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  • 2021/01/18 掲載

金融庁が推進を続ける「デジタライゼーション」の意義、その支援策を解説

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ネット経済が実物経済を上回るほど成長する中で、伝統的な金融機関は「デジタルバンク」への変革が求められている。新型コロナウイルスによる人々の行動や価値観の変容や、パラダイムシフトに適合した新たな銀行のあり方とは何か。金融庁の政策立案総括審議官である井藤 英樹氏が語る「金融デジタライゼーション戦略の動向」を解説する。

フリーライター 吉澤亨史

フリーライター 吉澤亨史

元自動車整備士。整備工場やガソリンスタンド所長などを経て、1996年にフリーランスライターとして独立。以後、雑誌やWebを中心に執筆活動を行う。パソコン、周辺機器、ソフトウェア、携帯電話、セキュリティ、エンタープライズ系など幅広い分野に対応。

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金融庁の政策立案総括審議官である井藤英樹氏
(出典:日本金融通信社 主催「デジタルバンキング展」)

※本記事は、2020年12月17日から18日に行われた、日本金融通信社の主催によるイベント「デジタルバンキング展(Digital Banking Transformation:DBX2020)」での講演内容をもとに再構成したものです。


デジタライゼーションを重視した行政方針

 現在、デジタル化は金融を含めたあらゆるビジネスで継続的に進み、一昔前では“夢物語”だった機能が社会実装され始めている。デジタライゼーションによって金融機関を含む事業者(以下、金融機関など)は、今あるサービスをより便利に提供することや、新たなサービスの提供が可能になる。また、金融以外の情報と連携することでより新しい発想のサービスも提供できる。

 こうした状況について金融庁の政策立案総括審議官 井藤 英樹氏は、2020年8月に公表した金融行政方針を紹介。「金融デジタライゼーションを政策課題の1つとして大きく掲げている」と説明した。イノベーティブなサービスの多くは決済など金融と親和性が高いため、革新的なサービスへの対応は金融庁としても大きなテーマであるという。

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金融庁が掲げた3つの重点課題
(出典:金融庁「令和2事務年度 金融行政方針」2020年8月31日)

 金融行政の究極の目的は「国民の福利厚生のレベルを上げていくこと」と井藤氏は語る。デジタライゼーションを取り入れた先進的でよりよいサービスは、国民生活をより便利にする。一方、こうした新たなサービスは既存のサービスの収益を奪うこともある。これが金融機関などで発生してビジネスを失っていくことは、金融庁としても好ましい姿ではない。

 井藤氏は、「ぜひ、技術の可能性を新たな収益機会にできるよう自ら取り組んで欲しい」として、利用者にとって利便性の高い新たな金融サービスが好循環の中で生まれてくることに期待しているとの思いは金融庁も同じである点を強調した。また、新たなテクノロジーを使ったフィンテック企業などの例を出しながら、「金融庁に新たなテクノロジーを抑えるような発想はない」と繰り返した。

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金融行政方針の概要
(出典:日本金融通信社 主催「デジタルバンキング展」発表資料)

金融機関だけでなくフィンテック企業との対話を進める

 井藤氏は金融行政方針の1つ目として「デジタルイノベーションの支援」を挙げた。具体的な支援策には「FinTech Innovation Hub」「FinTechサポートデスク」「FinTech実証実験ハブ」がある。 

 FinTech Innovation Hubは、フィンテックに関する最新トレンド・状況を把握し今後の金融行政にも役立てていくことを目的に、2018年7月に設立した組織である。具体的な活動として、情報収集とイノベーション促進のための「100社ヒアリング」や、フィンテック関連のステークホルダーと連携する機会の提供、新たなコンサルテーション環境の構築などを目的に、フィンテック・サミットやミートアップを開催している。金融庁との接点を増やすことで、フィンテック企業との意識上の溝を埋めようという狙いもあるという。

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FinTech Innovation Hubの概要
(出典:日本金融通信社 主催「デジタルバンキング展」発表資料)

 FinTechサポートデスクは、2015年12月に開設。フィンテック企業の相談にワンストップで対応する相談・情報交換窓口として、2020年9月までに受けた1180件の問い合わせに対応した。主に、既存の法令に触れないかといった法令解釈や、個別事業のガイダンスなどの相談を受けることで金融イノベーションの促進を狙っている。役所や行政の標準処理期間が1カ月と言われる中で、平均5営業日以内で対応していることも特徴的だ。

 FinTech実証実験ハブは、フィンテック企業や金融機関が前例のない実証実験を行おうとする際に抱きがちな躊躇や懸念を払拭するための取り組みである。明確性や社会的意義、革新性、利用者保護、実験の遂行可能性などの観点から支援の可否を判断する。また、個々の実験ごとに、金融庁内に具体的にカウンターパートとなるチームを組成し、必要に応じて関係省庁とも連携して、フィンテック企業や金融機関が実証実験を実現できるよう支援する枠組みである。

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FinTech実証実験ハブの概要
(出典:日本金融通信社 主催「デジタルバンキング展」発表資料)

 井藤氏は今後の取り組みとして、FinTech Innovation Hubが地域のスタートアップ集積地へ赴き、FinTechサポートデスクや実証実験ハブの「出張相談・サポートサービス」や、地域におけるフィンテック企業などとの「ミートアップを通じた対話型イベント」を検討しているとした。

BG2C、BGINなど分散型金融システムへの取り組み

 金融行政方針の2つ目は「分散型金融システムへのアプローチ」である。金融庁では、ブロックチェーンなどの技術は金融のさまざまな分野をはじめ金融以外の隣接部分、あるいは情報システムとしても有用な可能性があると認識している。一方で分散型金融システムのリスクを管理する必要があり、そのためのガバナンスの重要性についての認識を「G20」で共有したこともある。

 続いて井藤氏は「分散型金融システムを取り巻く諸課題」の図を示した。仲介機関が不要となりえる分散型金融システムでは、従来型のエンティティ・ベースの規制アプローチでは消費者保護などの規制目標の達成が困難になるケースも想定される。

 「規制当局」「エンジニアコミュニティ」「ビジネス」のそれぞれ、またいずれの連携においても課題があるため、まずは中立的な議論の場を提供するべく、「ブロックチェーン・グローバル・ガバナンス・カンファレンス(BG2C:Blockchain Global Governance Conference)」をこの3月10日に開催している。

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分散金融システムを取り巻く諸課題
(出典:日本金融通信社 主催「デジタルバンキング展」発表資料)

 これらを受けて、2020年3月にグローバル・ネットワーク「BGIN(Blockchain Governance Initiative Network)」が設立された。これはブロックチェーンコミュニティの持続的な発展のために、すべてのステークホルダーに共通の理解の醸成や直面する課題解決に向け、オープンかつ中立的な場を提供するというもの。さまざまなステークホルダーが参加しており、金融庁も初期メンバーとして2人が運営に関与している。

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BGINの概要
(出典:日本金融通信社 主催「デジタルバンキング展」発表資料)

 BGINの当面の活動目標として、「オープンかつグローバルで中立なマルチステークホルダー間の対話形成」「各ステークホルダーの多様な視点を踏まえた共通な言語と理解の醸成」「オープンソース型のアプローチに基づいた信頼できる文書とコードの不断の策定を通じた学術的基盤の構築」を挙げている。この、2020年8月にはBG2Cのカンファレンスも開催している。

【次ページ】デジタルイノベーションを支える環境整備への取り組み

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