大注目「AIエージェント」事例3選、日本の金融機関でも大成功した「衝撃の成果」とは
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AIエージェント導入の「3つの壁」
とはいえ、導入を検討する企業にとって、その実装は決して容易なものではない。日本アイ・ビー・エム(IBM) コンサルティング事業本部 AIエージェント事業 事業部長の鳥井 卓氏は「AIエージェントの導入には、乗り越えねばならない典型的な“3つの壁”が存在します」と強調する。
第1の壁は「システムとデータの壁」だ。AIエージェントはタスク実行のために業務システムとの連携を必要とするが、APIが整備されていない、データが構造化されていないといった理由で、連携が難航するケースは少なくない。紙中心の業務が残る部門にとっては、そもそも前提条件が整っていないケースもある。
第2の壁は「業務プロセスの壁」である。現状の業務をそのままAIエージェントに代替させようとする考え方では効果を最大化することができない。「この業務はAIに任せることでどんな価値を生めるのか」をゼロベースで問い直す視点が欠かせない。
そして第3の壁が「完全性の担保への懸念」だ。生成AIは毎回の出力にバラつきがあるため、「業務に耐え得るのか」「品質を保証できるのか」という疑念を払拭できず、導入に踏み切れない企業も多いという。
「3つの壁」を乗り越えるには?
「IBMでは『watsonx』というプラットフォームを中心に、独自に開発した高い実用性を誇るマルチAIエージェント・フレームワークはもちろんのこと、他社の最新フレームワークもすぐに活用できる柔軟性があります。新たな技術が登場した際、それをすぐに業務に取り込める環境が、サービスとして整っています。この点は大きな優位性だと自負しております」(鳥井氏)
さらに重要なのが、AIエージェントを業務に実装するためのナレッジと組織体制だ。IBMには世界共通のアセットをベースにしたコンサルティングを推進しており、全社規模で38の専門領域に分かれたソリューションの責任者が、それぞれの領域におけるAIエージェント活用のナレッジとユースケースを体系化している。
この38領域のソリューションの責任者は日本にも存在しており、世界中の専門家と連携しながらナレッジの更新と共有を繰り返している。ソリューション責任者同士によるナレッジシェアも定期的に実施されており、技術や業務の進化を素早く反映したコンサルティングが可能になっている。
また、100種類を超えるAIエージェント型ソフトウェア・ソリューション「IBM Consulting Advantage for Agentic Applications」が準備されていることも大きな特長だ。銀行・保険・製造といった業界、および、営業、カスタマーサービス、経理財務、人事といった業務ごとに提供されているため、AIエージェントを活用した業務変革に今すぐ取り組むことができ、ROIの最大化を実現することができる。
日本IBM コンサルティング事業本部 コンサルタント 松金 俊介氏は、同社の強みについて次のように強調する。

コンサルティング事業本部 コンサルタント
松金 俊介氏
「AIエージェントは単なる技術ではなく、業務に深く踏み込んでいくソリューションです。そのため、各業務領域での具体的な知見や、実装に向けたナレッジの蓄積が欠かせません。先述したように、IBMでは世界中のナレッジをリアルタイムで共有する仕組みがあるので、常に最新の知見を取り入れながら、現実的で再現性のある導入支援ができるのです」
【事例1】金融機関で「作業時間95%減」の中身
この銀行では、IBMが開発した生成AIアセットを活用しつつ、融資稟議書作成アプリケーションを短期間で共同開発。2024年4月から一部店舗で本番利用を開始した。
銀行では従来、融資審査を行う際に、融資対象となる企業の財務状況や信用リスクを分析し、適切なリスクヘッジ手段を含む「融資稟議書」を作成する必要がある。これまで2時間ほどを要していたこの作業は、マルチAIエージェントの導入により、わずか数分で完了できるようになった。
「作業時間の実に95%を削減することに成功し、しかも現役行員が作成した稟議書よりも、AIエージェントによって自動生成された稟議書の方が精度・内容ともに明らかに優れているという結果が出ています」(鳥井氏)
この成果の背景には、銀行における優秀な人材のノウハウを集約し、形式知としてAIに落とし込んだ取り組みがある。またIBMがこれまで支援してきた多くの銀行での知見が反映されている点も見逃せない。この上、複数のAIエージェントが役割ごとに連携し、タスクを分担・同期的に処理するマルチエージェント構成を採用したことで、より高度な自動化と品質を実現できたのだ。
