• 2026/03/05 掲載

また値上げか…米イラン攻撃が日本の物価や日銀の金融政策に与える影響とは?(2/2)

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独自試算、原油高と円安のCPI押し上げ幅

 ホルムズ海峡発の原油高と、歴史的な水準で推移する円安が重なる「ダブルショック」は、日本の消費者物価指数(CPI)を最終的にどれだけ押し上げるのか。その波及効果の全容を正確に測るには、各産業部門への価格転嫁の時間差を前提とし、それぞれの段階における寄与度を積み上げる緻密な設計が必要となる。

 物価への波及経路は、マクロ経済学的に大きく4つの段階に分解できる。

 第1波は、輸入物価の上昇に直結するガソリンや灯油など「エネルギー」関連品目への即時反映である。ここでの価格転嫁のタイムラグは1カ月から2カ月と短く、CPIを直接的に押し上げる。

 第2波は、前述した燃料費調整制度を通じた「電力・ガス」料金への転嫁であり、輸入価格の変動からおよそ3カ月から5カ月の遅れを伴ってCPIに反映される。

 第3波は、燃料コストの増大を受けた陸運や海運業界などによる「物流」運賃の引き上げである。物流コストの転嫁は荷主企業との価格交渉を要するため、実際のサービス価格上昇として統計に表れるまでに6カ月以上の期間を要する。

 最後の第4波が、輸送費や包装資材費の上昇が「食品」や日用品などの消費財全般に転嫁される最終段階である。

 SMBC日興証券などの独自試算モデルを参考にすると、このダブルショック時に効く最大の変数は「原油価格の上昇幅」「為替レートの動向」、そして「燃料費調整のタイムラグ」の3点に集約される。

 たとえば、北海ブレント原油が1バレル当たり80ドルから100ドルへと25%上昇し、同時に為替が1ドル当たり140円から150円へと約7%の円安に振れた場合を想定する。この時、円建ての原油輸入価格は単なる足し算ではなく、約33%の劇的な上昇となる。

 原油価格の10%上昇は、コアCPI(生鮮食品を除く総合)を直接および間接の波及を含めて最終的に0.1%から0.15%程度押し上げるとされる。上記の前提に当てはめれば、CPIを0.3%から0.5%近く押し上げる強烈なインフレ圧力となる。

 重要なのは、このインフレ圧力が1度に出現するわけではない点だ。最初の3カ月でガソリン価格が上がり、6カ月後に電気代がピークを迎え、1年後に加工食品の値上げが相次ぐという時間差の構造を持つ。

 政府による電気代や都市ガス代への補助金(激変緩和措置)が再開または延長されれば、CPIの表面的な数値は0.5%程度抑制されるが、それは国民負担の時期を先送りしているに過ぎない。原油高と円安の相乗効果は、時差を伴いながら日本経済のあらゆる供給網に浸透し、物価上昇の波を長期化させる決定的な要因となるのである。

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原油高と円安のCPI押し上げ幅

日銀の追加利上げシナリオと想定外ショック

 原油高と円安の連鎖によるコストプッシュ型のインフレが国内で再燃する中、日本銀行は追加の利上げに踏み切れるのか。

 その手がかりは、日銀が3カ月ごとに公表する「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」の枠組みに隠されている。日銀の政策判断は、単なる物価の表面的な上昇率ではなく、その背後にある経済メカニズムとリスク評価のバランスに強く依存している。

 展望レポートにおける政策反応の基本線は、賃金と物価の好循環という「第2の力」が確実なものとして強まっているかどうかの評価に尽きる。

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日銀の追加利上げシナリオと想定外ショック

 日銀はこれまで、エネルギー価格の変動や為替要因などによる短期的なコストプッシュインフレに対しては、原則として金融引き締めでは対応しないという姿勢を貫いてきた。

 しかし、中東情勢に端を発する原油高と円安の進行が「想定外のショック」として企業の価格設定行動を過度に刺激し、中長期的な予想物価上昇率(インフレ期待)を目標の2%に向けて急激に上振れさせるリスクが高まれば、政策運営のシナリオは修正を迫られる。

 ロイター通信などが報じる日銀関係者の見方でも、輸入インフレの再燃が実質賃金の低下を通じて個人消費を冷やし込む「下振れリスク」となる半面、企業の便乗値上げや労働側のさらなる賃上げ圧力を通じて基調的なインフレ率を押し上げる「上振れリスク」となる双方が、日銀内で厳格な評価の対象となっている。上振れリスクが顕在化すれば、日銀は市場の想定を前倒しする形で政策金利を引き上げる大義名分を得る。

 仮に日銀が追加利上げに動いた場合、金融市場から実体経済への波及は現実的な経路をたどる。国債市場においては、政策金利の引き上げ観測が強まった段階で、新発10年物国債利回りなどの長期金利が敏感に反応し、1%の節目を超えて上昇する。

 これが家計に直結するのが住宅ローン金利の動向だ。長期金利に連動する「固定型」の住宅ローン金利は先行して引き上げられ、政策金利である無担保コール翌日物金利に連動する「変動型」のローン金利も、実際の利上げ後に基準となる短期プライムレートが上昇することで追随する。国内の住宅ローン利用者の約70%が変動型を選択しているとされ、金利が0.5%上昇するだけでも、多くの世帯で月々の返済額の増加という直接的な痛みを伴う。

 その半面、市中銀行の預金金利も段階的に引き上げられるが、普通預金金利が0.001%から0.02%程度へ上昇したとしても、貸出金利の上昇ペースに比べて遅行し、恩恵は限定的となる。エネルギー価格の高騰による生活必需品のインフレと、利上げに伴うローン負担の増加という2重の重圧に、日本経済がどこまで耐えられるか。

 日銀の政策運営は、物価と景気を天秤にかける極めて薄い氷の上を歩くような精緻な舵取りが求められている。

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