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  • 2023/07/11 掲載

「給与デジタル払い」で何が変わる? 資金移動業者の対応状況や“解禁後”の展望を一挙解説

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2023年4月1日に労働者の賃金の給与デジタル払い制度が解禁になった。キャッシュレス化を推進する政府の成長戦略の一環で、顧客企業などにデジタル払いサービスを提供する業者として、大手の資金移動業各社が参入を表明している。厚生労働省による指定が予想される今夏以降に本格始動する見込みだ。人事院も国家公務員への支払いで導入検討を始めており、海外に比べ遅れているキャッシュレス普及を促す可能性がある。本稿では、給与デジタル払い制度の導入に至る経緯と概要を整理した上で、労働者保護のために設けられた要件と資金移動業者・賃金を支払う企業側の課題などを確認する。さらに、給与デジタル払い解禁後の論点について説明する。

執筆:EYストラテジー・アンド・コンサルティング シニアマネージャー 影山 岳史

執筆:EYストラテジー・アンド・コンサルティング シニアマネージャー 影山 岳史

15年以上の金融機関向けコンサルティングの経験を有する。主に、ネット銀行、銀行持株会社等の異業種の金融機関設立に伴う導入支援、銀行業務のDXコンサルティングから、メガ銀行と協業してRPAを活用した地方銀行向けの業務効率化サービスの企画立案・展開に従事している。

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給与デジタル払い解禁後の展望とは?
(Photo/Shutterstock.com)

「給与デジタル払い」とは

 労働者の賃金を、労働者の同意を得て資金移動業者の口座に支払う「給与デジタル払い」が、2023年4月1日に解禁になった。これまで労働基準法で規制されてきた労働者の賃金支払い先として資金移動業者の口座が新たに追加される。

 これまで銀行振込による給与の受け取りが一般的であったが、資金移動業者の口座でデジタル通貨として給与を受け取ることも可能になる。たとえば「PayPay」「楽天ペイ」「au PAY」などのスマホ決済アプリで、給与を受け取ることができる。

 これにより、証券総合口座への賃金支払いが認められた1998年以来、約24年ぶりに労働者の賃金支払い方法が増えることになる。

 給与デジタル払いの解禁は、労働者の賃金の流れを、預貯金口座を提供する銀行その他の金融機関から、キャッシュレス決済サービスなどを運営する資金移動業者へと部分的にシフトさせる見込みだ。

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「給与デジタル払い」(概要)

 給与デジタル払いの解禁によって、賃金を起点とした国内の資金フローや金融ビジネスにどのような影響が生じるか等について、世の中の関心も高まっている。

 労働者の賃金は、家計の預貯金となり、国内の資金フローの起点となるとともに(日々の家計消費に加え、住宅購入費や住宅ローンの支払いの原資となり、さらには証券投資、金などの商品投資といった資産運用の元手にもなる)、金融機関にとっては融資の原資となり、加えて、金融機関は家計の資産運用に伴い各種手数料収入を得ることができる。

給与デジタル払いの範囲

 労働者の賃金支払い方法は、労働基準法第24条で定められている。「賃金支払いの5原則」と呼ばれ、その内容は、(1)通貨払いの原則、(2)直接払いの原則、(3)全額払いの原則、(4)毎月1回以上払いの原則、(5)一定期日払いの原則、の5つである。

 (1)の通貨払いの原則により、企業は労働者の賃金を「通貨」(以下「現金」という。)で支払わなければならない。ただし、労働基準法施行規則において例外規定が設けられており、実際には、労働者の賃金を、労働者の同意を得て、「預貯金口座への振り込み」または「証券総合口座への払込み」のいずれかによって支払うこともできる。

 今回の労働基準法施行規則の改正で賃金支払い方法の例外規定が新たに追加され、2023年4月1日から給与デジタル払いが可能になった。

 また、これまでも預貯金口座や証券総合口座への賃金支払いは銀行口座等へのオンライン処理によって行われているが、ここでの給与デジタル払いとは、労働者の賃金を、厚生労働省の指定を受けた資金移動業者(指定資金移動業者)の口座への資金移動により支払うことを意味する。

 なお、すでに、(労働基準法上の「労働者」に当たらない)フリーランスの報酬は、デジタル払いが可能となっている。たとえば、「Kyash」などのデジタルサービスが存在し、これらを利用して報酬を受け取る人が徐々に増えている。

 また、経費精算に関しては、2020年度税制改正によって、電子マネーなどのキャッシュレス決済の利用が可能になっている。

給与デジタル払い導入の経緯

 キャッシュレス化を推進する政府の成長戦略の一環で、長らく議論されてきた給与のデジタル払いは、2021年に入ってから議論が本格化し始めた。

 厚生労働省の労働政策審議会労働条件分科会で審議が行われ、当時は、労働者保護のための対応が不十分という声も根強く、いったん先送りされた。

 2022年に入ってから、労働者保護に関する検討を続ける中、厚生労働省は、2022年9月22日から10月21日まで、給与デジタル払い導入のために必要な「労働基準法施行規則の一部を改正する省令案」に対する意見募集を行った上で、同月26日の第181回労働政策審議会労働条件分科会において厚生労働大臣より同審議会に対して「労働基準法施行規則の一部を改正する省令案要綱」を諮問し、即日答申を得た。

 そして、2022年11月28日に、上記意見募集の結果が公表されるとともに官報で労働基準法施行規則の一部を改正する省令が公布され、その施行日である2023年4月1日から給与デジタル払いが解禁されることになった。

 なお、給与デジタル払いを取り扱うことができる資金移動業者は厚生労働大臣による指定を受ける必要があり、労働者の同意を得るための各事業場における労使協定の締結、給与の支払いをする企業の事務・システム対応などにも時間を要すると見込まれる。そのため、現実的に労働者が給与デジタル払いを受け取れるようになるのは、解禁されてから数カ月以上先になる可能性もある。

2021年4月19日、2022年3月25日 制度設計案(骨子)と論点を提示して議論
(資金移動業者の口座への賃金支払について)
2022年4月27日、9月23日 具体的な検討の方向性を提示して議論
2022年9月22日~10月21日 意見募集を実施
2022年10月26日 労働政策審議会労働条件分科会において「労働基準法施行規則の一部を改正する省令案要綱」を諮問・答申
2022年11月28日 労働基準法施行規則の一部を改正する省令公布
2023年4月1日 労働基準法施行規則の一部を改正する省令施行
資金移動業者からの指定申請の受付を開始
【次ページ】賃金市場の規模と給与デジタル払いの規模(予測)

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