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  • 2025/07/30 掲載

なぜドルが強くなる? ステーブルコイン法にみる「米国の思惑」と日本「4つの検討項目」

FINOLABコラム

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米国でステーブルコインの包括的なルールを定めた「GENIUS ACT(ステーブルコイン法)」が正式に成立した。この法律は、暗号資産分野では異例の超党派合意で実現したが、その影響は米国債の需給、ドルの国際的地位、さらには中央銀行デジタル通貨(CBDC)戦略にも波及する。一方で、法制度では先行した日本が、実装段階では米国に後れを取っている現状も浮き彫りとなった。本記事では、法案の骨子と実施スケジュール、金融市場への影響、日本の対応の方向性までを多角的に読み解く。
執筆:FINOLAB Head of FINOLAB 柴田 誠

FINOLAB Head of FINOLAB 柴田 誠

FINOLAB設立とともに所長に就任。東大経済学部卒、東京銀行入行、池袋支店、オックスフォード大学留学(開発経済学修士取得)、経理部、名古屋支店、企画部を経て1998年より一貫して金融IT関連調査に従事。2018年三菱UFJ銀行からMUFGのイノベーション推進を担うJDDに移り、オックスフォード大学の客員研究員として渡英。日本のフィンテックコミュニティ育成に黎明期より関与、FINOVATORS創設にも参加。

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「ステーブルコイン法」にみる米国の思惑とは?
(Photo:IAB Studio / Shutterstock.com)

米国ステーブルコイン法が成立

 米国の議会で審議が進められていたいわゆる「ステーブルコイン法」(GENIUS ACT: Guiding and Establishing National Innovation for U.S. Stablecoins Act)は2025年6月17日に上院で可決された。この後、同7月17日に下院で可決され、翌日にはトランプ大統領が署名したことによって、正式に法律として成立することになった。

 法定通貨や米国債による裏付けを義務付け、発行体や保管業者に厳格な監督基準を課すこの法律について具体的な内容を確認しよう。

法案の内容とは? ステーブルコインの定義やスケジュール

 協和・民主という党派を超えた賛成に得て成立した法案は、以下のような具体的な内容となっており、これまで曖昧(あいまい)であった定義や規制の内容及び消費者保護の方針が明確に示されることになった。

■ステーブルコインの定義
 ステーブルコインは、法定通貨である米ドルまたは米短期国債・中央銀行預金などの流動資産によって価値が裏付けられ、等価で償還可能なデジタル資産と定義される。

 Terraが裏付けとなっていた暗号資産LUNAの価格下落により破綻した例もあったが、法定通貨や国債など安定した価値以外の裏付けはステーブルコインとして認められない。

 ステーブルコインは証券、預金、銀行負債には該当するものではない。

■発行者の資格
 ステーブルコイン発行は以下の「認可発行事業者(Permitted Payment Stablecoin Issuer)」に限定される。

  • 通貨監督庁(OCC)に認可された以下の機関:
    • 預金保険対象の金融機関(銀行、信用組合など)
    • 連邦認可のノンバンク発行者
  • 財務長官が連邦基準以上と認定した州制度下の認可事業者
  • 外国事業者も、米国と同等の規制体制の下で監督され、米国の規制に書面で同意する場合に限り販売可能

■健全性基準
  • 認可発行者
    • 発行された全ステーブルコインの価値を全額裏付けする預金や米国短期国債などからなる準備金を積む必要がある。
    • 明確な償還方針を公表しなければならない。
    • 準備金の月次構成を開示する必要がある。
    • 発行ステーブルコインを裏付けに別のステールコインを発行する再担保は禁止される。
    • 準備金の報告義務について虚偽報告には刑事罰が科せられる。
    • 資本、流動性、運用リスクに関する規制当局の基準を遵守する必要がある。
    • AML/制裁遵守体制の構築が求められ、
    • 破産時にはステーブルコイン保有者に対して準備資産に関する優先債権者地位が付与される。

  • 保管(カストディ)業者
    • 監督当局による監査と運用情報の提出が義務づけられる。
    • 顧客資産の自己資産との分離保管が必須となる。
    • 破綻時には顧客の優先権が確保される。

■規制監督の実施
  • 規模に応じた規制監督
    • 発行残高が100億ドル超の発行者は連邦監督が必須となる。
    • 100億ドル以下の発行者は州による監督を選択可能である(ただし州は財務長官の認証を必要とする)。

  • 発行者に応じた規制当局
    • 銀行・信用組合
      • 全国銀行:通貨監督庁=Office of the Comptroller of the Currency (OCC)
      • 州加盟銀行:連邦準備銀行=Federal Reserve Bank(FRB)
      • 州非加盟銀行:連邦預金保険公社=Federal Deposit Insurance Corporation(FDIC)
      • 信用組合:信用組合監督庁=National Credit Union Administration(NCUA)

    • ノンバンク事業者
      • 通貨監督庁=Office of the Comptroller of the Currency (OCC)

  • 規制当局の執行権限
    • 規則の制定
    • 発行者の申請処理
    • 調査、停止命令、ライセンスの取り消し
    • 民事罰の裁可

■実施スケジュール
 成立後18カ月または規制施行後120日のいずれか早い時点で本格施行(2026年11月頃) の予定である。

 発行者など関係者は成立から1年以内に詳細規則(資本・流動性・サイバーリスク等)を通知・公表し、6カ月以内に実施報告を行う。

 国務長官による非米発行者の現地審査制度の整備には最大1年、相互承認枠組みの導入は2年以内に実施する予定である。

 2028年7月以降、認可を受けていないステーブルコインを販売する業者は違法行為として処罰対象になる。

画像
ステーブルコインの1つUSDT
(Photo/Shutterstock.com)
【次ページ】法案成立の影響「3つのポイント」、日本が検討すべき「4つの項目」
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