「この銀行では、週あたり4~8時間ほど発生していた業務が一気に効率化され、1年以内で投資回収できる見込みです。ROIの観点から見ても非常に高い価値を発揮しているのも大きな効果だと言えます」(松金氏)
【事例2】デジマ領域で導入、メルマガCV率10倍超に
「複数回の打ち合わせを経て、当社から『業務効率化にとどまらず、業務そのものの価値を高める方向に踏み込んでみてはどうか』という提案を行いました。これにより、生成AIの役割が単なるアシスタントではなく、“業務共創パートナー”として拡張されることになったのです」(鳥井氏)
具体的には、顧客情報データベースからのセグメント化(趣味嗜好など)を通じて個別最適化されたペルソナを設計。それぞれに最適なメルマガ内容を、AIが自動で作成・配信するというフルオートメーションの仕組みが構築された。
「マイクロ・セグメンテーションに基づいた施策は、人間だけではとても網羅できない多様なニーズに対応するものです」(松金氏)
その結果、メルマガからの直接コンバージョン(CV)率は、従来の10倍以上にまで跳ね上がった。従来は数人の担当者が1つひとつ内容を練っていたが、AIエージェントによって大幅な数と精度の向上を実現させたのだ。
「人間が考えられるキャンペーンアイデアの数には限界がありますが、AIなら膨大なバリエーションを生成できます。それを基に改善サイクルを回せるようになったことで、当初思い描いていた“顧客に寄り添ったメルマガ”の実現に近づけることができました」
今回の取り組みは、業務ロジックの構築を2カ月程度で完了させ、その後4カ月間にわたってプレ配信による検証を繰り返し、効果が裏付けられたことで正式導入に踏み切った。結果として、人間のクリエイティビティが最大限に発揮される環境が整い、業務の本質的な価値を引き出す仕組みが構築されたのである。
【事例3】人事のBPOを自動化、「マニュアルのメンテ」も

この取り組みの背景には、従来人件費の安い海外拠点に委託していた定型業務を、AIエージェントに置き換えるというBPOの再構築構想がある。中でも大きな特徴となっているのが、取り扱う業務の“少量多品種”だ。年に1、2回しか発生しないような業務が膨大に存在するため、個別にAIにノウハウを実装する従来型のアプローチではコストが見合わないというのが、他のケースとは大きく異なっていた。
そこでIBMは、計画策定・計画管理・実行という人間さながらのマネジメント体制を体現したマルチ・エージェント構成を採用した。これは、AIエージェントが標準作業手順書(マニュアル)を読み込み、そこからタスク遂行方法を自ら判断してオペレーション・エージェントに指示を出すという仕組みである。
「人間向けに書かれたマニュアルを読み解き、必要なツールや連絡先を特定した上で業務を遂行する。これは一般的なAIエージェントとは異なる高度な判断能力が求められる領域です」(松金氏)
実際の検証では、業務遂行中に内容確認などで発生する“関連部署への問い合わせ”をAIエージェントが代行したことで、大きな効果を得られた。従来は返信を待つ必要があるなど、やり取りの待ち時間がボトルネックとなり、タスクが完了しないケースも多かったという。
「タスクが止まりがちな工程をAIがカバーしてくれることで、処理の完了率とスピードが飛躍的に向上しました」(鳥井氏)
さらに、AIエージェント自身がマニュアルの内容をメンテナンスし、アップデートしていく機能も備えており、業務の継続的な改善にもつなげることができる。
経済的な効果も明確だ。海外BPOでの業務処理にかかる人件費は1時間あたり約2,000円程度だったが、AIエージェントを活用することで、これをおよそ10分の1以下に圧縮できたという。
「高頻度業務でなくとも、大きなROIを見込める点は、今後の活用可能性を広げる材料になると期待しています」と鳥井氏は将来を見据える。
AIエージェントの可能性は、もはや“未来の話”ではないことが、おわかりいただけただろう。現場ではすでに確かな成果が生まれ始めているのだ。IBMの取り組みが示すのは、技術と業務が一体となることで、仕事そのものの価値が大きく変わっていくということでもある。これからの企業に求められるのは、AIとどう付き合うかではなく、AIとどう“共に働くか”なのかもしれない。
IBM Consulting Advantage
AIエージェントの構築、運用、管理を支援する包括的なソリューション
IBM watsonx Orchestrate