- 2026/08/18 06:30 掲載
日本に残された時間は短い…オランダで痛感、ステーブルコインで迫る「銀行の土管化」(2/3)
AIが支払う時代、銀行の主戦場は「権限管理」へ
AIエージェントは、今年のMoney20/20 Europeを象徴するテーマの1つだった。これまで金融機関におけるAI活用は、人間の業務を支援する用途が中心だった。しかし、今年の議論では、AIは単なる補助ツールではなく、取引を起動する主体として語られていた。
AIが商品を選び、顧客の承認を得て支払いまで実行する。これは単なるECのUI改善ではない。決済の起点が、人間のクリックからAIの判断と指示に移ることを意味する。実際、欧州では仏ワールドライン(Worldline)、蘭ING、米マスターカードが、Money20/20 Europeに合わせてエージェント型決済の本番環境での実行を発表している。これは未来の構想ではなく、既存の認証、認可、決済ネットワーク上で実装が始まっていることを示す。
日本でも、エージェンティックコマースへの関心は高まっている。Adyen Index Japan Retail 2026によれば、日本の小売事業者の97%が今後2年間でエージェンティックコマースへの投資を予定している。一方で、消費者の62%はAIアシスタントに購入を委ねることに抵抗があると回答している。
この数字が示すのは、単に日本人が慎重だという話ではない。普及のボトルネックは、便利さではなく信頼性なのである。誰がAIに権限を与えたのか。どの金額まで自動決済を認めるのか。誤購入や不正利用は補償されるのか。
銀行に求められるのは、AIを使った便利なアプリを作ることだけではない。AIが使える金融APIを、安全に、制御可能な形で提供することである。より踏み込めば、銀行は「支払いの実行者」から「AIに金融行為を許可する認可・認証レイヤー」へと役割を拡張しなければならない。
B2B決済インフラとしてのステーブルコイン
もう1つ大きなテーマだったのがステーブルコインである。Money20/20 Europeで語られていたのは、投機ではなく実需だ。給与支払い、B2B決済、国際送金、貿易決済、トレジャリー管理。ステーブルコインは、企業の資金移動インフラとして議論され始めていた。特に印象的だったのは、価値が「送金が速い」ことだけではない点である。新興国では、自国通貨の価値下落により、給与を受け取っても購買力が短期間で目減りすることがある。その場合、米ドル建てステーブルコインで給与の一部を受け取れることは、生活防衛の手段になる。
B2B決済でも同じことが起きる。国境を越えた送金では、着金額が読みづらく、時間もコストもかかる。ステーブルコインは、この非効率なプロセスを、より直接的で予測可能なものにする可能性がある。
ただし、ステーブルコインを発行すればすぐにB2B決済に使われるわけではない。法人決済で使うには、ウォレット、カストディ、会計処理、税務、社内承認、AML、トレジャリー管理が必要になる。競争は発行体だけではなく、周辺の実務インフラ全体に広がる。
日本でも、メガバンクやProgmatによるステーブルコイン実証、GMOあおぞらネット銀行などによるトークン化預金の銀行間決済実証が進んでいる。JPYCのような円建てステーブルコインの動きも出てきた。
しかし、日本の金融機関が安心していてよいわけではない。法人顧客の海外送金やB2B決済が、海外のステーブルコイン基盤や海外決済プラットフォームに流れれば、銀行は手数料や為替関連収益の一部だけでなく、顧客の資金移動データや取引接点まで外部に握られる可能性がある。
銀行がこの領域に関わらなければ、ステーブルコインは単なる新しい決済手段ではなく、法人取引における銀行の「土管化」(顧客接点や付加価値を失い、単なる資金移動の経路になること)を進めるインフラになり得る。 【次ページ】レガシー・自前主義・縦割り…日本の銀行を阻む「実装の壁」
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