- 2026/03/31 掲載
SMBCグループに聞く金融機関のAI導入、なぜ「現場の不安」が最大の壁となるのか?(2/2)
戦略領域では「人間の感覚」が不可欠な理由
一方で、すべての業務をAIに置き換えられるわけではない。松永氏は、オペレーション業務とストラテジック業務で、人とAIの最適な役割分担が大きく異なると強調する。「オペレーションは人がいないほうが良いが、分析やストラテジックな領域では、人がいないと進まない領域がかなりあります」(松永氏)
たとえば、企業の財務分析において「キャッシュコンバージョンサイクルが悪化している」という結果が出たとき、純粋に中立的な情報収集だけでは有効な対策は立てられないケースが多い。
マネジメントの経験値から問題に対して、特定の領域を集中的に調べるような重み付けがフィットするケースや、データだけでなく、現地の政治情勢や為替動向、労働環境など、多面的な要素を統合した人間の判断力が求められる。
分析業務を完全にニュートラルに行うと、「ありきたりな答えしか出てこない」という問題も生じる。戦略的な洞察には、経営者の視点や優先順位といった「アート」的な要素が必要不可欠なのだ。
生成AI時代のリーダーに求められる「組織デザイン力」
生成AI時代において、リーダーにはどのような能力が求められるのか。松永氏は「エンド・トゥ・エンドでプロセスをデザインし直すセンス」の重要性を指摘する。現在の組織は、人間の管理限界に応じて設計されている。一人の管理者が直接管理できるのは、せいぜい100人程度だ。しかし、AIとの協働が可能になれば、こうした制約は大幅に緩和されるはずだ。
「AIを活用することで、1000人のチームでも運営できるようになると思います。そういうデザインができるかどうかが重要です」(松永氏)
より具体的なレベルでも、プロセス全体を見渡した業務改革が必要だ。貿易決済の例で言えば、フロント営業→トレード・ファイナンス営業部→事務処理センター→送金部門という工程がある中で、全体を俯瞰して、なくす業務、AIに置き換える業務といった最適化ポイントを見つけ出す視点が求められる。
「現場にいると、なかなかそういう発想は生まれません。全体を見てプロセスをデザインする力が、特にAI活用においては重要になります」(松永氏)
松永氏は、松下幸之助の「3%のコスト削減は難しいが、3割のコスト削減ならすぐにできる」という言葉を引用しながら、AI時代の変革の規模について語る。
「今なら7、8割の業務削減が可能だと思います。30人でやっている業務を、3人でできるようにする。そういう大胆な変革を実現できる人材が求められています」(松永氏)
「金融OS」構想が描く企業財務の未来
最後に松永氏は、AI技術とブロックチェーンの組み合わせによって実現される「金融OS」の構想について語った。この取り組みは、単なる技術導入を超えて、企業の財務経営そのものを変革する可能性を秘めている。「グローバルベースで24時間365日、いつでも決済できる環境が整えば、企業の財務戦略は劇的に変わります」(松永氏)
通常、企業の資金決済や余剰キャッシュの運用は、銀行の営業時間やカットオフタイムに制約されている。しかし、AIの活用に加え、ステーブルコインなどのブロックチェーン技術と組み合わせることで、リアルタイムでの資金最適化が可能になる。
「AIがキャッシュフローの最適化や為替ヘッジを自動的に行い、企業のCFOの戦略も大きく変わってくると思います」(松永氏)
この変化は、企業単独では実現できない。金融機関と企業が協力して、新たな金融インフラを共に作り上げていく必要がある。
松永氏が最後に強調したのは、マネジメント層自身がAIツールを使いこなすことの重要性だ。
「マネジメントも実際にAIを使ってみることが大切です。コパイロットを使えと言いながら、自分は使っていないというケースが意外に多いのです」(松永氏)
ダボス会議でも、VISAの経営陣がAI活用の状況を発信したことで、組織全体の浸透率が大幅に向上した事例が報告されている。トップ自らが使いこなし、その体験を共有することで、組織全体の変化が加速する。
金融機関におけるAI導入成功の鍵は、技術力よりも「組織の変革力」にある。エンド・トゥ・エンドでのプロセス改革を実現できるリーダーシップが、価値を出すAI活用を可能にするのである。
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