- 2026/08/11 07:00 掲載
金融庁に「暗号資産・ステーブルコイン課」誕生、ローソン実証で決済はどう変わる?(2/2)
なぜ金融庁は「専門課」まで作ったのか
背景にあるのが、暗号資産を巡る金融行政が「投資家保護」だけでは整理できない段階に入ったことだ。日本では2023年6月、法定通貨と価値が連動するステーブルコインを「電子決済手段」として扱う制度が始まった。その後も制度改正が続き、2026年6月1日には「電子決済手段・暗号資産サービス仲介業」の新制度もスタートした。金融庁は利用者保護を維持しながら、関連サービスへの参入を促しやすい環境整備を進めてきた。
さらに2026年7月15日には、暗号資産に関する制度を大幅に見直す「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律」が成立した。金融庁がステーブルコインだけでなく、暗号資産市場全体について監督・制度整備を強めていることが分かる。
今回の組織再編では、従来の「暗号資産・ブロックチェーン・イノベーション参事官室」などを組み替え、新設された資産運用・保険監督局の下に暗号資産・ステーブルコイン課を置いた。同課には暗号資産モニタリング室、イノベーション推進室、デジタル決済企画室が配置されている。規制・監督だけでなく、デジタル決済の企画まで同じ課が扱う体制である。
金融庁自身も、今回の再編について「金融分野におけるデジタル技術の進展への対応」を理由の1つに挙げる。ここから読み取れるのは、暗号資産を「特殊な投資商品」、ステーブルコインを「Web3業界だけの決済手段」と切り分けて扱うことが難しくなってきた現実だ。
ローソンのレジでJPYCが使われるようになれば、話はもはや暗号資産投資家だけのものではない。金融庁に専門課が生まれた背景には、デジタル資産が既存の金融・決済インフラへ入り込むことを前提に行政側も体制を組み直す必要が出てきた事情がある。
銀行・カード会社はどうなる?決済再編「意外な勝者」
確かに、利用者と企業がブロックチェーン上で直接価値を移転できる範囲が広がれば、従来型の送金や決済から得てきた手数料収入には影響が及ぶ可能性がある。これまでも本媒体ではステーブルコインの普及によって銀行の送金ビジネスが変化し得ることを指摘してきた。一方で、ステーブルコインを保有・交換する際には銀行口座との接続が必要になる場面も多く、銀行そのものが不要になるわけではない。
むしろ興味深いのは、銀行自身がブロックチェーン決済へ入り始めていることだ。SBI新生銀行や北國銀行などでは、銀行預金そのものをブロックチェーン上で扱う「デポジットトークン」の取り組みが進む。ステーブルコインと銀行預金のトークン化は競合する部分がある一方、用途によって共存する可能性もある。
金融庁も決済インフラの高度化を政策課題として捉えている。2026年2月、片山さつき金融担当相は、ステーブルコインを使って有価証券の権利移転と代金支払いを連動させる実証について、「最先端に立ったということは画期的だ」と語った。店頭でジュースを買う決済だけでなく、証券や企業間取引まで視野に入っているということだ。
そう考えると、ローソン実証の本当のインパクトは「JPYCでおにぎりが買える」という話ではない。小売店のPOS、通信会社の決済基盤、ウォレット、銀行口座、そしてブロックチェーンがつながり始めた点にある。
勝者になるのは、カード会社を単純に排除した企業とも、ステーブルコインを発行した企業とも限らない。消費者にはこれまでと変わらない簡単な支払い体験を提供しながら、その裏側で送金・決済・精算を最も効率よくつなげられる事業者──。金融庁に専門課まで誕生した2026年は、その新しい決済インフラを巡る競争が、実験室から街のレジへと出てきた年として記憶されるかもしれない。
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