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  • 2025/12/26 掲載

かんぽ生命のコンタクトセンターが激変、クラウドと生成AIで応対後処理「5分→1分半」

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かんぽ生命は、2026年1月から次世代コンタクトセンターの稼働を本格化させる。1800万人の顧客対応を支える基盤について、既存のオンプレミス環境から、AI活用を前提としたフルクラウドへと大きく転換。応対品質と生産性の抜本的な向上を図るこの改革は、どのように進められてきたのか。その背景と取り組みの全容について、プロジェクトを率いたキーパーソンに話を聞いた。
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かんぽ生命はどのようにコンタクトセンターを改革しているのか?

莫大な問い合わせ件数…マニュアル「なんと6000ページ」

 かんぽ生命のコンタクトセンターは、全国13拠点、約1000席に及ぶ大規模体制である。コールセンターへの問い合わせは年間74万件、自社の営業社員や、郵便局からの問い合わせに対応するヘルプデスクには年間189万件が寄せられる。この膨大な問い合わせに応えながら、1人ひとりにきめ細やかなサービスを提供することが求められている。

 しかし現場では、ベテラン依存による属人化が進み、担当者によって応対品質や生産性にばらつきが生じていた。背景には、マニュアルが6000ページにも及び、必要な情報をすぐに探し出すことが難しいという構造的な問題がある。結果として、ナレッジが暗黙知として個人に蓄積され、長年在籍する「詳しい人」に頼らざるを得ない状況が常態化していた。

 このままでは、同社が中期経営計画で掲げた「CX(顧客体験)向上につながる質と量を伴ったアフターフォローの充実」を実現することが難しい。そのため、センター全体の生産性と応対品質を底上げする仕組みづくりが急務となっていた。

 さらに保険業界全体で人材確保が一段と難しくなる中、限られた人的リソースで高度な業務に対応できる体制への転換も求められている。こうした課題を背景に、次世代コンタクトセンターの構築へと踏み切ったのだった。

ぶち当たった「オンプレの限界」

 次世代コンタクトセンターの刷新を後押しした背景には、既存のオンプレミスシステムの限界もあった。業務ごとに個別構築されたシステムは機能が複雑化し、サイロ化によって情報の一元管理が難しい状況にあった。

 商品改定や事務手続きの変更に伴う年2回の改修に加えて、5年に1度のシステム更改も必要で、メンテナンス負荷は大きい。新機能の追加にも1年以上を要する場合があり、AIなどの先端技術を迅速に取り込むことが難しい状態だった。このような環境下ではお客さまニーズと業界の変化に即応できず、事業成長の妨げとなりかねない。

 そこで同社は、「人を中心に、デジタルとAIが強力に支援するセンター」の実現を掲げた。かんぽ生命 カスタマーサービス推進部 部長の田代 康基氏は次のように語る。

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かんぽ生命
カスタマーサービス推進部 部長
田代 康基氏

「これまではベテランの頑張りに依存し、生産性も頭打ちでしたが、AI活用を前提に、生産性の高い先進的なセンターを目指しています。従来の体制・状況を『コンタクトセンター1.0』とするなら、目指すべきは2.0を飛び越え3.0への移行です」

 1.0は属人化した旧来型センター、2.0はナレッジ整備やオムニチャネル化が進んだ一般的なセンター、3.0はAIを前提に業務プロセスを再設計する次世代型センターと位置付ける。

 誰が応対しても一定の品質を維持できる環境を整えることで、CXとEX(従業員体験)の双方を向上させていく考えである。

生成AIで激変、応対後の処理「5分→1分半」

 次世代コンタクトセンターの柱となる取り組みが、生成AIによる応対後処理(ACW:After Call Work)の自動化である。担当者は通話終了後に会話内容を自分の頭で考え、文章をまとめ、さらに生命保険会社特有の分類作業を行っているが、すべて手作業であるため粒度や精度にばらつきが生じやすい。

