このままではジリ貧? 製造の「現場が使える」業務アプリをノーコードで作れ
効率化の余地が大きい製造現場の情報共有
特に改善の余地があるのは情報管理に関する業務だ。この業務は生産数や在庫数のチェック、設備点検、ヒヤリハット報告など多岐にわたるが、紙で管理していると紛失や汚損の恐れがある。何よりも管理者が重要な報告を確認するまで時間を要してしまうのも問題だ。また、集計や活用のために情報をデジタル化するにはPCへの転記が必要になる。
もっとも、紙の管理から脱却するためにExcelなどのツールをすでに導入している企業も多いが、よくありがちなのが、PCがある事務所へわざわざ戻って入力作業を行っているケースだ。時間のムダが生じるだけでなく、入力が後回しになって情報の精度が悪くなってしまうこともある。こうした状況でも日々の業務は回っているため、不便なことが当たり前になっていたりする。
こうした業務の効率化に有効なのがモバイルアプリだ。今後はスマートフォンをフル活用するデジタルネイティブ世代が現場の中心になっていく。年配のベテランでも日常生活では問題なくスマートフォン等を利用している人は多い。つまり、多くの人にとって馴染みがあるスマートフォンで利用できる業務アプリさえ提供できれば、製造現場のIT活用はさらに進んでいくはずである。
しかし、日々変わりゆく自社業務にピタリとはまるアプリを用意するのは、実はかなり難しい。
多種多様な現場に合わせた使いやすい業務アプリを作るためのポイント
そこで注目されているのが、プログラミングの経験がなくても業務アプリを容易に開発できるノーコードツールだ。ノーコードのモバイルアプリ作成ツール「Platio(プラティオ)」を手がけるアステリアにてプロダクトマネージャーを務める大野晶子氏は、製造現場の業務アプリ活用において気をつけるべきポイントとして、以下の3点を挙げる。
1つ目は「現場主導」だ。
「机上で仕様を決めてしまうと、現場では使い勝手の悪いアプリができてしまいかねません。現場にとって使いやすいアプリを作るためにも、現場をよく把握しており、集まった情報を活用する立場でもある管理者の方など現場の方自ら業務アプリを作っていただくのもおすすめです」(大野氏)
2つ目のポイントには「スモールスタート」を挙げる。
「始めに成功体験を得ることができれば、モバイルアプリの利用が定着し、他部門にも広がりやすくなります。それは小さな成功であっても構いません。利用者や利用機会が多く調整が難航しそうな業務のアプリ化から始めるよりは、まずはヒヤリハット報告のような業務からアプリ化したほうがよいでしょう。
たとえば点検系の業務アプリであれば、スマートフォンをタップするだけで報告できるようにしたり、故障箇所の写真や動画を撮影してそのまま添付できるようにしたりすれば、デジカメで撮影して添付、印刷していた手間が大幅に削減され、アプリ導入の価値を感じられるはずです」(大野氏)
最後に大野氏が挙げるポイントが「アジャイル」開発だ。
「現場は常に条件が変わっていくため、その変化へ柔軟に対応できることが求められます。業務アプリの開発も、一度開発したアプリの修正・変更も迅速に行えるツールが望ましいでしょう」(大野氏)
開発画面、作成アプリ双方に込めたUIのこだわり
特徴の1つが豊富なテンプレートである。現時点では100種類以上のテンプレートが用意されており、数あるノーコードツールの中でも突出している。ユーザーはこの豊富なテンプレートの中から適宜選択して、自分たちにとって使いやすい業務アプリを作成可能だ。
「業務アプリ開発における最初の障壁を取り払うにはテンプレートが役立ちます。テンプレートの中から自社の業務に近いものを選び、それをカスタマイズして実際の業務に合うように調整する始め方がよいでしょう。テンプレートはお客さまの声をもとに改善しており、新たなニーズに対応すべく定期的に追加しています。最近では、社用車を運転する際のアルコールチェックが義務化されるのに合わせて、アルコールチェックのテンプレートを公開しました」(大野氏)
また、開発ツール自体の使い勝手にもこだわりがあると大野氏は説明する。Webブラウザ上の開発画面では、マウス操作を中心にパーツを選んだりドラッグ&ドロップで並べ変えたりしてアプリを作成できる。細かな機能設定もUIに従って項目を選んでいけば完了するようになっている。作成中にはモバイルデバイス上の画面イメージも表示されるため、完成したアプリを実際に動かした後にギャップが生じてしまうリスクを低減できる。
