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2015年07月13日

ITは途上国の人口増加に「コペルニクス的転換」を引き起こす:篠崎彰彦教授のインフォメーション・エコノミー(64)

モバイル技術を中核としたITのグローバルな普及は、世界の人口問題に対する考え方をコペルニクス的に転換させる可能性がありそうだ。20世紀の高成長期に先進国ではプラスの要因に作用した人口増加(人口ボーナス)も、当時の途上国にとっては、貧困を生み出すマイナス要因であった。果たして21世紀の途上国では、かつての先進国と同様に、人口増加が経済発展に向けたボーナスとなり得るのか、ITの普及で変わる世界の人口観について考えてみよう。

執筆:九州大学大学院 経済学研究院 教授 篠ア彰彦

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先進国と途上国でまるで正反対の人口問題

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 国連の世界人口見通し(World Population Prospects)によると、現在約70億人の世界人口は、2050年に95億人にまで増加する。その一方で、日本は現在の約1億3千万人から1億人を切る水準にまで減少する見通しであり、少子高齢化による経済活力の低下が懸念されているのは周知のとおりだ。

 世界全体の動きと逆行する日本の人口動態は、北米を除くと、どの先進国にも共通していることだ。それどころか、東アジアでは、中国などの新興国も2030年ごろから人口減少に転じると見込まれている。今世紀は、世界全体としては人口増加が続くものの、これまで経済発展を遂げた国々では「人口ボーナス」がなくなり、経済成長にマイナス要因となる「人口オーナス」の負荷がのしかかりそうだ。

 この「人口ボーナス」と「人口オーナス」のコントラストについては、すでに数多く論じられているが、実は、これとは別にもう一つ注目されるコントラストが生まれている。それは「途上国の人口増加」が持つ「意味」のコペルニクス的転換だ。

途上国にはなかった「人口ボーナス」という概念

 上述のとおり、先進国については、経済成長とともに生産年齢人口が増加した現象を「人口ボーナス」と肯定的な意味で表現される。確かに、戦後の日本でもベビーブーマーが形づくった人口動態と高度成長が表裏一体となって繁栄を謳歌したのは事実だ。両者が織りなすこの軌跡は、20世紀の先進国にはどこもうまく当てはまる。

 ところが、途上国については、この人口動態と経済発展の関係がまったく逆の意味で理解されていた。中国の一人っ子政策が導入された経緯を振り返るまでもなく、20世紀における世界の貧困問題といえば、途上国における人口増加であった。つまり、途上国では「人口抑制」こそが「豊かになる」ための道であり、人口増加は決して歓迎すべき「ボーナス」ではなく、克服すべきマイナスの要因と見なされていたのだ。

 この途上国の人口問題に対するとらえ方が、21世紀に入ってから180度変わろうとしている。携帯電話などのモバイル技術が普及したことによって、情報装備した数十億の人々が所得水準を高める機会を手にし、豊富な人口の増加が市場規模の拡大や労働力の供給源としてプラスに評価されるようになったからだ。

21世紀の途上国では先進国の10倍の速さで技術が普及

 産業革命後の世界史が物語るように、これまでの新技術は一定の教育水準とそれを可能にする所得水準がなければ社会への普及と定着に限界があった。所得水準の低い社会では、今日を生きるための消費で精一杯なため、将来に向けて所得の一部を貯蓄し、それを技術や人材(教育)への投資に回す余裕がないからだ。

 これでは、いくら人口が多くても富を創造する能力が生まれず、購買力が著しく低い水準に留まるため、経済は発展しない。その限界がさらに技術の導入と人材の育成を阻み、貧しさから中々抜け出せない悪循環は、「貧困の罠」として長年人類の課題であり続けた。

 たとえば、電話、パソコン、インターネットなどを総合した技術普及の指標をみると、1876年にグラハム・ベルが電話を発明してから100年以上経過した20世紀末に、先進国では一人一装備の普及水準に到達しているが、同じ時期のアフリカは先進国のわずか50分の1という水準に過ぎなかった(図表)。

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(クリックで拡大)

図表 一人当たりICT装備量の地域別推移

(出典:野口他(2015)図表13より抜粋)


 ところが、21世紀に入り、この状況が激変する。アフリカなどの途上国でも、わずか10年前後で一人一装備の普及が実現したのだ。これは、20世紀の先進国が100年以上かけて達成した技術普及の10倍の速さであり、携帯電話などのモバイル技術がその原動力となった(理由については連載の54回55回参照)。まさにこの勢いが、途上国の人口問題に対する見方を大きく変えようとしている。

【次ページ】途上国の人口増加は「ボーナス」となるのか

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