- 2026/09/28 07:00 掲載
コンサルも経営もやった、でもPEファンドは別物…経験者が語る「仕事・報酬・向く人」
新連載:PEファンドのリアル
クレアシオン・キャピタル 投資チーム マネジャー。アクセンチュアにおいて、ビジネスプロセス改善等のコンサルティングに従事。その後、フロスト&サリバンでの戦略コンサルティング業務、外資系スタートアップ企業での日本法人立ち上げおよび代表取締役社長経験を経て、クレアシオン・キャピタルに参画。投資チームにて未上場企業への投資および投資後の経営支援に携わる。慶應義塾大学経済学部卒業。
経営に近づくほど「決める責任」は重くなる
筆者の経験に即して述べたい。新卒で入ったアクセンチュアでは、電機メーカーの資金管理システムや、携帯電話会社の需要予測・自動発注の仕組みづくりを担当した。年単位で同じクライアントを担当し、仕組みが実際に稼働するところまで関与するコンサルティングである。3年目には英語もろくに話せないままシンガポールに赴任した。業務も英語も現場で覚えた。
次のフロスト&サリバンでは、上場企業の経営計画や海外市場への参入戦略を数カ月単位で担当し、提案を納めては次の案件へ移った。アクセンチュアと同じコンサルティングといえども中身は違う。だが共通していたこともある。提案を採用するかどうかを決め、実行し、結果を引き受けるのは、いつもクライアントだったという点である。
事業会社に移って知ったのは、同じ会社の中でも立場によって仕事がまるで違うことだった。中小ホテル向けのDX支援を行うOYO Japan(現・タビスト)では、現場の業務改善から始めて、最終的には戦略企画室長として全社戦略を担当した。戦略を起案し、経営陣の決裁を得て、決まった方針に沿って部門を動かす。会社を動かしている手応えはあるものの、最終的な決定権は常に経営陣の側にある。
その後、マウスピース型矯正を手がけるZenyumでは、日本法人(Zenyum Japan)を立ち上げて代表取締役を務め、法人登記から薬事対応、採用、提携先の開拓まで、日本事業の判断のほぼすべてが自分の担当範囲だった。
企画として決裁を仰ぐのと、経営者として決めて結果を引き受けるのとでは、同じ事業会社でも別の仕事といってよい。
そしてPEファンドは、そのどちらとも立ち位置が異なる。投資家から預かった資金で会社の株式の過半を取得し、株主として、多くの場合は取締役も兼ねて、経営陣とともに数年かけて会社の価値を高め、次の担い手へ引き継ぐ。日々の経営を担うのは投資先の経営陣である。
ファンド側が受け持つのは、どの会社に投資するかという入口の判断と、経営体制や大型投資、売却といった株主として決めるべき重要事項、そして経営陣への日常的な支援だ。
この立ち位置の違いが、日々の仕事にも、身につく力にも、報酬設計にも、そのまま表れてくる。
投資案件の大半は見送り? PEファンドのリアルな仕事
ここからは、PEファンドの仕事の中身を具体的に見ていこう。PEファンドの仕事は、大きく「投資するまで」と「投資した後」に分かれる。前者はソーシング(案件の発掘)、検討、投資実行、後者は経営支援と売却である。手元には常に複数の新規投資案件と既存投資先があり、それぞれが別々の段階にある。午前は新規案件の面談、昼は投資先の月次会議、夕方は別の案件の契約条項の確認、という日も珍しくない。
投資するまでの日々は、「会う、読む、考える、議論する」の繰り返しである。未上場会社の場合、投資判断に必要な財務情報が公開されていないため、M&A仲介会社や証券会社、銀行、会計事務所と関係をつくり、案件が持ち込まれる入口を広げておく。
案件の紹介を受けたら、秘密保持契約を結んで資料を読み込み、事業の内容と数字から投資仮説を立てて、社内で議論する。事業の見通し、価格、譲渡のタイミングなど、どこかで条件が合わず見送りになる案件のほうが、割合としては圧倒的に多い。
投資すると決めた案件は、そこから一気に詰めの局面に入る。専門家とともに事業・財務・法務を精査するデューデリジェンス、買収資金を借りるための銀行との交渉、株式譲渡契約の条項の詰め。数字と書面の確認が何週間も続く、失敗の許されない工程である。
投資した後は、多くの場合は取締役として投資先に関わり続ける。月次の業績を経営陣と突き合わせ、取締役会の議題と資料を設計し、金融機関に会社の見通しを説明する。
月次決算が遅い会社なら、会計事務所と組んで、数字が早く正確に出る仕組みづくりから始める。営業責任者や経営人材が足りなければ、採用に動き、候補者を口説き、入社後の定着まで伴走する。投資先の本社が地方にあれば、朝の便で飛んで会議に出て、夕方の便で戻る。
この仕事の醍醐味を1つ挙げるなら、会社を譲るかどうかという決断の渦中にいる経営者と向き合い、ともに歩み続けられることだと筆者は思う。創業の経緯、事業への思い、会社に残したいもの。そうした話をアドバイザーではなく、これからをともに背負う相手として聞く。そして投資した後は、その思いを汲みながら、会社をさらによくするために心血を注ぐ。会社勤めをしながらこうした経験ができる仕事はそう多くない。
コンサルタントだった頃の筆者は、力を尽くした提案がその後どうなったのかを知らないまま、次のクライアントへ移ることに物足りなさを感じていた。今は、自分たちで選んだ会社の数字と組織に毎月向き合い続ける。うまくいかないことも当然あるが、それも含めて他人事が1つもない。
この手触りは、アドバイザリーでは得られなかったものである。 【次ページ】コンサルで鍛える力、事業会社でしか得にくい経験
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