基幹システムのモダナイゼーションを阻む「3つの壁」、成果の出る改革は何が違うのか
急速に進んだ日本企業のDX、次は基幹システムの変革か
「コロナ禍をきっかけにテレワーク、オンライン会議、電子決裁などが広がり、日本のデジタル化は一気に進み、IT投資も活発になりました。特に、ここ2年間は基幹システムへの投資が増えています。先が見えず競争環境の厳しさが増す中で、変化に素早く対応できる仕組み・組織体制を構築しなければ淘汰されかねないとの危機感から、基幹システムのモダナイゼーションに取り組む企業が増えているのです」(石橋氏)
とはいえ、基幹システムのモダナイゼーションには一筋縄では行かない難しさがある。IBM コンサルティング事業本部 ストラテジック・セールス&クライアント・ストラテジー パートナーの渡海浩一氏は、日本企業特有の課題についても次のように説明する。
「1つは複雑なレガシー・システムです。長年にわたるカスタム開発により、欧米とは比較にならないほどシステムが複雑化しています。2つ目は、日本の事業会社の多くがITベンダーに外注しており、それによって過剰投資が発生していることです。そして3つ目が少子高齢化により、レガシーなテクノロジーのスキル、ノウハウを持つ人材が減っていることです」(渡海氏)
それでは、日本企業はこれらの課題をいかに乗り越えれば良いのだろうか。その答えにたどり着くには、まず基幹システムのモダナイゼーションを阻むポイントを正しく理解する必要があるようだ。
基幹システムのモダナイゼーションを阻む3つの壁
言うまでもなく、基幹システムは止まることが許されない。一方で、何十年にもわたってカスタマイズを続けた結果、"ミルフィーユ"のように肥大化・複雑化している。石橋氏も「お客さま自身も現状のシステムがどうなっているのか、どこをモダナイズすれば良いのか把握するのが難しい状態です」と述べる。
さらに渡海氏は、モダナイゼーションを阻む3つの壁として「予算」「人材」「品質」を挙げる。
「安定稼働している基幹システムにメスを入れる以上、その必要性、妥当性を経営層に合理的に説明する必要があります。かつ、システムが大規模な基幹系であれば費用は増大、アプリケーションの変革も伴うことで更に費用が膨らむことになります。その予算を、いかに正当性を持って経営層に納得してもらうかが予算化の壁です」(渡海氏)
また、「人材の壁」とは、レガシーなスキルとクラウドを始めとする最新テクノロジーの両方に長けた人材が必要となることを指す。こうした人材を確保することは簡単ではない。
そして3つ目が「品質の壁」だ。肥大化した複雑な基幹システムをひも解き、それを新しいアーキテクチャー、最新のテクノロジーで再構築しなければならないが、その際、安定性・安全性を含めた品質をいかに担保するかは非常に重要なテーマとなる。
基幹システムをモダナイゼーションするには、これら3つの壁を乗り越えなければならない。しかし、これまで大規模なシステム構築や移行を殆ど経験してきていない企業が、自社だけでそれを実行するのは容易ではない。そこで検討したいのが、IBMが提供するコンサルティング・サービスだ。
IBMのコンサルティング・サービスの強みとは?
