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  • 2019/09/25 掲載

見込みユーザーすでに1500万超、「お役所ペイ」がやってきた

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「○○ペイ」が覇権争いを繰りひろげる“キャッシュレス戦争”。そこへ2020年度、遅まきながら参戦するのが「マイナンバーカード」と「自治体ポイント」を組み合わせて決済に使える、いわば“お役所ペイ”だ。政府はこれを地方のキャッシュレス化の切り札にしたい考えだが、果たしてそれは「最後にやってくる大物」なのか?

経済ジャーナリスト 寺尾 淳

経済ジャーナリスト 寺尾 淳

経済ジャーナリスト。1959年7月1日生まれ。同志社大学法学部卒。「週刊現代」「NEXT」「FORBES日本版」等の記者を経て、経済・経営に関する執筆活動を続けている。

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政府が新たに取り組む「お役所ペイ」の実態は?
(Photo/Getty Images)


キャッシュレス決済、国内市場は5年間で1.5倍に

 2018年から雨後のタケノコのように現れたスマホ決済の「○○ペイ」は、覇権(デファクト)奪取をめぐる“キャッシュレス戦争”の真っ最中。7月、「セブンペイ」がサービス開始早々にセキュリティ上の重大事件で撤退を決める一幕もあったが、10月の消費増税に伴ってキャッシュレス決済のポイント還元策が実施されることもあり、事前にユーザーを囲い込もうと各「ペイ」のサービス競争はますます激化している。

 中国の「Alipay」「WeChatPay」など海外で先行したキャッシュレス決済は、「現金王国」の日本でも今や成長のキーワード。矢野経済研究所が2019年4月に公表した「2019年版 国内キャッシュレス決済市場の実態と将来予測」によると、2018年度に82.2兆円だったキャッシュレス決済の市場規模は、2019年度は9.3%増の89.9兆円と見込まれ、2023年度になると1.5倍以上の126.1兆円まで拡大すると予測されている。

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国内キャッシュレス決済の市場規模の予測

 この数字にはクレジットカードもデビットカードも、「QUOカード」のようなプリペイドカードも「Edy」のような電子マネーも「おサイフケータイ」もすべて含まれる。矢野経済研究所が「注目トピック」として挙げるのがスマホで決済できる「QRコード決済」の普及だ。2018年時点で1500億円だった国内市場規模は、23年には2兆円を突破する水準まで拡大すると矢野経済研究所は予測している。

マイナンバーカード+自治体ポイントの官製「ペイ」

 この市場に2020年度、ニューフェースが登場する。それは、「マイナンバーカード」と「自治体ポイント」のシステムを組み合わせたものだ。クレジットカードや銀行口座から自治体ポイントをカードにチャージすれば、店舗などで支払いの際、「Suica」や「WAON」のようにプリペイド方式でのキャッシュレス決済が行えるようになる。

 現在、マイナンバーカードはICチップ内の「電子証明書」をICカードリーダーやスマホで読み取ることで、確定申告の電子申告(e-TAX)や子育て支援策などネットを介した公的な届け出や申請ができる。

 「自治体ポイント」は各市区町村が運営するポイント制度で、ボランティアなど地域活動に参加すると付与される。また、クレジットカードのポイントや航空会社のマイレージから移行もできる。すでに100を超える自治体で運用が試行されている。マイナンバーカード内の電子証明書とひもづけてクラウドで管理されるが、これをキャッシュレス決済に活用しようというのだ。

 マイナンバーカードは市区町村が発行し、自治体ポイントは自治体単位で管理するので、いわば“お役所ペイ”とでも呼べそうなキャッシュレス決済である。

 民間の「ペイ」のサービス競争が華々しいところへこんな官製「ペイ」が参入すると聞くと、意外に思ったり、「マイナンバーカードの保有者はまだまだ少ないので加盟店も増えないだろう」と過小評価したり、中には「民業を圧迫する」と問題視したりする人がいるかもしれない。だが、政府も自治体を管轄する総務省も、かなり本気だ。

本気で参入に取り組みだした総務省

 2018年6月15日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2018」では、6-地方創生の推進-(3)まちづくりとまちの活性化として、「マイナンバーカードと実証稼働中の自治体ポイントの活用によりクレジットカード等のポイントを合算し、地域におけるキャッシュレス化推進の仕組みを全国各地に導入・展開する」と盛り込まれていた。

 総務省は2019年7月、各市区町村に対し令和2年度(2020年度)の事業実施を前提に「自治体ポイントの発行準備に着手してください」と通知した。そのプラットフォームを運用する「マイキープラットフォーム運用協議会」への加入も要請している。

