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2015年09月16日

イノベーション時代の格差問題、なぜ是正しようとするとさらに開くのか 篠崎彰彦教授のインフォメーション・エコノミー(66)

前回考察したように、国際情勢を不安定にする「不安の経済」と「怒りの経済」の背後には「格差」の問題が横たわっている。イノベーション時代の格差は、国内問題と国際問題が多層構造で絡んでおり複雑だ。現状維持の古い軌道に留まったまま格差を縮小しても、長期的には停滞した社会を次世代に残し、国際社会でより大きな格差に直面する。悪平等に陥れば、士気が低下し新時代の富を生み出す力が削がれてしまうからだ。今回はこの問題を複眼的に考えてみよう。

執筆:九州大学大学院 経済学研究院 教授 篠ア彰彦

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(Photo by kelly marken/fotolia)

S字型の経済発展と社会の大転換

 経済発展の軌跡を歴史的に長期の時間軸で観察すると、単調な右上がりではなく、助走期、勃興期、成熟期と変貌しながら推移するS字型のカーブが描かれる(連載の第18回参照)。この軌跡は、創造的破壊というイノベーションを重視したシュムペーターの経済発展理論やコンドラチェフが唱えた約50年周期の経済変動と関連付けて議論されることが多い。

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図1 長期の経済発展が描くS字の軌跡


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 S字型の経済発展で重要なのは、新旧のS字カーブが折り重なっている移行期だ。成熟して、次第に上昇力が衰えていく「収穫逓減」の古い技術体系の中で、新しい技術体系が芽生え、助走期を経て、下から突き上げるように上昇力が加速する「収穫逓増」の勃興期を迎える。

 もちろん、すべての社会が何の努力もなく、このS字カーブの波に乗れるわけではない。うまく移行できるかどうかは、社会のありよう次第だ。産業革命で工業化の波が押し寄せた18世紀から19世紀にかけての世界がそうだったように、この転換期には、技術だけでなく経済社会の仕組みが至るところで大きく変貌する。

「極端な格差」も「格差ゼロ」も問題

 20世紀末から押し寄せている「情報革命」の波は、こうした大転換をグローバルにもたらしている。技術体系のシフトをうまく取り込むという点では、創意工夫が活かされる競争型の市場経済が有効だろう。

 だが、競争重視の社会は、人も企業組織も制度も過酷な変化の波にさらされ、弱肉強食や格差拡大につながるとの批判や懸念が根強いのも事実だ。

 格差の問題は、所得分配の議論と密接にかかわる。戦後日本の経済安定化に取り組んだドッジが言及したように「富はまずこれを創造してからでなければ分配できない」のであり、「資源配分の効率性」と「所得分配の公平性」を複眼的に考察する経済学の基本に立ち返ると、必ずしも「格差ゼロ」が望ましいわけではない。

 なぜなら、平等を標榜した旧社会主義圏の経済運営が結局は失敗に終わったように、悪平等に陥ってやる気がある人材の士気が下がると、創意工夫を生かそうとする意欲が失われる一方で、表面的にノルマを達成しようとして資源の浪費が蔓延し、富を生む力が削がれるからだ。

 とはいえ、極端な格差の存在やその固定化もまた、人々があきらめの境地に陥って意欲を失ったり、自暴自棄の行動に走ったりすることを助長し、社会の安定を損ないかねない(連載の65回参照)。それゆえ、格差の拡大化や固定化を回避し、人々に希望を与える努力も常に求められる。

【次ページ】格差問題を是正しようとするとなぜさらに格差は開くのか

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