- 2026/08/18 06:30 掲載
日本に残された時間は短い…オランダで痛感、ステーブルコインで迫る「銀行の土管化」
YKBridgeを設立し、海外テクノロジー企業の日本市場参入や、日本企業のグローバル戦略、オープンイノベーション、サステナビリティ金融領域を支援。フィンテック協会では常務理事を経て、現在はグローバルアドバイザーを務める。
AIとデジタルマネーが突き付ける「信頼」の再設計
2026年6月、アムステルダムで開催された欧州を代表する金融・フィンテックの国際カンファレンスMoney20/20 Europeに参加した。会場では、AIエージェント、ステーブルコイン、KYC(本人確認)、AML(マネーロンダリング防止)、不正検知、デジタルIDなど、金融の未来を語る言葉が飛び交っていた。
連日パネルをはしごし、ブースで事業者と話す中で、私は次第にある確信を持つようになった。一見バラバラに見えたテーマが、実はすべて1つの問いに向かって収束していたからだ。
その問いとは、「AIとデジタルマネーが動く時代に、金融取引の信頼を誰が保証するのか」である。
数年前までのフィンテックは、銀行機能を切り出し、より便利なアプリに変える「アンバンドリング」が中心だった。しかし今年見えたのは、その次の段階である。すなわち、AIが顧客に代わって商品を探し、比較し、購入し、決済を起動する。ステーブルコインが給与、B2B送金、貿易決済、トレジャリー管理(企業の資金・流動性管理)に使われ始める。KYCやAMLは、静的な書類確認から、AIを用いた継続的モニタリングへ移る。
つまり、競争の焦点は「誰が顧客アプリを持つか」から、「誰がAIとデジタルマネーが動く時代の信頼インフラを握るか」へ移っている。
正直に言えば、現地でこの変化を目の当たりにし、日本の金融機関には、対応を先送りできる時間がほとんど残されていないのではないかと感じた。もはや新技術を調査するだけの段階ではない。自行の収益構造やシステム構造が、どこから、どのように侵食されるのかを具体的に見極める段階に入っている。
単機能ではもう勝てない、フィンテック「再統合」の正体
では、その「信頼インフラ」の再設計は、現地ではどのように見えたのか。印象的だったのは、どのブースでも、単独の機能だけを売っているようには見えなかったことだ。AIエージェントの議論では認証や不正検知、ステーブルコインの議論ではKYC、会計、カストディ(資産管理業務)、AMLの話に必ず移る。レグテック(金融機関の規制対応をテクノロジーで効率化・高度化する仕組み)の事業者も、本人確認だけでなく継続的モニタリングやAIガバナンスまでを語っていた。
そこで見えてきたのは、フィンテックがもう一度つながり直している姿だった。これまでフィンテックは、銀行の機能を分解することで成長してきた。しかし、AIやステーブルコインが実務に入ると、分解された機能を再びつなぎ直す必要が出てくる。今年のMoney20/20 Europeは、フィンテックの「アンバンドリング」から「リバンドリング」への移行を示していた。アプリの競争ではなく、Trust Stack、すなわち信頼基盤の競争である。
ここで日本の金融機関が見誤ってはいけないのは、この変化は「新しいアプリを作れば対応できる」という話ではないことだ。問われているのは、裏側にある認証、認可、リスク判定、監査、補償の仕組みである。 【次ページ】単機能ではもう勝てない、フィンテック「再統合」の正体
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