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  • 2023/08/02 掲載
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金融機関を取り巻く環境は、厳しさを増している。圧倒的な高信頼、高可用なサービス提供を求められる一方で、同時に徹底的に顧客ニーズを追求した新たなサービスや新たなビジネスモデルの創出が求められている。金融機関をシステム面で長年支えてきたIBMと、最新のクラウドで金融機関から信頼を獲得しているアマゾン ウェブ サービス(AWS)は、それぞれ金融機関が抱える課題をどのように見ているのか? そして、この2社がタッグを組んだとき、金融機関にはどのようなメリットがもたらされるのだろうか?

金融機関を取り巻くマクロ環境、直面している4つの課題

──日本の金融機関を取り巻く経営環境について、それぞれのご意見をお聞かせください。

日本アイ・ビー・エム 孫工 裕史氏(以下、孫工氏):まず生産人口が減少して国内市場が縮小することは、経済の中枢を担う金融機関にとって将来的な不安要素です。また、欧米の一部の金融機関が破綻したように、先の見通せない変化の激しいビジネス環境が続いているのも、金融機関にとっては厳しい状況といえるでしょう。

 一方で、少しずつ光も見えています。たとえば、昨今の経済や食料の安全保障を鑑みて、日本経済に国内回帰の動きが見られます。また、国策としての半導体への取り組みやデジタル化も、金融機関にとってはチャンスになると思います。

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日本アイ・ビー・エム
執行役員 金融サービス事業部 担当
IBMコンサルティング事業本部
孫工 裕史氏

アマゾン ウェブ サービス ジャパン 鶴田 規久氏(以下、鶴田氏):マクロの環境は孫工さまのご指摘のとおりです。より具体的に見ていくと、大きく4つの課題に集約されると思います。

 1つ目は「ビジネスモデルの転換」です。ビジネス環境が厳しい中、既存のビジネスモデルの枠を超えた新しいモデルを作ることが求められています。

 2つ目は「顧客接点の変革」です。この3年間、新型コロナウイルス感染症の影響で、お客さまのところにリレーションシップ・マネージャが行けない、お客さまも営業店に行けないという状況が続きました。このお客さまとの接点を、新しい生活様式を織り込んだ形に変えることが求められています。

 3つ目は「オペレーショナルレジリエンスへの対応」です。災害や障害は発生するものだという前提で最善の事前策、事後策を打つことが求められています。

 そして4つ目が「変革を実現する人材」です。金融機関内部だけで変革を起こすのは、なかなか難しい。一方で、外部から採用するのも簡単ではありません。したがって、変革を起こせる人材、ITと金融に詳しい人材をいかにして育成するかが課題となっています。

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アマゾン ウェブ サービス ジャパン
執行役員 エンタープライズ事業統括本部
金融事業/ストラテジックアカウント/西日本事業本部 統括本部長
鶴田 規久氏

「80:20問題」の逆転と「失敗を許容する文化」が求められる

──金融機関が抱えるシステム面での課題についてはいかがでしょうか。

孫工氏:現在は、新しいDXプロジェクトへのチャレンジをするとき、既存システムの改修に80%のリソースを取られ、新しい取り組みには20%のリソースしか割けません。しかも、既存システムの改修には時間もかかります。この割合を「逆転」しなければなりません。我々としては、そのためのアーキテクチャの変革をお客さまにご提案しています。

 ただし、金融機関だけでそれを進めるのは困難です。人材の観点はもちろん、協業するパートナーを含めたエコシステムをどうやって作っていくのかも、重要なテーマになると思います。

鶴田氏:私は日本の金融機関のお客さまを担当して40年近くになりますが、やはり「失敗を許容する文化」に変えることが重要だと感じます。これまでは、そういう文化ではなかったわけですから、やはり経営トップが新しいことにチャレンジしても大丈夫だということを、トップダウンで発信していただくことが必要だと思います。

孫工氏:我々も同様のことを考えています。これまでの金融機関は、「現地現物主義」「現行品質至上主義」「自前主義」でした。ビジネスモデルを変革するには、これを「フルデジタル化」「事業の選択と集中」「外部サービス活用」へとシフトする必要があります。これは、デジタルによる意識・文化・習慣の変革であり、これを我々は「デジタル断捨離」と呼んでいます。デジタル断捨離によって、従来の「品質重視」のビジネスモデルから「価値重視」のビジネスモデルへと変わっていくと考えています。

