- 2026/08/13 07:00 掲載
金融庁レポートで判明、なぜ「同じ条件で火災保険に入れない」企業が増えるのか(2/2)
なぜ損保は「契約を取る」から「リスクを選ぶ」へ
積立不足が昔から存在したのであれば、なぜ今、企業向け保険のあり方まで変わり始めたのか。大きな理由の1つが、再保険市場と損保の収益管理の変化である。損保会社は、巨大災害で発生する損失の一部を再保険会社へ移している。しかし、世界的な自然災害の頻発・激甚化を受け、再保険会社は近年、再保険金の支払いを開始する「発動点」を引き上げるなど、引受リスクの見直しを進めてきた。2025年度に日本で発生した自然災害の多くも、この発動点に達せず、保険金の大半を元受損保が負担したという。
2026年に入ると再保険市場には変化もある。欧米では再保険会社の引受余力が潤沢になり、物保険を中心に再保険料率が低下した。しかし、日本の4月更改では、価格を踏まえて損害の小さい部分をカバーする再保険の購入を見送り、発動点を高い水準に保ったケースも確認された。単純に「再保険が安くなったから元通り」とはいかない状況である。
もう1つの背景が、日本独特の企業保険市場だ。金融庁によれば、従来は顧客企業との関係を重視する中で、厳しい引受条件の設定を控える傾向があった。政策保有株式や企業内代理店なども絡み、「まず契約を引き受け、問題があれば長期的に条件を変更する」といった比較的緩やかなU/Wが続いてきた。
ところが現在は、保険料調整行為などを契機に従来の取引慣行の問題も表面化した。大手損保では、高額契約や高リスク業種を中心に、保険料率の引き上げ、引受金額の引き下げ、免責金額の設定などを進めている。経済産業省と金融庁の検討会でも、リスク実態に即したU/Wへの転換が必要との認識が示された。
つまり起きているのは、「火災保険が苦しいから値上げする」という単純な話ではない。契約シェアを取りに行く保険から、リスクを精査して採算の合う条件で引き受ける保険への転換なのである。
保険任せはもう限界?企業に迫るリスク管理の転換
この構造変化では、企業側の対応も問われる。金融庁と経済産業省の検討会では、企業が事業内容、資産構成、立地条件、サプライチェーン、リスク低減策などを踏まえて全社的なリスク評価を行い、その情報を損保会社と共有する重要性が確認された。ここで重要なのは、情報を多く出せば必ず条件が悪くなるわけではないという点だ。適切な情報共有が行われれば、単なる引受条件の厳格化ではなく、企業の実態に即した補償内容や引受条件を設定できる可能性があると整理されている。保険会社だけでなく、企業自身が「自社にはどの程度のリスクがあり、どう抑えているのか」を説明する時代になった。経済産業省の検討会報告書 でも、保険を含むリスクマネジメントの高度化を成長投資につなげる考え方が示されている。
さらに、2026年版レポートには興味深い指摘もある。外資系損保や再保険会社からは、欧米では保険会社独自の安全防災基準が工場建設の事実上の標準となり、スプリンクラーなどが重視される一方、日本では消防法を守っているだけでは海外の再保険会社などの引受基準を満たさない場合が多いとの意見が寄せられた。これは金融庁自身による一律の認定ではなく、外資系損保・再保険会社側から示された見方である点には注意が必要だ。
また、企業が特定の損保会社だけに依存するのではなく、外資系損保や保険仲立人などとの接点を増やすことも選択肢として示されている。保険仲立人には、企業のリスク分析やリスクファイナンスの助言、企業と損保会社の対話を支える専門的な役割も期待されている。
これからは保険を毎年更新するだけで企業のリスク対応が完結する時代から、自社のリスクを把握し、保険会社と条件を交渉しながら必要な補償を確保する時代へ。2026年版レポートが示した本当の変化は企業と損保の関係が大きく変わり始めたことなのかもしれない。
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