「お客さまの事業戦略策定や業務変革、データ活用などを支援する『ビジネス・コンサルティング』、基幹システムのモダナイゼーションのようなシステム構築・移行を支援する『テクノロジー・コンサルティング』、さらに運用・保守における高度化・自動化などを支援する『オペレーション・コンサルティング』の大きく3つがあります。企画・構想だけでなく、その後の構築、運用のフェーズまでエンド・ツー・エンドでお客さまの変革をご支援できるのが我々の強みです」(渡海氏)
また、レガシーと最新テクノロジーの両面に対応できるフルスタック人材を育成しているのも同社の特長だ。
石橋氏は、「基幹系を担当していたエンジニアをリスキリングして、新しいテクノロジーにも対応できるフルスタックの人材をどんどん育成しています。これは、クラウドネイティブな企業はもちろん、基幹系だけやっている企業にもできない我々だけの強みです」と話す。
基幹システムのモダナイゼーションという観点で言えば、同社は大きく3つのサービスを提供している。渡海氏は、「1つは実現可能性のある計画の策定です。基幹系システム構築・運用での長年の経験・実績に裏打ちされた実現可能な計画を策定します。2つ目は基幹系システムの可視化です。高度な専門スキルを持ったエンジニアがツールを活用して複雑化したシステムを紐解きます。そして3つ目がインプリメンテーション(実装)です。クラウドの最新テクノロジー、基幹系のスキルを活用しながら、お客さまのあるべき姿実現に向けて安全・確実に高い品質でシステムを構築します」と語る。
また、IBMの研究開発部門が開発した高度なアセット・ツールも提供される。たとえば、メインフレームを可視化するツール、コンテナやマイクロサービス化をサポートするツールが利用可能だ。さらに、お客さまのDXを加速するため、コンサルティング部門ではマルチクラウド化された業界ごとの共通機能を提供する基盤である「デジタルサービス・プラットフォーム(DSP)」も用意されている。
IBM×AWSがもたらす価値
「当社はAWSのプレミア ティア サービス パートナーです。金融、ヘルスケア、移行、データ分析など、特定の業界や技術領域において深い専門知識と実績を持ち、クラウドへの移行やモダナイゼーションを加速するうえで、AWSをよく知り、使いこなせる知識と実績があると認定されています」(石橋氏)
そして、AWSを活用した基幹システムのモダナイゼーションにおいて重要な役割を果たすのが、「ROSA(Red Hat OpenShift Service on AWS)」だ。これは、Red Hatが提供するコンテナ・オーケストレーション・プラットフォームであるOpenShiftを、AWS上で利用可能にするマネージドサービスだ。石橋氏は、そのメリットを次のように説明する。
「ROSAにより、Red Hat OpenShiftの強みであるエンタープライズ向けのハイブリッド環境に加えて、AWSのネイティブサービスを統合環境で使えます。さらに、コード変更を本番環境に自動的に適用するCI/CD関連のツール、アプリの運用を自動化する『Operator』などの開発・運用ツールも用意されています。これにより、ROSAを導入した企業は平均で開発スピードが2倍になり、運用コストを25%削減できるという結果が得られています」(石橋氏)
もちろん、IBMとAWSが協業する意味も大きい。渡海氏は、その価値を次のように説明する。
「IBMは長年にわたってエンタープライズのお客さまの業務を理解し、基幹系の実装を進めてきました。一方、AWSは業種を問わず多くのお客さまに選ばれているクラウドで、お客さまのニーズを取り込み、常に新しいサービスを展開してきました。これらを掛け合わせることで、長期目線でお客さまのデジタル変革とビジネスの成功を支援できると考えています」(渡海氏)
IBM×AWSが支援する「幅広い業界のデジタル変革」の事例
「どれくらい利用者がいるか不明で有事の際のトラフィックも予想できなかったこと、さらに災害時のシステム停止を最小限にしたいというご要望があったことから、AWSによるシステム構築をご提案しました。これにより、利用者の増減に柔軟に対応できて、災害時にはリージョンを切り替えることで50秒以内に復旧できる仕組みを実現できました」(石橋氏)
その他にも、金融、保険、製造、官公庁などさまざまな業界で、IBMとAWSの支援を受けて基幹システムのモダナイゼーションに取り組む企業が増えている。
言うまでもなく、DXは企業にとって競争力を維持・向上させるうえで不可欠なプロセスだ。そして、基幹システムのモダナイゼーションは、その重要な要素である。
「IBMの強みは、テクノロジー・カンパニーとして、ハイブリッドクラウドやマルチクラウド戦略、AIとデータ分析のリーダーシップ、セキュリティーとコンプライアンス、先端テクノロジーを活用したソリューション提供など、独自の価値を提供できる点にあります。今後も、これまで培ってきたさまざまな業界の経験と専門知識を生かし、AWSと連携してお客さまのモダナイゼーションをご支援していきます」(渡海氏)
コロナ禍が落ち着き、基幹システムの変革に着手する企業が増えつつある現在、日本企業のDXはいよいよ次のステージに進もうとしている。そうした企業が基幹システムのテコ入れを成果につなげるためには、最善のパートナーのサポートは不可欠であり、IBMとAWSの協業が力強い後押しとなるのは間違いないだろう。