完成したアプリを使う側の観点からも、シンプルなUIによる現場へのメリットは大きい。項目は上から下へ並んでおり、それをタップしていくだけなので、現場でも直感的に使える。UIに凝りすぎると操作がわかりにくくなり問い合わせも増えるが、Platioの導入企業からは「一度説明すれば大半の利用者には理解してもらえる」「Platioに関しては質問が来ない」といった声が寄せられているという。
製造現場ならではの環境に適した豊富な機能
管理者にとって便利なのが検知機能だ。事前に設定しておいた条件に応じて自動的にプッシュ通知を送れる機能で、現場の状況を確実に把握して、迅速に対応できるようになる。
「たとえば、冷蔵倉庫の温度が基準より上回っている報告が登録された場合、検知機能を使えばいち早く気づいて対応に当たれます。また、ヒヤリハット報告でステータスが緊急であると登録されたらプッシュ通知を送るというような使い方も有効でしょう」(大野氏)
なお、管理者はアプリだけでなくWebブラウザからもデータにアクセスできるため、事務所ではデータをダウンロードしてExcel上で集計や分析を行い、巡回中にはアプリで緊急の報告を受けて状況を確認したりする、といった使い分けが可能だ。
多彩なデータ入力に対応している点は、現場と管理者の双方にとってメリットだろう。QRコードやバーコードの読み取り、写真または手書き画像、動画、位置情報などにも対応しており、入力の効率化や正確な情報連携が可能だ。
「たとえば位置情報機能は、落とし物の場所の報告や、住所のない農耕地へ製品を納品した記録に使えます。災害現場の記録に利用し、国へ提出する報告書の作成負担を軽減した自治体もありました」(大野氏)
最短1時間でアプリ開発した事例も
とあるBtoB分野のカスタム機器を提供する企業では、全社一丸でDXに取り組むにあたりPlatioを導入した。若手社員を中心に「火元管理アプリ」や「消耗品管理アプリ」などのアプリを3時間ほどで作成し、2カ月間で約20ものアプリ案が誕生するなど、現場を中心とした全社DXが加速している。
「業務のアプリ化を通じて現場を動かす楽しさを感じるようになり、そこからアプリ作りが広がった事例です」と大野氏は説明する。
もちろん、製造業ではなくても現場での業務がある企業であればPlatioは高い親和性を発揮する。産業廃棄物の中間処理を行っている某企業は、「工場日常点検」や「暑さ指数管理」など、紙で管理していた報告のアプリ化にPlatioを使用した。アプリは最短1時間で作成でき、年間400時間分の業務削減効果を得られ、さらにISOや行政の許認可に必要な記録も効率的に行えるようになった。
「100項目以上を毎日チェックして紙に記録していたそうです。アプリ化することでチェック漏れや紙の汚損を防げますし、記録した数値を使った計算もアプリなら自動で行えます。ISOの審査などで必要なときにもデータを検索してすぐに取り出せるのも、デジタル化の利点です」(大野氏)
鉄や非鉄金属のリサイクル、中古パーツのリユースを手がけている企業では、これまで使っていた紙ベースの報告書を、Platioによってアプリへと移行した。ヒヤリハット報告や業務改善提案のアプリはわずか3時間で作成したという。その場で手軽に報告できるため、現場の情報を確実に収集できるようになり、報告件数が倍増した。報告から情報管理までのプロセスが効率化された結果、管理者の業務負担を毎月20時間削減することに成功している。
「報告が簡単になれば、それだけ情報が共有しやすくなります。情報量が増えれば、皆が同じように危険だと思っている場所を可視化し、優先して改善できるようになります」(大野氏)
ITの価値が届きにくかった現場業務がモバイルアプリで変わる
「細かい部分からモバイルアプリ化し、パズルのようにつないでいくアプローチなら、現場のIT活用は容易になるのではないでしょうか。Platioならスモールスタートかつ低コストでツールを利用できますので、まずは1つのピースを置いてそこからデジタル化を広げていきましょう」(大野氏)
面倒な作業を無くすことから始まり、業務改善の手応えが得られれば、現場担当者による自発的な業務改善活動へとつながることも期待できる。ノーコードのモバイルアプリ作成ツールは、現場の強さを決して損なうことなく、企業の価値をより高めていけるツールだと言えるだろう。