- 2026/06/16 掲載
日銀「利上げ」で景気は失速するのか? 物価高ニッポンが直面する“最大のジレンマ”
第一ライフ資産運用経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト。1995年早稲田大学理工学部工業経営学科卒業後、第一生命保険入社。1998年日本経済研究センター出向、2000年より第一生命経済研究所経済調査部、2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了、2016年より現職。2025年より内閣府経済財政諮問会議民間議員。著書に『新型インフレ』(朝日新聞出版)など。
最大の脅威は「スタグフレーションへの転落」
──歴史的な円安と中東情勢悪化による原油高が重なる中、今の日本経済が抱える最大のリスクは何でしょうか。永濱利廣氏(以下、永濱氏):スタグフレーションへの転落が最大のリスクです。具体的には、実質賃金がなかなか伸びない状況の中で、悪性インフレが定着し、個人消費が停滞してしまうことです。
通常、景気が悪いときは需要が足りないので、物価は下がりがちになります。ところが、今回のように原油高や物資不足といった外的ショックが起きると、景気が停滞しているにもかかわらず物価が上がる。これがスタグフレーションです。
そうなると、家計は将来不安から消費を節約します。中小企業も、原材料や物資が値上がりする。そして価格転嫁が十分にできなければ、収益が圧迫され、倒産が増える。結果として、景気がさらに低迷するリスクがあります。
──デフレに慣れた日本経済にとってインフレは良い兆候にも見えます。今の物価上昇をどう捉えればいいのでしょうか。
永濱氏:インフレそのものがすべて悪いわけではありません。良いインフレというのは、賃金が物価よりも上がっている状態です。経済が良くて物価が上がると、企業も儲かりやすくなり、人手も不足しやすくなる。そうなれば、物価の伸び以上に賃金が上がる。これは良い物価上昇です。
逆に悪いインフレは、輸入品の値上がりや供給不足によって物価が上がり、賃金が追いつかない状態です。企業にとってはコスト増ですから、業績が良くならず、結果として物価上昇ほど賃金が上がらない。
今の日本経済で見極めるべきなのは、物価上昇が賃金上昇を伴う好循環につながるのか、それとも家計と企業を圧迫する悪性インフレになるのかという点です。
物価高なのに利上げが難しい「本当の理由」
──物価高が続くなかで、日銀の利上げをどう見ていますか。永濱氏:どの側面から見るかによって評価が変わります。
利上げに前向きな立場からすれば、銀行などの金融機関の経営や金融仲介機能の回復という意味で、利上げは正当化されやすい。さらに、日銀の利上げが遅れているからインフレ期待が高まり、長期金利が上がっているという見方もあります。もしそうであれば、むしろ利上げをしたほうが長期金利が落ち着く可能性もあります。
一方で、利上げに慎重な立場もあります。実際のインフレ率は、足元では1%台半ばです。企業の倒産件数も増えています。そういう状況で利上げをして、景気を下振れさせていいのかという問題があります。
今の難しさは、利上げの影響を見極めにくいところにあります。単純に景気が良くて、需要が強くて物価が上がっているなら、金利を上げて景気を冷ますという考え方は分かりやすい。しかし、現在の物価上昇は原油高や円安、供給制約も絡んでいます。単純な需要過熱ではありません。
だからこそ、物価高だからすぐに利上げすればいい、とは言い切れないのです。
長い目で見れば、日銀が示す中立金利(景気を過熱も冷やしもせず、経済に中立的に作用すると考えられる金利)の水準を考えると、今の政策金利はまだ低い。したがって、さらなる利上げはほぼ確実だと思います。
ただし、問題はタイミングです。不確実性が高い局面で利上げをすれば、仮に利上げが直接の原因でなかったとしても、マーケットが崩れたときに責任を問われる可能性があります。もしこのタイミングで日銀が利上げをするなら、相当なリスクを覚悟したうえでの判断になると思います。 【次ページ】日銀が直面するもう1つの難題
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