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- 2025/06/27 掲載
僕らの「1円玉廃止」論争は終わりました──数字と実例で判明した“まさかの結末”
連載:米国の動向から読み解くビジネス羅針盤
米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の基礎を学ぶ。現在、米国の経済を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』などの紙媒体に発表する一方、『Japan In-Depth』や『ZUU Online』など多チャンネルで配信されるウェブメディアにも寄稿する。海外大物の長時間インタビューも手掛けており、金融・マクロ経済・エネルギー・企業分析などの記事執筆と翻訳が得意分野。国際政治をはじめ、子育て・教育・司法・犯罪など社会の分析も幅広く提供する。「時代の流れを一歩先取りする分析」を心掛ける。
【クイズ】製造コストはどちらが高い?
さて、ここでいきなりクイズ。米国で流通する1セント硬貨(約1.45円)と1ドル紙幣(約145円)の製造コストは、どちらが高いだろうか?
答えは、意外なことに、1ドル紙幣と比べて価値が1/100にすぎない「1セント硬貨」である。
米国の中央銀行である米連邦準備制度理事会(FRB)のホームページによれば、1ドル紙幣を1枚製造するには、3.2セント(約4.7円)のコストがかかる。ちなみに、100ドル紙幣は1枚製造するのに9.4セントが必要。
一方、現行の1セント硬貨の原料である亜鉛金属板は価格高騰が続き、製造コストはこの10年間で1.3セント(約1.9円)から3.69セント(約5.3円)に上昇したという。1ドル紙幣と比較して、1セント硬貨の「コスパ」が極めて悪いことがわかる。
日本の1円硬貨の製造コストについては後述するが、下図を見ればひと目で分かる通り、米国の1セント硬貨と5セント硬貨は“額面より製造コストが高い”という逆転現象が起きている。

コスパ「最悪」……小売現場の“レジ速度”にも影響
「道端に落ちていても誰も拾わない」──そんな扱いを受ける1セント硬貨は、現金取引でもほとんど使われず、引き出しの奥で眠る“非合理の象徴”と化している。それだけではない。小売現場では、精算時に小銭を数える手間が無視できないコストとなっており、2006年に全米コンビニエンスストア協会(NACS)が委託した研究では、1セント硬貨を使わない方がレジ処理が2~2.5秒も早くなると試算。コンビニのような薄利多売の業態においては、「実質上、秒単位の効率化が最も重要な商品」(NACS)なのであり、1セント硬貨廃止の合理性はここにある。
そのため、米造幣局も、原材料の円板が尽き次第、1セント硬貨の製造をやめるのは理にかなっているように見える。だが、1セント硬貨の製造が停止されても市場には1140億枚以上が流通すると推測されており、すぐに“姿を消す”わけではない。家庭に眠る小銭がしぶとく残り続ける……。それもまた、硬貨制度のリアルだ。
ここで浮かび上がるのは、「小銭をなくせばキャッシュレス社会は本当に進むのか?」という根源的な問いだ。非常に興味深い結果が出たので解説しよう。

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