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- 2025/06/04 掲載
ゴールドマン・サックスら「もう1人の社員」1万人配置、銀行のAIエージェント競争
バークリー音大提携校で2年間ジャズ/音楽理論を学ぶ。その後、通訳・翻訳者を経て24歳で大学入学。学部では国際関係、修士では英大学院で経済・政治・哲学を専攻。国内コンサルティング会社、シンガポールの日系通信社を経てLivit参画。興味分野は、メディアテクノロジーの進化と社会変化。2014〜15年頃テックメディアの立ち上げにあたり、ドローンの可能性を模索。ドローンレース・ドバイ世界大会に選手として出場。現在、音楽制作ソフト、3Dソフト、ゲームエンジンを活用した「リアルタイム・プロダクション」の実験的取り組みでVRコンテンツを制作、英語圏の視聴者向けに配信。YouTubeではVR動画単体で再生150万回以上を達成。最近購入したSony a7s3を活用した映像制作も実施中。
http://livit.media/

米金融業界で加速するAI活用の動き
米国の金融業界では1年ほど前に企業の投資が拡大し、その投資の成果がプロダクトとして実を結びつつある。かなり早い段階で動いたのは、モルガン・スタンレーだ。2023年3月にOpenAIと提携し、9月には社内向けのチャットボット「AI @ Morgan Stanley Assistant」を導入。ファイナンシャルアドバイザーチームの98%が活用したと報告している。
さらに2024年6月には、クライアントミーティングのノート作成や要約、初稿メール作成を支援する「AI @ Morgan Stanley Debrief」を発表。同行ウェルスマネジメント部門のマクミラン全社AI責任者は「AIは、取引執行やCRM、レポーティング、リスク分析など、多岐にわたるアプリケーションと社員を繋ぐ効率化レイヤーとなる。この技術の真の力を引き出すための取り組みは始まったばかりだ」と語っていた。
JPモルガン・チェースも生成AIのアーリーアダプターの1つだ。
2023年6月には、最高データ&アナリティクス責任者にテレサ・ハイツェンレザー氏を任命。2024年には、AI機能を集約した「LLM Suite」を14万人の従業員に展開し、財務チーム向けの生成AI「ChatCFO」も導入した。ジェイミー・ダイモンCEOは、AIの活用を加速させるためのデータとインフラの近代化を重視。2024年末までにデータの75%、アプリケーションの70%をクラウドに移行する計画を打ち出していた。
この取り組みは、サードパーティ評価にも顕著にあらわれている。
金融機関のAI活用を評価するEvident AI Index(2024年10月時点)では、JPモルガン・チェースが業界トップの座を獲得。同行のAI人材は、上位7行の合計を上回る規模を誇り、ROI(投資収益率)の報告も行う数少ない金融機関の1つとして評価された。2025年3月19日時点の最新版でもJPモルガンがトップの座を維持している。

Evidentの調査(2024年10月)では、金融業界のAI人材は、前年比17%増と急速に拡大したことも判明。上位50行の中で、JPモルガン、キャピタル・ワン、ウェルズ・ファーゴの米大手3行だけで全体の17.5%を占めていた。Evidentのムサビザデ共同CEOは「上位行の特徴は、506年前から組織再編、採用、研究所の設立などの準備を始めていたこと。ジェイミー・ダイモン氏もそうした準備を進めてきた」と指摘している。
しかし、ここ数カ月、モルガン・スタンレーやJPモルガン以外の銀行の動きが活発化しており、特にAIエージェントを中心に業界全体のAI普及速度は加速の様相を呈している。
OpenAIと提携、自社開発AIプラットフォームを強化
直近の動きとして注目されているのがニューヨーク拠点の銀行BNYの動きだ。BNYは2025年2月、OpenAIと複数年にわたる提携契約を締結。同行が全従業員向けに提供する生成AIツール「Eliza」の機能強化を図る。この提携により、OpenAIのAPIとChatGPT Enterpriseへのアクセスが可能となり、推論エンジンや回答の微調整など、より高度な機能をElizaに実装する計画だ。
Elizaは2023年にBNYが独自に開発を開始した、約13のAIエージェントが相互に「交渉」し、マーケティングセグメントに応じた最適な商品推奨を実現するAIプラットフォーム。クライアントエージェントは顧客情報を、プロダクトエージェントは銀行の商品情報(流動性、担保、支払い、財務など)を管理。これにより営業担当者は、従来10人の製品管理者や顧客担当者、セグメント担当者に確認していた内容を、エージェントを通じて一括して把握できるようになった。
技術面では、マイクロソフトのAutogenをベースに採用。オープンソースの特性を活かしながら、エージェントの応答に堅固なガードレールを設定し、より決定論的な動作を実現。また、LangChainを用いたシステムアーキテクチャの構築も進めているという。
インフラ面では、2024年3月に米大手銀行として初めてNVIDIA DGX SuperPODを導入。複数のDGXシステムとInfiniBandネットワークを備えた同システムにより、これまでにない処理性能が実現された。BNYはこのスーパーコンピューターを活用し、NVIDIA AI Enterprise Softwareを用いたAIアプリケーションの構築・展開とAIインフラの管理を進めていた。
2024年、BNYは全社的な取り組みの中で600以上のAI活用機会を特定。その多くがすでにNVIDIA NeMo、NVIDIA Triton Inference Server、NVIDIA Base Commandなどのソフトウェアを用いて開発段階にあったとされる。具体的なユースケースとして、預金予測、支払い自動化、取引分析の予測、日中現金残高の予測などが含まれる。
同行は現在、Elizaの次期バージョン(2.0)の開発も進めている。リスクガードレール、説明可能性、透明性、システム間連携などの整備を通じて、より高度な自律性を持つエージェントシステムの実現を目指すという。AIの活用により、顧客資産の管理・移動・保護をより効率的に行える体制の構築を加速させる構えだ。 【次ページ】ゴールドマン・サックスも「もう1人の社員」を展開
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