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デジタル断捨離によって「品質重視」から「価値重視」へ

「経営に選択肢を与えるシステム」に必要な3つの要件

──これからの金融機関に必要とされる戦略、システムについてお聞かせください。

孫工氏:経営者が経営の舵取りをいかにスムーズに考えられるようにするか、展開できるようにするかがポイントです。システムの立場からは、「経営に選択肢を与えるシステム」が必要です。我々は、このようなシステムには次の3つの要件が不可欠だと考えています。

  • かえやすい
  • つなぎやすい
  • わかりやすい

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経営に選択肢を与える3つ要件

 これからは、さまざまな製品やサービスを市場に迅速にリリースし、当たれば継続し、成果がなければ撤退するというビジネスの進め方が当たり前になります。それには、トライ&エラーを繰り返せる「かえやすい」システムが必要です。

 また、今後は自社のサービスを外に展開したり、外部のサービスを自社のサービスに取り込んだりすることも重要になります。それには「つなぎやすい」システムが欠かせません。

 3つ目の「わかりやすい」システムも重要です。システムはどうしても属人化しがちです。特定の人に聞かないとわからない、特定のベンダーでないと開発・保守できないといったわかりにくいシステムでは、開発への参加者が限られます。デファクトスタンダードな技術を活用しながら、より多くの協力者が参加できる「わかりやすい」システムが求められています。

鶴田氏:先ほど述べられたことがポイントだと思います。既存システムの改修にリソースの80%、新しい取り組みに20%しか使えていない現在の状態を逆転しなければなりません。なぜなら、新しい取り組みこそが金融機関の成長に寄与するからです。そのためには、システムにメスを入れることが不可欠です。

基幹系・勘定系とフロントを切り離し、チャレンジしやすいシステムへ

──3つの要件を備えたシステムを構築するためのアーキテクチャが、IBMが2020年6月に発表された金融業界向けの「オープン・ソーシング戦略フレームワーク」という理解でよろしいでしょうか。

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オープン・ソーシング戦略フレームワーク

孫工氏:はい、そのとおりです。「ビジネスサービス」が勘定系・基幹系のシステム、「フロントサービス」が新しいDXのチャネルを意味しています。従来のシステムは、この2つが密に結合されているため、新しいフロントサービスを開発しようとすると、基幹系・勘定系に大きく手を入れなければなりませんでした。これが、既存システムの改修にリソースの80%が必要となっていた原因です。

 そこでオープン・ソーシング戦略フレームワークでは、その中間に「デジタルサービス」という新しい層を作ります。これにより、基幹系・勘定系とフロントを切り離し、基幹系・勘定系にあまり手を入れなくても、フロントで新しいチャレンジができるようになります。新しい取り組みにリソースの80%を振り向けることが可能になるのです。

──「デジタルサービス・プラットフォーム(DSP)」とは何でしょうか。

孫工氏:中間層である「デジタルサービス」の中核を担うソリューションがDSPです。DSPには3つの機能があります。

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デジタルサービス・プラットフォーム(DSP)

 1つ目は「業務マイクロサービス」です。これは、金融機関で必要となる業務サービスを部品化し、APIで提供するものです。すでに342個のAPIが実装されています。

 2つ目が「基幹系連携」です。金融機関の基幹系システムには、IBMはもちろん、他ベンダーのものも含めてさまざまな種類があります。そこで、基幹系連携機能 (バックエンド・アダプター) を使って、その勘定系の差異を吸収します。これにより、上述の業務マイクロサービスを横展開、共通利用できるようになります。

 3つ目が「DSP基盤」です。ここにIBM CloudだけでなくAWSを活用することで、より多くのお客さまにDSPを活用していただけます。

 すでにDSPを導入いただいている金融機関においては、開発のスピードは導入前と比べて約30%アップ、コストは40%削減という結果が出ています。

アマゾンのイノベーション創出プロセスを体験できるプログラム

──AWSが金融機関に提供できる価値について、お聞かせください。

鶴田氏:AWSでは現在200を超えるプロダクトとサービスを提供しています。我々はこれを「ビルディングブロック」と呼んでいます。イメージとしては「ブロック玩具」です。1つ1つのサービスはおもちゃのブロックにあたり、それらを組み合わせることで車やお城といった創造物(システム)の開発にかかる工数、期間を圧倒的に減らすことができ、大幅な生産性向上をもたらします。