 生成AIを導入することで、通話内容はクリック1つで自動要約され、誰が対応しても同じ粒度でまとめられるようになる。分類もAIが自動判定するため、担当者は誤りがないかを最終確認するだけで良い。

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生成AIによってACWの効率化に成功

 PoCでは大きな効果が確認された。田代氏は「コールセンターでは後処理に5分超かかっていましたが、1分半に短縮されました。ヘルプデスクでも2分が1分10秒になるなど、大幅な削減が確認できています」と語る。

 年間で見れば相当な工数削減効果が期待でき、応対量が増えても人員を増やさずに品質を維持できる見込みである。

 一方で、生成AIの要約に“完璧さ”を求めるあまり、担当者が要約の再出力と手修正を繰り返し、かえって時間がかかるケースがあった。このため要約に記載すべき事項の基準を定め、基準に沿う出力となるようプロンプトを考案、また「明確な誤り(ハルシネーション)がなければ修正しない」という運用ルールを定めた。AI活用を前提としたマインドチェンジの必要性も明らかになったようだ。

 かんぽ生命が運用ルールを定めたように、生成AI活用においては何かと課題が浮き彫りになる。事実、多くの企業が生成AI活用に苦戦している。こうした中、今回のプロジェクトの伴奏支援を行った日本アイ・ビー・エム(日本IBM) コンサルティング事業本部 保険・郵政グループサービス 理事の松吉 達郎氏はこう強調する。

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日本アイ・ビー・エム(日本IBM)
コンサルティング事業本部 保険・郵政グループサービス 理事
松吉 達郎氏

「IBMでも自社を最初のクライアント=『クライアントゼロ』として全社的なAI活用を進めていますが、AI活用の成功の鍵は『プロセスの見直し』です。既存プロセスをそのままAI化するだけでは効果は限定的です。まずプロセスの抜本的見直しを行った上でAIを適用することで、真の効果を実現できると考えています」

「SalesforceとAWS」でフルクラウドに大転換

 生成AIによる応対後処理の自動化を支える基盤として、同社が既存のオンプレミス環境に代えて採用したのが、クラウドベースのコンタクトセンターサービスであるセールスフォース(Salesforce)のSalesforce Voiceとアマゾン ウェブ サービス(AWS)のAmazon Connectである。

「Salesforce Voiceは、電話やチャットなど複数チャネルの応対をSalesforceのプラットフォーム上で一元管理できるオムニチャネルのコンタクトセンター機能です。通話の文字起こしやCRM情報と連携した応対支援が可能となります。一方、Amazon Connectは、クラウドネイティブな音声対応プラットフォームで、スケーラブルな通話取り扱いや、録音・音声認識といった音声基盤機能を提供しています」(松吉氏)

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Salesforce VoiceとAmazon Connectを活用したシステム構成図

 これらを導入することで、自動文字起こしや要約機能を活用できるほか、電話・メール・チャットなど複数チャネルの対応履歴をSalesforce上で一元管理し、社内で共有できる環境が整う。つまり、「オムニチャネル管理と高性能な音声基盤を統合した次世代センターを実現できる」(松吉氏)ということだ。

 さらにフルクラウド化により、SaaSサービスのアップデートをそのまま享受でき、最新機能を迅速に取り込めるようになる。田代氏は「従来のように大規模改修のたびに負荷がかかることもなく、開発工数をかけて機能追加を行う必要もありません」と語る。

 一方、クラウド化にあたっては検討すべき点も多い。ここで重要になるのが「fit to standard(標準仕様に合わせる)」という考え方だ。これは、SaaSが想定する標準的な機能や操作フローに、自社業務をできる限り合わせることを意味する。

 SaaSサービスは継続的に機能改善やセキュリティ更新を行うプラットフォームであるため、標準機能に沿うことでその恩恵を最大化できる。逆に言えば、カスタマイズを重ねるとSaaSの恩恵を受けにくくなり、運用コストや保守負担が逆に増えるリスクがあるのだ。

