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- 2019/12/05 掲載
シンガポールの金融当局最高責任者が語る、ブロックチェーンを“積極採用”するワケ
「改革推進派」が規制値当局にいる意味
日本の金融庁に相当するシンガポールMASに勤めるモハンティ氏。同局で開発戦略や公共インフラストラクチャなど技術革新に関する規制政策の策定を担当する同氏は、フィンテック領域の思想的なリーダーとしても国際的に評価されている人物だ。現在、シンガポールMASではフィンテック領域に総額70億円相当の投資を計画しており、すでに10億円相当が投資されている。カナダドルとシンガポールドルで国境を超えた取引を進めようと考えており、現在のインフラから次のインフラへ切り替えるに当たっては、ブロックチェーンを利用する予定だという。
「伝統的な国際送金手法としては、国際決済機関にオンライン接続している“コルレスバンク(外国送金の際に、その通貨の中継地点を担う銀行)”を経由したフローが採択されてきた。これをブロックチェーンに代替する予定」とモハンティ氏は説明する。
政府や銀行が推進するスマートなフィンテック
Myinfoは、政府が設計した個人情報管理サービスだ。IDには「氏名」「性別」「生年月日」「住所」などの個人情報がひも付き、個人がその共有範囲を制御できるようになっている市民データAPIだといえる。同国では政府が主導となり、GDPR(EU一般データ保護規則)に端を発する、昨今の個人情報利用問題にも迅速な対応を実施している。
PayNowは、シンガポールにある9つの金融機関が参加する個人間送金サービスだ。2017年7月10日に受付が開始されたPayNowは、小売顧客に無料で提供され、年中無休で利用できる。
PayNowでは、参加銀行の小売顧客が携帯電話番号や同国の身分証明番号「NRIC/FIN」を使用して、口座振替サービス「FAST」を介してシンガポールのある銀行から別の銀行にシンガポールドルをほぼ瞬時に送受信できるようにしている。PayNowを介して送金する場合、送信者は受信者の銀行と口座番号を知る必要がない点が特徴である。
「伝統的な商業銀行は古い決済システムを持っていて、他行宛ての送金というのは随分難しいフローであった。今では電話番号が分かれば、無償かつリアルタイムで送金が可能になる」(モハンティ氏)
モハンティ氏は、これらサービスの開発においては信頼のおけるサードパーティの選定に非常に気を配っていると言う。「シンガポールは、着実にフィンテックのハブとなってきた。信頼を得ることこそ拡大の要である」との見解を示す。
このように、フィンテックを推進し、ブロックチェーンの金融システムへの実装を目指すモハンティ氏だが、何を重視して仕事を進めているのだろうか。同氏は、MASで任されたプロジェクトを推進するに当たり「人材」「システム」「インフラ」の3つの要素が重要だと感じているという。
「私1人だけではこの改革を行うのは無理だと感じた。優秀な『人材』の助けが要る。開発者やユーザーなど業界のプレイヤーたちと横連携できる『システム』が必要だ。さらにIDやデータといった、国の公共財である『インフラ』を政府がしっかりと管理することが重要」(モハンティ氏)
【次ページ】ブロックチェーンにしか実現できないこと
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