 おかげさまで、日本においても銀行、証券、保険、決済とさまざまな領域でAWSは活用されるようになりました。大手金融機関のお客さまはほぼすべて、地域金融の領域でも第一、第二地銀のお客さまの多くがAWSを活用されています。さらに最近は、信用金庫や信用組合のお客さまからもお引き合いが増えている状況です。

 ただ、金融機関のお客さまがパブリッククラウドを検討する際は、必ず高い可用性とセキュリティを気にされます。だからこそ、我々はこの2つの点にフォーカスしています。その1つの成果が2022年10月に公開した「金融リファレンスアーキテクチャ 日本版」です。

 これは、金融に求められるセキュリティや可用性に関わる共通機能をテンプレート化したものであり、FISC(金融情報システムセンター)の安全対策基準に適合するシステムを構築する際の負荷を下げることができます。これを作るにあたっては、37もの大手システムインテグレータや金融機関にご協力いただきました。

 また、今年、我々が最も力を入れているのが「オペレーショナルレジリエンス」の取り組みです。具体的には、AWS環境上でシステムを構築いただく際の可用性を高めるアーキテクチャ・レビューや障害が発生する前に、常時モニタリングしてお客さまに障害が発生する可能性があるという情報を能動的にお届けするサービス等々、また物理的に日本国内に複数のリージョンを設置する等、災害対策に対しても莫大な投資を継続しております。

──変革に必要なイノベーションを支援するという点では、いかがでしょうか。

鶴田氏:金融機関のお客さまからは「アマゾンはどうやって新しい製品やサービスを次から次にリリースするのか、そのやり方を教えてほしい」というご要望を数多くいただきます。そこで、我々のイノベーション創出のプロセスを体験していただける「デジタルイノベーションプログラム(DIP)」というワークショッププログラムを用意し、この3年間で金融機関のお客さまに35件展開させていただき、お客さまの成長戦略、トップライン向上に貢献するための新しいオファリングを提供しております。

 直近では、ある保険会社さまのサービスの開発をDIPで支援させていただきました。これは、お客さまの車のダッシュボードにIoTセンサーを設置し、スマホと連携して急ハンドルや急ブレーキを検出して運転の安全性を評価するサービスです。

 DIPについては、お客さまからのご要望も増えており、今後もその取り組みを強化していく予定です。

IBMとAWSの連携・協業が金融業界にもたらす価値は?

──IBMとAWSの連携・協業によるシナジー、金融機関が得られるメリットについてお聞かせください。

孫工氏:IBMは金融機関のお客さまと40年~50年にわたるお付き合いがあり、日本の金融システムを支えてきたという自負もありますし、ノウハウ・知見も持っています。だからこそ、大きな変革期にあるいま、金融機関のシステムを次の世代に変革する使命があると考えています。その中核となる仕組み・サービスが「オープン・ソーシング戦略フレームワーク」であり「デジタルサービス・プラットフォーム(DSP)」なのです。

 そして、その重要な基盤がAWSです。意外に思われるかもしれませんが、IBMがシステム開発する際、急速に拡大しているプラットフォームがAWSです。IBM自身の変革においても、AWSはなくてはならないプラットフォームであり、AWSビジネスへの投資も加速しています。たとえば、AWSの認定資格者を持つAWS人材の数も、2倍に増やすことが決まっています。

鶴田氏:金融機関さまにとって本当に価値があるものになると思います。我々がIBMと協業する価値には3つあると思います。

 1つ目はIBMの金融業界におけるコンサルテーションです。長年における多くの実績と幅広い業界知識は、金融業界全体を変革していくのに欠かせないものと思います。

 2つ目はIBMのやり切る力です。IBMは金融機関のシステムに求められる品質を実現し、長年業界全体の期待に応えていらっしゃいます。AWSもクラウド・サービスの技術と品質をさらに進化させます。