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総務省から各自治体への通達
(出典:総務省)

 そこでは、
・自治体ポイントはマイナンバーカードを活用した「デジタル商品券」で、住民がキャッシュレスで自治体ポイントを購入したら国費でプレミアムを付与する
・国費で運用する「マイキープラットフォーム」を活用するので自治体にはシステムの開発・改修経費やシステム運用負担金の負担を負わせない
・2019年度の自治体ポイント準備経費には全額、補助金を交付する
という内容が書かれていた。

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マイナンバーカードを活用した消費活性化策の事業イメージ
(出典:総務省)

 つまり、自治体ポイントのコストは国が全面的に負担する。財源面では事実上「国営ペイ」だと言ってもいい。総務省の通知によると、自治体ポイントは利用者が自分のマイナンバーカードに「マイキーID」を設定し、クレジットカードや銀行口座からチャージをすれば誰でも利用できる。プレミアムつきのポイントの利用は実店舗でもオンラインショップでも可能で、カードリーダー以外に「QRコード決済も可能にする」といい、カードのないスマホ版のマイナンバーカードも「必要な安全確保措置を踏まえて検討を行う」と、民間の「ペイ」との差をなくしていく方向だ。

 さらに、10月の消費増税対策の一環として“政府直営”の「マイナポイント」の構想が、2019年9月3日の第5回デジタル・ガバメント閣僚会議で明らかにされた。

 利用者はマイナンバーカード、「マイキーID」を取得した上で、「マイナポイント」にチャージすると、前払い分にプレミアム分が加算される。民間のキャッシュレス決済(「○○ペイ」)」と提携する予定で、その加盟店で買物をすると、スマホのQRコード決済でマイナポイントをその支払いに使えるというもので、2020年10月に始まり、プレミアム分は25%という案が有力だ。

 この通りになれば、東京五輪・パラリンピック後の2020年10月、マイナンバーカードと民間のペイのインフラを活用し、チャージの際に25%ものプレミアムがつく国営の“お役所ペイ”もスタートすることになる。

 

数字上ではあと数年で「日本最大のペイ」に?

 マイナンバーカードの発行は2016年から始まり、初年度は全国で984万枚を発行したが、その後は新規発行のペースが鈍り、2019年7月1日現在、累計発行枚数は1727万2307枚で、全人口に対する交付枚数率は13.5%となっている(総務省「マイナンバーカードの市区町村別交付枚数等について」8月31日発表)。 

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マイナンバーカードの累計発行枚数の推移

 現状の「13.5%」を「少ない」と評価し、政策の失敗と批判する声は少なくない。だが、マイナンバーカードの7月現在の「累積発行枚数1727万枚」は、果たして少ないとみるか? 多いと見るか?

 主なQRコード決済サービスの国内登録ユーザー数は、「LINE Pay」は3000万人以上とされているが、「PayPay」は8月に1000万人を突破したばかりで、「楽天ペイ」は非公表。「メルペイ」はまだ200万人程度である。「PayPay」は1カ月に約100万人というハイペースで登録ユーザー数を伸ばしているが、それでもまだマイナンバーカードの累積発行枚数には追いついていない。「1727万枚」は、民間の「ペイ」の大手と互角にわたりあえるようなボリュームがある。

 マイナンバーカード発行初年度の2016年度の政府目標で未達成に終わった「3000 万枚(人口に対する交付枚数率23%)」は現状の約1.7倍だが、2018年の新規発行約264万枚のペースなら単純計算で2024年半ばには達成できる。新規発行のペースが加速すれば「LINE Pay」の公称3000万ユーザーを数年で抜き、「日本最大のペイ」になりうる。

 9月3日に公表された政府の想定では、2020年7月末に3000~4000万枚、2021年3月末に6000~7000枚、2022年3月末に9000~1万枚、2023年3月末に「ほとんどの住民がカードを保有」となっている。

 事あるごとにお役所仕事を批判し、「電電公社→NTT」「国鉄→JR」「郵政省→日本郵政」の民営化を経験してきた日本人には、「官は非効率。民には勝てない」という共通認識めいたものがある。しかし、少なくとも数字の上では、マイナンバーカードを利用する“お役所ペイ”は「遅れてきた大物」と言っても決してオーバーではないほどの潜在力を秘めている。もちろん、それを生かすも殺すも「やり方次第」なのだが……。

【次ページ】若年層不足というマイナンバーカード特有の課題

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