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- 2025/09/04 掲載
損保ジャパンの“崖っぷち再生劇場”、「不正請求で大炎上」から「AIで逆襲」への道
2015年に矢野経済研究所に入社後、生命保険領域のInsurTechやCVCを含めたスタートアップの動向やブロックチェーンや量子コンピュータなどの先端技術、車載ソフトウェアに関する市場調査、分析業務を担当。また、調査・分析業務だけでなく、事業強化に向けた支援や新商品開発支援、新規事業支援などのコンサルティング業務も手がけている。
SOMPOホールディングスの中計をどうみるか?
SOMPOホールディングスは、2024年5月に「新中期経営計画(2024~2026年度)」を発表した。新中計においては、「レジリエンスのさらなる向上」、「つなぐ・つながる」の実現に向けて、「新しい損保ジャパン」「海外保険事業」「ウェルビーイング」の3本柱を掲げている。本稿では3本柱のうち、「新しい損保ジャパン」に焦点を当てていく。なお、同社は自動車保険金不正請求などへの対応や情報漏えい事案などに関する業務改善命令に基づき、業務改善計画を進めており、新中計においても同計画を色濃く反映させた内容となっていることが伺える。
こうしたなか同社は、新中計の前提として、自社の経営課題について外部環境および内部環境の双方から分析している。
まず損保業界における収益環境として、人口減少に伴う国内損害保険市場が頭打ちである点に加え、気候変動による自然災害の頻発化・激甚化やインフラなどの老朽化による大口事故の発生をはじめ、収益環境の悪化が進んでいる状況にあると指摘している。
次に自社については、護送船団からの意識改革の欠如や大型代理店の強い影響力など旧態依然とした事業モデルや業界慣習から抜け出せず、目先の営業成績・利益を優先していたと総括。
そのうえで再発防止策の徹底に加え、事業モデルの抜本的な変革が急務とする。具体的には、新中期経営計画において「レジリエンスのさらなる向上」と「つなぐ・つながる」をゴールに据え、前述した3本柱を中心に注力、強化に向けて、ガバナンスを強化しつつ、ROE向上と利益成長の双方を実現していく考えである。
こうした課題を踏まえて、本稿では新中計における「新しい損保ジャパン」についていくつかのポイントに絞って押さえておきたい。
ポイント(1): 不正請求対策に向けた保険金サービスの変革
1つ目のポイントは「保険金サービス改革」である。同社はビッグモーター(現バルム)による保険金不正請求事件への対応に向けた「業務改善計画」内で問題の真因の1つとして「経営管理態勢」を挙げたうえで、保険金支払管理態勢に課題があったとし、不正請求防止に向けた取り組みを積極化している。不正請求対応に際して、アジャスターよる損害調査の初期段階でなるべく正確な情報収集が重要となるため、現場で対応する技術アジャスターの体制強化と併せて不正請求に係る対応体制の整備を図る方針を打ち出した。
具体的には、技術アジャスターの体制強化として増員ならびに後述の保険金サービス支援部による教育・研修などを実施、アジャスターのスキルレベルの均一化を図っていく狙いがあるものとみる。
また、保険金の不正請求の疑義がある事案に専門的に対応する、保険金サービス支援部の新設を含め、3層での不正請求対策に向けた体制強化を図る。
こうした体制強化と併せて、デジタル面でも強化していく。2025年4月に米イーアイエス・グループ(EIS Group)が手掛けるAIを活用した保険金不正請求検知システムを導入するなど体制強化を図った。なお、同システムは、過去の支払データをベースにAIで分析、不正請求事案と類似性の高い事案を検知する仕組みとなっている。
【次ページ】ポイント(2):組織や評価など多角的に営業体制を変革
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