 3つ目はAWSでDSPが利用できるということです。AWSは日本では2011年からサービスを開始しました。わずか12年で、数十万を超えるお客さまにご活用いただいています。この12年間の日本におけるデータセンター周りの投資総額は1兆3,500億円に上り、昨年だけで3,400億円以上の投資を行いました。現在は東京と大阪に2つのリージョンを展開していますが、全世界で2つのリージョンがあるのは米国、インドそして日本だけです。東京は4つ、大阪は3つのアベイラビリティゾーンがあり、1つのアベイラビリティゾーンは1つ以上のデータセンターから構成されています。それだけ数多くのデータセンターを配置して圧倒的な高い可用性を実現しており、この日本への投資は、これからも継続される予定です。だからこそ、IBMのDSP基盤にAWSを利用していただく意義は大きいと思います。

 我々自身はシステムを開発しませんが、DIPを通じて上流においてビジネスモデルをお客さまといっしょに考えることは積極的に進めます。それをシステム開発に結びつけるところは、ぜひIBMのお力をお借りしたいと思います。

孫工氏:IBMの持つ金融業務ノウハウ、システムを作り切る、やり切る力、そこにAWSが培われてきたデジタル化のさまざまなメソドロジーを組み合わせることで、金融機関のお客さまが抱えているさまざまな課題の解決に貢献できると思います。

 今後はAWSの推し進めるDIPに関しても、弊社のコンサルタントが参画し、お客さま、AWSと協力しながら、お客さまのデジタル化の計画策定をリードしてまいります。その計画に基づき、IBMの本来の強みであるシステムを作り切る力を発揮し、お客さまのビジネスモデルの変革や経営課題解決に貢献していきたいと考えています。

IBMとAWSは本気、金融機関に求められる進化をシステムで支える

──今後、金融業界がどう変わっていくか、それに対してIBMとAWSがどのような価値を提供できるのかをお聞かせください。

鶴田氏:2013年、私の所属する部門で『2020年金融サービス ITと融合するリテール金融の未来像』という本を上梓しました。その中で金融機関における営業の主役が営業店からバーチャル・デジタル店舗へ大きく切り替わるタイミングを、2020年だと予想したのです。新型コロナウイルスは想定外でしたが、それもきっかけとなり、すでに予想は現実になりつつあります。

 現在、金融機関の営業店を利用しているのは70代、80代の資産富裕層です。しかし、その下の50代、60代の多くはもはや営業店に行きません。つまり、営業店の位置づけが大きく変わり、これまでの営業のやり方が通用しなくなるタイミングが間近に迫っています。顧客接点が変わる中で、デジタル活用が競争力の源泉となります。

 圧倒的な品質を保たなければならないエリアと、スピード・アジリティを重視し、変化に柔軟な対応しなければならないエリアを切り分けて、優先順位を付けてリソースを振り向ける必要があります。そのためには、失敗を許容する文化が必要です。すでに、ある金融機関は流通や製造等、異業種から人材を採用して変革に取り組んでいます。

 IBMとAWSの連携・協業は、こうした変革に挑まれている金融機関を必ず後押しできると思います。

孫工氏:もはや、金融機関が単独でビジネスを推進する時代ではないと思います。さまざまな強みを持つ外部のパートナーと連携・協業してビジネスを進めなければなりません。そのためには、つなぎやすいシステムが欠かせません。

 IBMでは、DSPを金融だけでなく他の業界にも展開していきます。これにより、業界をまたいだプラットフォームとして活用していただき、その基盤として多くの企業が利用しているAWSを採用することで、エコシステムの拡大が加速されると期待しています。金融機関だけでなく、外部の優れたサービスを組み合わせて利用者のニーズにシームレスに対応していく姿になるでしょう。

 多くの取り組みを進める上で、人材の確保も重要です。金融機関とそれを取り巻く業界全体はすごい勢いでデジタル化が進んでいますが、その対応を担う人材には限りがあります。システムのベンダーロックインや属人化を排除し、わかりやすいシステムでなければなりません。IBMでは、「オープン・ソーシング戦略フレームワーク」という考え方に基づき、それに応えようとしています。IBM社員とお客さま社員の枠を超えた研修プログラムの提供や、技術者コミュニティの推進、新たな地域開発拠点の設置など、デジタル化を進める人財育成・確保にも力を入れています。

 IBMはあらゆる社会課題解決に貢献できるような取り組みをAWSと共に、日本で多くの事例として展開していきたいと考えています。ぜひ、今後の展開にご期待ください。

──本日の取材では金融機関、さらには社会課題に応えるべくIBMとAWSが手を組んでそれぞれの強みを活かしたタッグを組む強い意志を感じることができました。貴重なお話をありがとうございました。

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