 また、オンプレ側に残る顧客契約情報データとの安全な接続や、頻繁に行われるSaaSのアップデートに対する検証など、フルクラウド化には技術面での留意事項も多い。

 今回のプロジェクトで最も苦労した中の一つとして、「既存の契約情報やマスター系データがオンプレミスに残るため、オンプレミスとの連携をゼロにできない」点を挙げていた。こうした課題に1つずつ対応しながら、次世代コンタクトセンターを支えるクラウド基盤の整備が行われている。

日本IBMが支えた「フルクラウド化」

 次世代コンタクトセンターのシステム構築にあたり、かんぽ生命はIT子会社のかんぽシステムソリューションズが中心となって、日本IBMの支援を受けながらプロジェクトを推進。同社は基幹システムに精通し、Salesforceのパートナー企業でもある。松吉氏は支援した役割についてこう語る。

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「日本IBMでは主にSalesforce Voice とAmazon Connectの実装を中心に支援しました。また他の複数のツールを導入するにあたり、全体のアーキテクチャー設計や各機能の検証なども担当しています」

 日本IBMの支援について田代氏は「フルクラウド化にあたり、業務フローをどこまで見直すべきか、クラウド側に寄せるべきかが大きな悩みでした。日本IBMから多方面でご助言をいただき、大変助かりました」と振り返る。

 特に、日本IBMが今回のプロジェクトと同様の案件を他社でも数多く支援している実績や知見が大きな支えになったという。その強みについて、松吉氏は次のように語る。

「IBMは世界最大クラスのSalesforce のユーザーです。その『クライアントゼロ』として蓄積されたSalesforceに関するノウハウをお客さまに提供し、お客さまのビジネスに貢献しています」

 既存システムを大きく刷新し、フルクラウドへ移行することはメリットが大きい一方、技術面や運用面に不安を抱える企業も少なくない。最新のITやデジタルに精通し、豊富な実績を持つパートナーが伴走することは、こうした企業にとって大きな支えとなる。

かんぽ生命が見据える「次世代センターへの道筋」

 次世代コンタクトセンターは、2026年1月にヘルプデスクからサービスインし、3月にはコールセンターが本格稼働する予定である。生成AIによる応対後処理の自動化を起点に、今後もAI活用の取り組みを広げていく方針だ。

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次世代システムを稼働させるまでのスケジュール

 その1つが、応対時のコミュニケーター支援である。日々の応対で蓄積されるナレッジをSalesforceに登録し社内共有する仕組みを整えるほか、将来的には膨大なマニュアルや規約を生成AIが読める形にして、FAQ作成やRAG(検索拡張生成)に活用する。必要な情報にすばやくアクセスできる環境を整えることで、センター全体の応対品質を底上げしていく。

 さらにAI活用が定着すれば、将来的には無人応対の領域も広がる。コンタクトセンター業界では人材確保が難しくなる中でチャットボットやAI活用などの自動応答の検討が進んでおり、AIを労働力として活用する動きは今後さらに加速する可能性がある。

 次世代コンタクトセンターの長期構想について、田代氏は次のように語る。

「日々お客さまと接する郵便局や直営支店ともデータ連携を深め、お客さまの情報やナレッジを共有することで、全社で統一されたCXを実現したいと考えています。それによって、お客さまや従業員の幸せにつながり、会社が成長していければと考えています」(田代氏)

 かんぽ生命は、「コールセンター3.0」の実現に向けて確かな一歩を踏み出している。

IBMとSalesforce社のパートナーシップ
https://www.ibm.com/jp-ja/salesforce

AWSコンサルティング・サービス
https://www.ibm.com/jp-ja/consulting/aws

AIでカスタマー・サービスを変革
https://www.ibm.com/jp-ja/consulting/customer-service

IBM watsonx Orchestrate - カスタマー・サービスのためのAIエージェント
https://www.ibm.com/jp-ja/products/watsonx-orchestrate/ai-agent-for-customer-service

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