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  • 2022/01/27 掲載

なぜ「スタートアップ連携」に消極的? 大手金融のデジタル領域にみる「背景と問題点」とは

大野博堂の金融最前線(44)

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金融機関においてフィンテック企業と提携するメリットは何か。ついにこうした問いかけがなされる時代になった。日本ではインシュアテック(InsurTech)と保険業界との連携が思うほど進展しないなど、金融機関においてデジタルチャネルの開拓が進んでいないのではないか、といった指摘もなされている。果たして、これは金融機関の取組の不足などに起因するものなのだろうか。本稿では、こうした背景を紐解くとともに、認識されている課題について解説を加えるとともに、業界としてフィンテック企業の活用をどのように捉えるべきか、について改めて整理してみたい。

執筆:NTTデータ経営研究所 パートナー 金融政策コンサルティングユニット長 大野博堂

執筆:NTTデータ経営研究所 パートナー 金融政策コンサルティングユニット長 大野博堂

93年早稲田大学卒後、NTTデータ通信(現NTTデータ)入社。金融派生商品のプライシングシステムの企画などに従事。大蔵省大臣官房総合政策課でマクロ経済分析を担当した後、2006年からNTTデータ経営研究所。経営コンサルタントとして金融政策の調査・分析に従事するほか、自治体の政策アドバイザーを務めるなど、地域公共政策も担う。著書に「金融機関のためのサイバーセキュリティとBCPの実務」「AIが変える2025年の銀行業務」など。飯能信用金庫非常勤監事。東工大CUMOTサイバーセキュリティ経営戦略コース講師。宮崎県都城市市政活性化アドバイザー。

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なぜ「InsurTechと保険業界」など連携が進展しないケースが増えているのか
(Photo/Getty Images)

保険業界におけるInsurTechの取組みは遅れているのか?

 金融機関での「デジタルチャネル開拓」が進んでいないのではないか、といった指摘もなされている昨今だが、金融機関の取組の不足などに起因するものなのだろうか。こうしたこうした背景を紐解く前に現状を振り返っておこう。

 業種別にみると、金融庁の方向付けなどを背景に、銀行業においてフロント、ミドル、バックのいずれの機能においても、フィンテック企業の提供する分析ツールやAIなどが活用されるようになった一方、保険業界においてはInsurTechを担ぐベンチャー企業の進出や彼らとの連携や進出が進展していない、といった指摘がある。

 背景としては3点ありそうだ。1点目は欧米と異なり、保険そのものの活用が生活に根付いていないこと。すなわち、あらゆる対象物や取引に保険をかけ、それぞれにオリジナルの保険料算定が必要、といった複雑且つ頻繁な要件が日本では需要されていないことだ。保険業界は顧客との間でリアルタイムかつ大量に「カネ」の流れが生じない業界の1つであり、フィンテック企業の得意とするデータ連携やデータ利活用、個人顧客の囲い込み、といった既存の「勝負ツール」の活用余地が限定されている可能性がある。

 2点目は保険業界独特の「代理店システム」だ。代理店が販売チャネルとしてもはや欠かせなくなったこともあり、とりわけ大手保険会社では「ヒトを代替する新たな販売チャネル」を用意する動機に乏しいともいえる。

 この反面で、3点目に挙げられるのが、ネット系子会社の存在だ。大手保険会社による「代理店システム」による寡占が進んできたものが、徐々にネット系保険会社によって切り崩され、こうした新規参入企業がまさに「フィンテック企業」として活動領域を拡げてきた。さらに大手生損保自らが子会社形式で相互参入しこれを迎え撃つ構造になっており、もはやこうした現状下では、 InsurTechなどの外部ベンチャーの活動余地は欧米よりも限定的となるのも仕方ないところだ。まさに「保険会社自らがInsurTechベンチャーとして活動を始めた」というのが正しいかもしれない。

日米で異なったフィンテック企業勃興の背景

 ここで銀行を例示してみよう。そもそも米国と日本では2つの視点でフィンテック企業の活動フィールドが大きく異なる。1つは口座利用の柔軟さだ。米国では従来、多数の「口座を開設できない市民」と「口座はあっても何らかの形で金融サービスの利用に制限が加わっている市民」の割合が30%程度にも上っていた。この背景には不法移民の流入などを受けた厳格な顧客管理などが存在していたことが知られている。

 2点目は国土面積の差だ。米国は広い国土に砂漠地帯も多く存在し、金融機関が7000近くあったとしても、都市部以外では身近な店舗に足を運ぶうえでは相当の距離を自動車などで移動する必要があるなどの不便さが指摘されていた。ATMも重機を使った「丸ごと盗難」のリスクを念頭に、設置場所が限られているなど、米国市民は現金を引き出すのも一苦労だ。

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「設置場所が限られているなど、米国市民は現金を引き出すのも一苦労だ」
(Photo/Getty Images)

 こうした課題への対応として、フィンテック企業が金融サービスを提供しようとする動機が形成されたものと理解することが可能だ。そのため、金融サービスに近しい資金移動サービス、決済手段などの提供を目的とした種々のフィンテック企業が生まれたのだ。

 他方、日本では子供名義も含め「ほぼ誰でもが」口座を開設できる環境にあり、身近に金融機関の店舗やATMがあふれているなど、口座開設の問題も金融機関との物理的な距離感もほぼ存在しない環境が長く続いた。

 さらに、金融サービスを提供可能な郵便局やJAが過疎地域にも店舗を構えている点も忘れてはならない。クレジットカードやSUICAなどによる電子決済も充実しており、企業間や個人でも口座振替や自動引き落とし、インターネットバンキング(IB)が当然のごとく活用され、生活に根付いてきた。つまり、日本における電子決済の割合は喧伝されているほど低い数値ではない。

 加えて、日本では金融サービスを取り巻く規制やルールが事細かに定義されてきた経緯もあり、一般的な理解としてフィンテック企業の活躍の余地は米国に比べると限定されがちである。

 したがって、日本ではフィンテック企業の多くが、デジタルバンク設立や決済といった「金融当局の規制」にかかる「金融サービスの本丸」ではなく、金融機関利用者の「生活の利便性改善」などをテーマに活動領域を「金融サービスの周辺」で指向する傾向が強く観察された。

 その中で第三者割当増資により大きく活動資金を得たマネーフォワードなどの「家計簿サービス」提供企業の一角が、これを軸足に新たなサービスエリアの開拓を企図して徐々に金融サービスに滲み出てくるように活動領域を拡大してきた、というのが実態だろう。

【次ページ】規制の緩い国に活動フィールドを移してきたフィンテック企業

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