定しづらい。

 スタートアップの企業価値については、WeWorkの事例から懐疑的な目が向けられつつあること、新型コロナウィルスの影響への懸念から株式市場が軟調に動いていることなどから、これまでよりも水準が下がると予想される。スタートアップにとっては、同じ金額を調達するためには、より多くの株式を放出しなければならないという意味で、資金調達が難しくなると言えるかもしれない。

 (3)は、スタートアップが仮説を持って取り組んだ事業が、残念ながら結果を出せなかったケースである。もちろん、現時点で結果を出せていないからと言って、その事業に見込みがないと言い切れるものではない。「成功するまで続ければ失敗ではない」という考えには一理あるように思われる。

 ただし、結果を出せていない事業を継続するといっても、それが可能なのはキャッシュが続く間だけである。キャッシュを得るためには、VC等の投資家から調達するか、銀行等から融資を受けるか、事業で稼ぎ出すしかない。そして、現時点で結果を出せていないスタートアップが利用できる手段は、投資家からの調達に限られる。

 Origamiの場合、これまでに資金調達を重ねることができたことから、一定以上の結果を出してきたと推察される。しかし、大手企業が競合として決済分野に次々と参入したことで、それらに伍して結果を出していくことは難しいと投資家に判断され、資金が集まらなくなったのだろう。同様のことは、フィンテックの他の領域でも起こり得る。

 まとめると、VCからフィンテック企業への出資は、基本的にはこれまでと同様に前向きに検討されるだろう。ただし、その際に評価される企業価値が低下し、調達額が減少する懸念がある。また、大手テック企業などが参入したフィンテック領域においては、フィンテック企業の資金調達が困難になるかもしれない。

金融機関がフィンテック企業を買収する意義

 事業環境が苦しくなると予想されるのであれば、その前に起業家が会社を売却しようと思うのは不思議なことではない。スタートアップとしての成長は難しくても、大手企業に買収され、そのリソースを活用することができれば、事業が成長する蓋然性が高まるからである。

 一方、会社を買収する側の目的としては、「資産」「顧客」「技術」「人材」の獲得が挙げられる。スタートアップは基本的にほとんど資産を持っていないため、スタートアップ買収の目的は、残りの3つの何れか(あるいはすべて)を得るためということになる。

 報道によれば、Origamiのケースでは、メルカリは加盟店(顧客)の獲得が目的で、人材は減らす方向だという。技術については、メルカリは決済機能を自前のアプリで提供しているため、引き継ぐ必要はないと推測される。

 メルカリのように優秀なエンジニアを多く抱えるネット企業であれば、人材や技術を外部から獲得するまでもないのだろう。一方、加盟店の開拓に必要な営業力は、ネット企業には不足しているものと思われる。それを埋め合わせるために加盟店を抱える企業を買収するというのは、買収後の諸々のコストを勘案しても合理的な判断なのだろう。

 ここで仮に伝統的金融機関がOrigamiを買収していたとすれば、その目的はどのようなものであるか考えてみたい。たとえば銀行が決済アプリを提供するとして、決済機能自体は既に持っている。また店舗を開拓する営業要員にも困らないだろうから、決済アプリの提供は自力でも可能と思われる。

 ただし、Origamiの事業基盤を活用することで、ゼロからサービスを始めるよりは、事業を速く展開できるだろう。また、優れたエンジニアを手に入れることで、より使い勝手の良いアプリを提供できるようになる。まだ決済アプリを提供していない銀行がOrigamiを買収した場合、サービス立ち上げまでの期間短縮と、サービス品質の向上に貢献すると推測される。

 決済アプリを提供しない場合でも、サービスのデジタル化が避けられず、多くの企業がデジタルトランスフォーメーションに取り組んでいる時代において、優秀なエンジニアを抱えておくことは無駄ではない。人材の獲得だけが目的だとしても、金融機関がフィンテック企業を買収する意味は小さくはないと思われる。

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金融機関がフィンテック企業を買収する意味は小さくない
(Photo/Getty Images)

【次ページ】フィンテック企業の買収における懸念とは

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